バンクーバーで最も人気の観光地の一つガスタウンにある雑貨屋さん「GIFTS AND THINGS」。中に入るとかわいいグッズがズラリと並ぶ。しかもただかわいいだけではない、そこには一つのテーマがある。「環境に優しい商品」だ。
以前は観光客がメインの「お土産物屋さん」だったが、現在は、「日本の雑貨屋さん」のようなお店を目指し、ディスプレイも意識する。そこに並んでいるのは若者や環境問題に敏感なバンクーバーの人々に響くエコグッズ。
「生活の中にエコグッズを取り入れてほしい」と、雑貨屋さんGIFTS AND THINGSの思いを込めている。
GIFTS AND THINGSの一押し商品は「エコグッズ」
「当店での一押しグッズは」と紹介してくれたのは吉岡奈央さん。手に持っているのは、ビーズワックス(蜜蝋)ラップとディッシュクロス。
ビーズワックスはサランラップと同じ使い方ができるという。ただサランラップと違って熱に弱い。「電子レンジで温められないんです。あと、洗う時には冷水で洗わないと溶けてしまします」と説明する。「ほかの食器と一緒にお湯で洗ってしまったことがあって」と笑いながら体験談を話した。
もう一つはディッシュクロス。使い捨てのキッチンペーパー代わりに洗って何度も使えるのが特長。さらに吉岡さんによると「なんにでも使える万能クロス」という。洗った食器を置いたり、水回りの掃除に使えたり。乾燥も速く、すぐに使えるという優れもの。デザインもかわいいものが多く、「当店一押しエコグッズです」と太鼓判を押した。
店長の久保ゆうやさんは「少しでもプラスチックを使用していない商品を探して、企業が『うちの商品はプラスチックフリーで作っています』というところは積極的にコンタクトを取ってお店に置けるようにしています」と話す。
グリーティングカードやパズルもその一つ。「チョイスがあるならば、少しでもプラスチックを使っていない商品をというお客様に満足して選んでもらえる商品を揃えています」
若者のトレンドや環境問題への意識が高いバンクーバーの人々のニーズを敏感に捉えて「お客さまが求めている環境を作りたいなって思っています」と話した。
楽しく働ける環境で
吉岡さんは、もともと「雑貨屋さん巡りが趣味」で、どこにいても休みの日には雑貨屋さん巡りをしていたという。「とにかくかわいいものに囲まれて働きたいという希望があって」
バンクーバーに来る前にはワーキングホリデーで2年間イギリスに滞在。その後、日本に帰ったが、「イギリスでの生活は日本と違い、風通しがいい環境で2年間働くことができて、居心地よく自分らしく生活できたこともあって、もう一度海外で生活してみたいなというのがありました」と振り返った。
日本では、大学卒業後に一度就職して働いていたがあまり適応できなかった。そこで、ある時にイギリスへのワーキングホリデー応募を決断、運よく当選したことが転機となった。
そもそも英語に興味を持ったのは中学校に入って英語の授業でALTの先生と初めてコミュニケーションを取った時。「刺激を受けました」と笑う。そんな時に図書館で見つけたのは「赤毛のアン」。「初めて読んでこういう世界があるんだって思って、感動して」。少しずつ海外に興味を持つようになり、大学では英語を専攻。そして、英語圏でイギリスの次の海外生活を考えたときに、学生時代の「赤毛のアン」に出合った思い出がよみがえった。
現在はバンクーバーで希望通りの雑貨屋さん勤務。「楽しいです」と笑顔を見せた。
店長を務める久保ゆうやさんもワーキングホリデーでカナダに。日本で勤めている時に仕事で海外に行くチャンスがあったが、英語でのコミュニケーションに「少し自信がなく、英語を勉強したいなと思って」。カナダかオーストラリアかの2択で、来たことがなかったカナダを選んだ。
日本で小売業を経験したいたことを活かし、バンクーバーでも小売業で仕事を探している時に求人で見つけ、応募。現在は店長を任されている。新型コロナウイルス感染拡大で客足が途絶えた時期も店長として「ピンチをチャンスに」変えて乗り切った。
「以前は観光客がメインのお店だったんですけども、ローカルのお客さんと観光客のお客さんの両方に来ていただけるように、毎週違う商品を並べてディスプレイも新しく変えて、ワクワクっていうか、色々見て回れる楽しいお店にしたいなと思っています」
カナダでのエコ意識を日本でも広めたい
GIFTS AND THINGSを経営するCrescent Moon Enterprises Ltd.のオーナー佐藤広樹さんがカナダでギフトショップを始めたのは1998年。バンクーバーから近いスキーリゾートとして有名なウィスラーにSMILE GIFTを開店。2店舗目となるGIFTS AND THINGSは2008年4月に営業を開始した。
20年以上の店舗経営で感じたのは、カナダの人たちの環境に対する意識の高さ。「開業した1998年当時でも、環境に対する心掛けがすごい」という印象を持っているという。「当時からビニール袋をいらないというお客さんがいたり、資源を無駄にしない心掛けとかをたくさん目の当たりにして、カナダの人の環境に対する意識の高さを感じていました」
その思いは今でも変わらない。だから、それを日本でも紹介したいと現在は東京でも活動している。都内のショッピングセンターでカナダのエコ活動を紹介する環境問題の啓発イベントを開いたり、一般社団法人「東京のCO2削減で都内観光を推進する会」を立ち上げたり、積極的に活動。その中で、カナダ式蜜蝋ラップの作り方講座も開いている。実際に自分でエコグッズを作って、より身近に環境保護を感じてもらい、生活の中に取り入れてほしいという。講座は人気で、参加した人たちは、メモを取ったり、動画を撮ったりして、「うちに持ち帰って広めてもらえているかなと思っています」と期待している。
日本では、できるだけ安いものを買って使い捨てという習慣がまだ抜けきれず、生活の中で「エコにまで気持ちが回らないのかな」と感じることが多いという。
それでも、地道だがこうしたイベントを通じて伝えていけば「色々な方法で啓蒙できると思うんです」と手ごたえも感じている。決して環境問題に興味がないわけではない。最近ではSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という言葉が浸透してきて、知識として知っている人も増えている。あとはどのように体感して実践していけるか。
「(日本でも)入り口までは来ていると思うんです。ただ、実践方法を伝えるところが足りていない。そこを使命感を持って伝えていきたい」と静かに語る。「要するにもう知っていたり、(環境問題が)大変だという感覚はあるけど、どうしたらいいかわからない。そこを伝えたい。それが伝われば、知識として知っている環境問題をどうすればいいのか、危機的な状況、2030年までにSDGsを成し遂げなければいけないという事実に対してどう対応すればいいのかを、分かってもらえると思うんです。だから、日常生活で手に入るエコグッズを使う機会を持ってもらって、カナダの人が生活の中で取り入れていることを日本に広げて、カナダと日本を繋げながら地球にいいことを少しでもできるように力を入れていきたいと思っています」
カナダでの店舗経営を通じて生活にエコを取り入れる大切さを発信したいという佐藤さんの思いが、店舗での商品選びや東京での活動につながっている。
GIFTS AND THINGSは、ガスタウンという絶好の観光スポットで、「お土産物屋さん」から日本の雑貨屋さんへ、そして環境問題を発信する拠点へと進化している。そこには佐藤さんと思いを共有する若い人たちの力が活躍している。「若い人たちがどこまでやりたいか、経営者の立場として、見守っていきたいな、応援したいな、できることはしたいなと思っています」
個人でできること、企業・団体ができること、そして、行政ができること。三位一体となって環境問題に取り組んでいくことが、カナダでも、日本でも、重要だと感じている。
GIFTS AND THINGS
Crescent Moon Enterprises Ltd.が経営するギフトショップ。2008年にSmileys Giftとして開店。2020年にGIFTS AND THINGSに。
さまざまな雑貨を中心に販売。特に環境に優しい商品のラインナップに力を入れている。ウィスラーのSmile Giftは姉妹店。
住所:359 Water Street, Vancouver, BC
TEL:604-932-0155
営業時間:11:00 am – 8:00 pm
ウェブサイト:https://www.giftsandthings.info/
インスタグラム:https://www.instagram.com/giftsandthings.ca/
佐藤広樹(さとう・ひろき)
Crescent Moon Enterprises Ltd.オーナー・代表取締役
1998年ウィスラーにSMILE GIFT、2008年バンクーバーにGIFTS AND THINGSを開店
2023年3月設立、一般社団法人「東京のCO2削減で都内観光を推進する会」代表理事(https://www.tokyo-co2.com/)
東京都足立区出身
(写真・動画 斉藤光一/記事 三島直美)
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