みなさん、こんにちは。
4月28日未明のサイバーアタックによってロンドンドラッグス全店のコンピューターシステムが全てダウンしたため、一時的な閉店を余儀なくされました。営業再開は未定の状況です。すでにメディアを通じて各方面に状況が伝わっているかとは思いますが、もしも至急リフィルの薬が必要な場合には、他の薬局で薬を購入するようにしてください。
ここからはいつものコラムになります。今回は最近日本で話題になった一つのニュースを紹介します。もちろん薬局に関する話ですが、要点をまとめると、お笑いコンビ「かまいたち」の2人(山内健司さんと濱家隆一さん)が、「薬局でイライラする瞬間」として、医師に処方された処方せんをもって薬局に行った際、薬剤師から様々な質問を受けることを取り上げました。医師の診察と重複するような質問は不要であると感じ、また薬剤師は医師への憧れがあるのではないかと述べました。この発言には各方面から非難が集まり、濱家さんはその後謝罪されました。
皆さんの中にも少なからず同じように感じたことがある方もいるかもしれませんが、一人の薬剤師として理由を一言で説明すると、薬剤師は間違えないようにしてるだけなのです。医師への憧れから質問するわけではありません。
5R(Right patient, Right Medication、Right Dose、Right Route、Right Timing)
薬局の世界には5Rという概念があり、これは正しい患者さんに、正しい薬物を、正しい投与量を、正しい経路で、正しくお薬を使用してもらうというものです。とても当たり前のことのように聞こえますが、人間がやっていることなので、意図せずして人為的なエラーが発生することがあります。医師が処方せんを発行する時点で患者さんの名前、薬、用量が正しくないこと、アレルギーや他の薬との重複や相互作用が見つかることもあります。処方せん通りにお薬を用意すればよいというものではないのです。もっとも薬局側でも、現行のルールでは処方せんの内容を全て手入力しますから、あらゆるエラーを防ぐための努力が必要なのです。
BC College of Pharmacists(BC州の薬剤師の規制機関)は、薬剤師が新規処方せんについてカウンセリングを行う際に毎回確認・説明するべき項目を挙げており、これらは患者さんの本人確認、薬の名称と規格、 使用目的、服用方法と頻度、服用期間、薬物療法上の問題の有無とその回避方法、副作用や相互作用が発生した場合の対処法、薬の保管方法、リフィルの回数、薬物治療の経過をモニターする方法、期待される効果、薬を飲み忘れた場合の対処方法、医師のフォローアップを受けるタイミング、その他患者さんの特性によって重要と考えられる内容となっています。
薬局スタッフがどんなに気をつけていても、人為的エラーは起こります。ご自分以外の名前がラベルに書いてあったり、薬の色や大きさ、用量がいつもと異なる場合や、薬を服用したことで急に具合が悪くなった場合には、いつでもスタッフに聞いてほしいと思います。
以下、具体的な事例を紹介します。私の娘が3歳の時に救急外来を利用し、処方せんをもらって家に帰ろうとしたら、違う人の名前のシールが貼ってあったことがあります。その時点で、処方薬と用量があっているかどうかも疑わしかったため、病院を出る前にすぐに医師のところへ戻って内容を確認しました。これと同様に、薬局に持ち込まれる処方せんに関しても、名前の間違いを発見したことは何度もあります。
もちろん薬局スタッフによる入力エラーを見つけたことも何度となくあります。英語の名前には漢字がないだけでなく、クリスチャンネームで同姓同名の方が沢山います。姓で言えば、Jones、Smith、Johnson、Williamsなど、名ではJohn、Robert、Chris、James、Christine、Jennifer、Elizabeth、Catherineなどです。薬局のデータベースに2人以上の同性同名がいる場合には、きちんとパーソナルヘルスナンバー(PHN)、住所、誕生日などを確認するようにとポップアップのメモがあることも多いですが、それでも入力担当するスタッフの注意力が下がった時には間違った患者さんの名前を選んでしまうこともあります。レシートに書いてある住所や電話番号などがあっているか、確認するようにしてください。
次に正しい薬物と投与量、投与経路の部分です。薬局スタッフによるデータエントリーの際に、似たような名前の薬をピックアップすることがあります。名前が似ている薬の例をあげると、amiloride vs. amlodipine、bupropion vs. buspirone、dimenhydrinate vs. diphenhydramineといった具合で、それぞれの薬の使い方は異なります。医師側でも薬局側でも、コンピュータ入力の際には最初の何文字かを入力して、データベースの中から薬を探すという作業をしますから、その時の労働環境(鳴り止まない電話、長い行列、怒っている患者さん、スタッフ不足、連日の残業による集中力不足などなど)によっては、いくらでもエラーが起こりえます。
医師と薬剤師の両サイドにおいて、知識や経験、コミュニケーションの不足により、入力段階で投与量を間違えることがあります。薬はさじ加減と言われるように、少なすぎても多すぎてもダメなのです。
抗菌薬では、量が多すぎれば下痢や吐き気が起こり、少なすぎれば感染症が治りません。血圧の薬でも同様に、量が多すぎればフラフラして、運転の際に危険ですが、薬の量が少なすぎれば血圧は下がらず、脳卒中や心筋梗塞につながります。糖尿病薬の場合、薬によっては血糖値を下げすぎて冷汗、動悸、意識障害、けいれん、手足の震えなどの症状が現れ、非常に危険な状態になりえます。
もしもこれらの状況が起こったときに、そこに調剤エラーがあったのか、指示された用量を服用して起こったことなのか、患者さんの側の思い込みや間違いで過量または過少投与になったのかなどを聞き取り、原因を突き止め、解決策を見つけます。従って、患者さんと接遇する度に病状を把握するのは、薬剤師にとって非常に重要なことなのです。
ドクターが吸入の薬を処方するといっていたのに、鼻のスプレーが処方されたので、何かおかしいと言われたこともあります。これは、喘息の患者さんに処方されるfluticasoneという吸入のお薬がありますが、同じ成分が花粉症や慢性鼻炎で使用される点鼻の薬としても利用されるからです。
正しいタイミングで薬を使用するのも大切です。薬によっては、食前、食後、空腹時、就寝前と、特定のタイミングで服用する必要があり、例えば骨粗鬆症を予防するアレンドロネートは空腹時に水で飲まなければなりません。多くの抗菌薬は、胃腸に負担がかからないように食後に服用してくださいと指示されますが、Cloxacillinという薬は空腹時に服用する必要があります。
気管支喘息治療の薬でも、吸入ステロイド薬は発作を起こさないようにするため毎日使用するべきものですが、気管支拡張薬であるサルブタモールは息苦しい時にのみ使用する薬です。これらの使い方を間違えると期待する効果が得られません。私の薬局では、気管支拡張薬のリフィルの間隔が極端に短い患者さんがたまにおり、吸入ステロイド薬の使用頻度を確認し、吸入テクニックやデバイス上の問題、または副作用が治療の妨げになっていないかを確認します。
駆け足になってしまいましたが、このように薬の仕事をしていると色々な状況に遭遇します。やや面倒に感じることもあるかとは思いますが、薬剤師が健康管理に貢献するため、質問の回答にご協力頂けると幸いです。
*薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca
佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)
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