日本語教師 矢野修三
明けましておめでとうございます!今年は辰年、何卒幸せ多き年になりますように。
昨年末から日本語が大好きな大学生に、オンラインで日本語を教え始めた。彼は上級レベルを目指しており、やる気満々。とても教え甲斐がある。とりあえず週に一回、何曜日にしようか、と電話で打ち合わせた。彼の能力を試す目的もあり、ワザと意識的に「なに曜日がいいかな?」と「なに」を強めて繰り返した。
すると、さすが日本語大好きなW君。最初の授業のとき、「なに曜日」と「なん曜日」はどう違いますか、との質問があり、うれしくなった。
この「何」の読み方は「なに」と「なん」と二つあり、特に中上級レベルの生徒は気になる。「何時・何日・何月」などは「なん」だけだが、確かに「何曜日」は両方使える。するとその違いは、「なに曜日」のほうが丁寧な感じなので、お客様などには「なに曜日がよろしいでしょうか?」であり、友達には「なん曜日がいい?」と、とりあえず彼に説明した。
しかしこの単語はどっちも同じ意味なので大した問題ではないが、例えば「何県」は「なに県」と「なん県」とで意味が変わってしまうので厄介である。でも日本人は文脈から容易に判断できるのでノープロブレム。「出身は何県ですか」であれば「なにけん」であり、「東北地方には何県ありますか」であれば「なんけん」と、すぐ分かる。
こんなこと我々日本人は考えたこともないが、うーん、ちゃんと使い分けている。当たり前だが、さすが母語、すごい。でも生徒にとってはかなり難しく、教える先生もしんどい。
さて、表題の「何で帰るの?」だが、「ナニで帰るの?」であれば手段だと分かり、「もう遅いから、タクシーで」こんな会話が。でも「ナンで帰るの?」であれば、状況にもよるが、大半の人は「なぜ帰るの?」と理由を聞かれたと思い、「カラスの勝手でしょう」とでも言いたくなる。
しかし方言や個人差そして言いやすさなども絡んで、この「ナンで帰るの?」を手段の意味として使う人も少なからずおり、そんな場合は当人同士、意味の取り違いで一悶着起きる場面も・・・。そんな訳で、会合やパーティーなどにおける、この「何で帰るの?」はタブーなり、と話題になった、はるか昔のサラリーマン時代を思い出した。
そこで上級者には、「何」は日本人でもややこしいので何が何でも、何から何まで、何としても理解するぞ、などと思い込まず、何となくゆっくり体で覚えてと、言い含めている。こんなクイズを楽しみながら・・・、「虹は全部で何色?」や「虹の一番外側は何色?」など、楽しく学ぶのが一番。It’s important to have fun while learning.
されど、何にせよ、この「何色」などの「何」を教えるのは日本語教師として難色を示したい。ところでこの「難色」は何色なの?
「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら。
矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)
メール:yano@yanoacademy.ca
ホームページ:https://yanoacademy.ca