私的には一年で一番良い季節になったバンクーバー。海辺をちょっと散歩するだけで幸せを感じられる毎日が冬の憂鬱をあっという間に忘れさせてくれます。そして先日のオーロラ!自然が作り出す光の美しさは本当に神秘的で、ただひたすら空を眺めて感動するというまるで子どもの頃に戻ったような楽しいひと時を過ごせました。
さて、今回ご紹介する映画「We Grown Now」(Minhal Baig監督)。1990年代シカゴに実在した低所得者向けの公営住宅「カブリーニグリーン」を舞台に、二人の12歳の少年の視点から見る子どもらしい日々と厳しい現実社会の物語です。
生まれた時からずっと友達の二人、マリークとエリック。公営住宅の隅から隅までが遊び場で、捨ててあるマットレスを集めて飛び込んでみたり、壁のシミやひび割れを見ながら想像を膨らませたり、と貧しいけれど身の周りに楽しいことを見つけて共に遊ぶベストフレンド。一見ごく普通の子どもらしい二人の日常ですが、周囲には犯罪、ドラッグ、死がすぐそこにあるような環境。嫌でも現実の厳しさと将来への不安が少しずつ二人にも見えてきます。
一生懸命に働き愛してくれるシングルマザーの母と祖母、妹がいるマリーク。自分は貧しいけれど子どもには良い未来を与えたいと願う父を持つエリック。社会では危険な場所と見られているこの公営住宅でも、二人にとっては大切な家族がいる自分たちが育った家なんですよね。そこで子ども時代を過ごす二人を見守るストーリーと映像は温かく、どこかノスタルジックなのが印象的でした。Baig監督は撮影に先立ち、2011年に取り壊されたこの住宅の元住人たちに多くの取材をして脚本を作り上げたとか。そこには外からは見えない一生懸命に生きる家族の物語がたくさんあったのだろうな、と感じました。余談ですが「ガブリーニ・グリーン」はホラー映画「キャンディ・マン」(ニア・ダコスタ監督2021年)でも舞台になっていて「貧困と犯罪の温床だった住宅」として知られています。
とにかく子役二人の演技があまりにも光っていて。彼らの澄んだ瞳と笑顔を見ているとこちらも楽しい気分になるし、不安そうな顔を見れば胸が締め付けられそうになってしまうし。そして二人が子どもなりに現実を受け入れてゆくシーンではこちらも涙が・・・。
子どもが安心して笑っていられる世界、大人の現実に左右されずにゆっくりと成長してゆける世界。そんな世界について考えてしまった映画でした。あとチェロの調べが心地よいサントラもとても素敵なのでそこも楽しんでください。
バンクーバーではInternational Villageで上映中です。
Lalaのシネマワールド
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バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライターLalaさんによる映画に関するコラム。
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Lala(らら)
バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライター
大好きな映画を観るためには広いカナダの西から東まで出かけます
良いストーリーには世界を豊にるす力があると信じてます
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