学生時代の私はテニスの練習に打ち込み、大きな怪我や病気もなく、割と健康体であることが取り柄でした。しかし、40歳を過ぎた頃から、男性更年期の症状が現れるようになりました。深夜の2時や3時に突然目が覚めたり、寝汗をかくことが増えたのです。これらの症状が軽くなったと思ったら、今度は徐々に体重が増え、しかも以前のように簡単には減らせなくなってきました。自分の姿を鏡でみると、まるでメタボ(メタボリックシンドローム、内臓脂肪症候群)を疑うほどお腹周りに脂肪がついているではありませんか。家内には「ただの食べ過ぎと運動不足よ!」と一喝されますが。これもホルモン量の減少に伴う立派な男性更年期の症状です。(信じてもらえないとは思いますが、笑)。そんな中年太りの話はさておき、同年代の女性の皆さんにも、更年期障害の治療薬を処方される方が増えてきたように見受けらます。そこで今回は、女性の更年期障害について、その症状や治療法に焦点を当ててみたいと思います。
更年期障害とは、主に40代後半から50代前半にかけて、閉経に向かう時期に女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)が急激に減少することで起こるさまざまな身体的・精神的な症状を指します。特に多くの女性が経験するのが、ホットフラッシュと呼ばれる突然のほてりや大量の発汗です。これにより、夜中に寝汗をかき、睡眠が妨げられることもあります。
不規則な月経、肌の乾燥や髪質の変化、膣の状態の変化が起こることもあります。具体的には、膣の粘膜が薄くなり、潤いが減少することで、かゆみ、灼熱感、性交時の痛みといった症状が現れることがあります。
また更年期障害は、心理面にも影響を与えます。感情の起伏が激しくなり、不安感や気分の落ち込みを感じることがあります。集中力の低下や意欲の喪失など、日常生活の中で困難を感じる場面も増えるかもしれません。
このように更年期障害は、心身の状態と生活全般に影響を与える複雑な疾患です。単なる年齢による変化として片付けるのではなく、適切なケアを求めることが大切です。
更年期障害の治療法としてもっともよく使われるのがホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy; HRT)で、症状や好みに応じて異なる剤形の薬が用いられます。
経口薬(飲み薬)
経口薬はHRTの中で最も一般的な形態で、錠剤として服用します。この治療では、女性ホルモンの一種であるエストロゲン(卵胞ホルモン)を補い、更年期のつらい症状を和らげます。エストロゲンの減少が更年期障害の主な原因なので、足りなくなったホルモンを補うことで体調を整えるのです。商品名にはエストラジオールを主成分とするPremarin(プレマリン)や Estrace(エストレース)、エストロゲンとプロゲスチンの配合剤であるActivelle(アクティヴェル)があります。
子宮がある女性の場合、エストロゲンだけを使うと、子宮内膜がんのリスクが高まる可能性があります。そのため、エストロゲンと一緒にプロゲステロン(またはその合成版であるプロゲスチン)を使うことが大切です。このプロゲステロンが、エストロゲンによる子宮内膜への影響を抑え、内膜が過剰に増えるのを防いでくれる役割を果たします。プロゲステロンには、Prometrium(プロメトリウム)とProvera(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル; MPA)があります。
エストロゲン製剤の主な副作用としては、吐き気や腹痛、乳房の張りや痛み、むくみや体重増加が挙げられます。また、血栓症のリスクが高まることがあり、足の腫れや痛みに注意が必要です。これらの症状が気になる場合は、必ず医師や薬剤師に相談することが大切です。
パッチ剤(貼り薬)
パッチ剤は、皮膚からホルモンを吸収するタイプで、経口薬とは異なり肝臓を通過しないため、血栓症リスクが低いのが特徴です。また、服用忘れの心配が少なく、人気があります。Estradot(エストラドット)はエストラジオールを含むパッチで、週2回貼り替えます。ジェネリック薬もあります。Climara(クライマラ)もエストロゲン製剤で、週1回の貼り替えが必要です。エストロゲンのパッチ剤はこの半年間、供給不足が続いていましたが、この問題は最近になって徐々に解消されつつあります。
塗り薬
Estrogel(エストロジェル)やDivigel(ディビゲル)といったエストロゲンを含むゲル剤は、肌に直接塗ることでエストロゲンが吸収されます。これらのゲルは、パッチ剤と同様に肝臓を通過せず、血栓症のリスクが低いのが特徴です。
局所クリーム・リング
膣や尿路の健康を改善するために使用されます。膣の組織を健康に保ち、乾燥や性交痛を軽減するほか、尿路感染症(UTI)のリスクを低減します。Vagifem(バジフェム)はエストラジオールを含む膣内挿入用タブレットであるのに対し、Premarin Vaginal Cream(プレマリン膣用クリーム) やEstragyn(エストラギン)は膣内や膣外部に使用可能なクリーム剤です。 Estring(エストリング)は膣内に保持し、3か月ごとに交換するリング型製剤です。持続的に低用量のエストロゲンを放出します。
まとめ
以上、ホルモン補充療法の異なる選択肢を紹介しましたが、更年期障害の薬物治療では、患者さんのライフスタイルや健康状態に合わせて最適な薬を選ぶことが大切です。また、治療を始める前に、保険の適用範囲を確認することも重要で、特にBCファーマケアでは、類似薬が複数ある場合、より安価な薬やジェネリック薬を保険でカバーすることが一般的です。ホルモン補充療法は数年単位での使用が必要なことが多いため、コストに不安がある場合は薬剤師に相談してください。保険適用状況や費用面での選択肢について詳しく説明し、最適な提案を行うことができます。
注意: 今回のコラムで紹介したホルモン補充療法の薬はいずれも処方せんが必要です。更年期障害の症状が疑われる場合には、まずは医師の診察を受けてください。
*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca
佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)
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