トロント国際映画祭で「ほかげ」上映「戦後も続く戦争が人々に与える苦しみを描く」塚本晋也監督インタビュー

トロント国際映画祭で「ほかげ」が上映された塚本監督。2023年9月11日。トロント市。Photo by Michiru Miyai
トロント国際映画祭で「ほかげ」が上映された塚本監督。2023年9月11日。トロント市。Photo by Michiru Miyai

 トロント国際映画祭TIFFで、塚本晋也監督の最新作「ほかげ(英語題 Shadow of Fire )」を上映。最優秀アジア映画賞を受賞したベネチア映画祭の直後に現地入りした塚本監督が、取材に応じ作品についての思いなどを語った。

-トロントの前にベネチア映画祭での上映がワールドプレミアでした。会場の反応はいかがでしたか。

塚本-この作品はものすごいインパクトを持って戦争を伝えるというのではなく、これからの世界が少しでも平和でありますようにと祈りを込めた映画。その祈りが静かに伝わったというような感触を受け、とても手応えを感じました。

-監督は海外の映画祭には積極的に出品していらっしゃいますが、どういった理由からでしょうか。

塚本-初めて海外の映画祭に出た時にとてもよい時間を過ごせたのが大きいと思います。日本国内で完結すると思って作った自分の映画を、外国の観客が(日本の観客と)同じような熱狂的な目でスクリーンを見ている、というのがすごくうれしかったんですね。また、世界中の尊敬している監督や俳優にばったりと会えたりする機会でもあるのと、あとは(観客の)最初のリアクションを目の前で見れるので、大事な場だと思っています。

 「ほかげ」は終戦後、生き残った人々が必死に生きようともがく様子を一人居酒屋で体を売って生きる女性(趣里)、食べ物を盗みながら生きる戦争孤児(塚尾桜雅)、片腕が動かない謎の男(森山未來)、若い復員兵(河野宏紀)らを通して描く。塚本監督は「前作の『斬、』、『野火』で人を殺めることの恐ろしさを描いた。今作では、終戦直後の闇市の世界を通して、再びこのテーマに挑む」と話す。

-今回戦後を舞台とされたのはどうしてでしょうか。

塚本-僕自身は戦争が終わりたった15年で生まれたのに、戦争の面影は感じずに育ったんです。自分が生まれたときの足元の地面と戦争があった地面を繋げたい、実感したい、という思いがずっとあったわけです。幼少のころ、渋谷のガード下でシートの上に並べて売られるガラクタや傷痍(しょうい)軍人さんを見かけたのが、今思えば終戦後の闇市の微妙な片鱗を子どもの時に見たのだと思い、闇市を通して戦争があったということを実感し、戦争を身近に感じたいという個人の目的もあり戦後をテーマにしました。

-映画では戦争で生き残った人が、絶望と闇を抱えながら生きる様が描かれています。

塚本-戦争が終わったら皆「よかったー」と太陽に向かって言っているように思っていたんですが、実は戦争が終わっても終わっていない人が大勢いた。それを描かなければ、と思ったんですね。

-戦後も続く復員兵たちの苦しみの描写も多くあります。

塚本-若い人は目の前に平和があり戦争と言ってもピンとこないと思うんです。戦争があると普通の人がこうなってしまう、というのを実感して怖いと思ってもらいたい、というのはありました。

-「ほかげ」というタイトルに込めた思いを教えてください。

塚本-「野火」は戦争の火と生活を営むための火という意味でした。「ほかげ」は戦争の火とその陰で生きる人たちというような意味と、部屋の中に灯した小さな火のゆらぎの影のなかで生きる主人公たち、という意味から決めました。

-最後にこの映画を観る人にメッセージをお願いします。

塚本-これからの世の中を生きる次の世代の人たちが良い時代を生きていけるように、という祈りの気持ちが観てくださる方にも届いたらよいと思っています。

 終戦後も苦しみや悲しみを人々に与え続ける戦争。日本では戦後80年近くも平和が続いているが、世界の各地では今も戦争が起こっている。塚本監督は「世界状況の緊迫感から、この映画は今作る必要があると感じた」と話した。全ての世代に観てもらい戦争のむごさを改めて考えてほしい作品だ。

「ほかげ」

監督・脚本:塚本晋也
出演:趣里、森山未來、塚尾桜雅など

モントリオールで10月4日から開催のFestival du Nouveau cinemaで上映予定。
バンクーバーでの上映は未定。

ストーリー:女は、 半焼けになった小さな居酒屋で1人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供がいる。 闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになり…。(公式サイトより)
公式サイト: https://hokage-movie.com/

「ほかげ」より。Courtesy of TIFF
「ほかげ」より。Courtesy of TIFF

(取材 Michiru Miyai)

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