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FIFAワールドカップ2026、バンクーバーとトロントでの試合日程決定

FIFA2026W杯北中米大会マスコット。BCプレースに現れる。左から、Maple(カナダ)、Zayu(メキシコ)、Clutch(アメリカ)。2025年10月18日、BCプレース。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
FIFA2026W杯北中米大会マスコット。BCプレースに現れる。左から、Maple(カナダ)、Zayu(メキシコ)、Clutch(アメリカ)。2025年10月18日、BCプレース。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 組み合わせ抽選会が行われた翌日の12月6日、FIFAワールドカップ2026北中米大会の日程が発表された。カナダ国内で行われる13試合は、西海岸のバンクーバー市BCプレースで7試合、東部のトロント市BMOフィールドで6試合が予定されている。両都市とも1次リーグに加え、決勝トーナメントの試合も組み込まれており、カナダ代表の戦いを間近で観戦できる貴重な機会となる。 

 バンクーバーでは、カナダ代表が6月18日にカタール、6月24日にスイスと対戦。さらに、エジプト対ニュージーランド、ニュージーランド対ベルギーといった注目カードも予定されている。決勝トーナメントではラウンド32とラウンド16の試合も行われる。

 トロントでは、6月12日にカナダ代表の初戦でカナダでの大会が幕を開ける。対戦相手は欧州プレーオフ勝者で現時点では未定。イタリアが有力候補とされている。その他にはガーナ対パナマ、ドイツ対コートジボワール、パナマ対クロアチアなど多彩なカードが組まれている。さらに、セネガル対プレーオフ勝者の試合や、7月2日のラウンド32も予定されている。 

 カナダ代表はトロントでの開幕戦を皮切りに、バンクーバーで2試合を行う。地元開催の利を活かし、1次リーグ突破できるかに注目が集まる。もし勝ち上がれば、7月2日バンクーバーでの決勝トーナメントに進出する可能性もある。

 2026年W杯北中米大会は、カナダ・アメリカ・メキシコの3カ国共同開催で、6月11日メキシコシティのメキシコ対南アフリカで幕を開ける。

 今大会から出場チームが48カ国に拡大。6月11日から7月19日まで熱い戦いが繰り広げられる。

(記事 北野大地)

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ホワイトキャップス惜敗、MLSカップに届かず

MLSカップ決勝。2025年12月6日、BCプレース。Photo by Koichi Saito
MLSカップ決勝。2025年12月6日、BCプレース。Photo by Koichi Saito
MLSカップ決勝まえのBCプレース。注目のホワイトキャップ・ミュラー対インテル・メッシがスクリーンに。2025年12月6日、BCプレース。Photo by Koichi Saito
MLSカップ決勝まえのBCプレース。注目のホワイトキャップ・ミュラー対インテル・メッシがスクリーンに。2025年12月6日、BCプレース。Photo by Koichi Saito

 バンクーバー・ホワイトキャップスは12月6日、MLSカップをかけてフロリダ州フォート・ローダーデールでインテル・マイアミと戦った。

 前半にオウンドールで1点を献上したものの、圧倒的な攻撃力を見せ、後半に望みをつないだ。

 そして60分、アマードのゴールで同点に追いついた。その直後にはサビが放ったシュートが2度ポールに当たったがゴールとはならなかった。

 一方インテルはホワイトキャップスの守りの一瞬の隙をついて2点を追加。今季MLSカップはインテル・マイアミの初優勝で幕を閉じた。

BCプレースからも大声援

同点ゴールでBCプレースが盛り上がる。2025年12月6日、BCプレース。Photo by Koichi Saito
同点ゴールでBCプレースが盛り上がる。2025年12月6日、BCプレース。Photo by Koichi Saito

 MLSカップ決勝当日にはホワイトキャップス本拠地のBCプレースに熱狂的なファン約15,000人が集まり、大声援を送った。

 圧倒的に攻めるホワイトキャップスだったがなかなかゴールが決まらず、後半同点に追いついた時には大歓声が上がった。

 しかし、まもなく歓声はため息に。今季ここまでドラマチックにプレーオフを勝ち上がってきたホワイトキャップスだったが、MLSカップにはあと1歩届かなった。

会場に来たファンに配られた記念Tシャツ。2025年12月6日、BCプレース。Photo by Koichi Saito
会場に来たファンに配られた記念Tシャツ。2025年12月6日、BCプレース。Photo by Koichi Saito

(記事 三島直美/写真 斉藤光一)

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滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

2025年9月15日、滋賀・カナダ移民研究所、滋賀大学・びわ湖東北部地域連携協議会主催(日本・カナダ商工会議所共催)のもと、「カナダ移民セミナー」がバンクーバー市内で開催された。

今回の講師は、かつてパウエル街で「松宮商店」を営んでいた移民の孫であり、カナダ移民研究者としても知られる松宮哲さん。松宮さんは自身の祖父母が歩んだ道のりをたどりながら、滋賀からカナダに渡った人々の歴史を語った。

滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

開会にあたり、在バンクーバー日本国総領事館の岡垣首席領事は「滋賀県とカナダの深いつながりを知ることは、将来日本とカナダの架け橋となる若者にとって、移民の歴史を学ぶ上で非常に重要な経験になる」と話した。会場には滋賀大学の学生も参加し、国際的な歴史研究の広がりを感じさせた。

滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

移民史研究と家族のルーツ

松宮さんの祖父は1896年に渡加し、バンクーバーの旧日本人街・パウエル街で食料品や雑貨を扱う松宮商店を開いた。戦前まで続いたこの商店は、地域の日系社会の暮らしを支える存在であったという。

「2014年、映画『バンクーバーの朝日』を観たことがきっかけで、自分の家族史と日系移民史の関わりに改めて関心を持ちました」と松宮さんは振り返る。その後、独自に資料を収集・研究し、2017年には著書『松宮商店とバンクーバー朝日軍』を出版。滋賀県人を中心とした移民の歴史を掘り下げてきた。

滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

移民の背景 ― 水害と生業の伝統

講演ではまず、明治期の日本が進めた移民政策に触れた。とりわけ滋賀県では1896年に琵琶湖周辺を襲った大水害が人々の暮らしを直撃し、多くの農民が生活の再建を余儀なくされたという。松宮さんは当時の写真や記録を示しながら、「故郷で生計を立てることが難しくなった人々が、希望を求めてカナダへ渡った」と説明した。

滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

また、滋賀県は古くから「近江商人」と呼ばれる行商の伝統を持ち、全国を歩いて商売を営んできた歴史がある。その精神が海外移住にも受け継がれたと指摘。カナダに渡った滋賀県人が、商店経営や製材業に活躍の場を見出したのは必然だったのかもしれないと語った。

コミュニティとバンクーバー朝日

滋賀県出身者はやがてパウエル街を拠点にコミュニティを形成。商店や料亭、理髪店などが立ち並び、街は活気にあふれた。講演では当時の写真や映像も紹介され、参加者は往時の賑わいを思い描いた。また、娯楽として親しまれたのが野球である。滋賀出身者も多数参加した「バンクーバー朝日」は、カナダ野球史に名を残す強豪チームへと成長した。

滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

戦争と収容、そして和解へ

しかし日系移民の歴史は順風満帆ではなかった。1907年には反アジア排斥運動による暴動でパウエル街が襲撃され、多くの商店が被害を受けた。さらに第二次世界大戦中には、日系カナダ人が強制収容され、家や財産を失った。

松宮さんは「戦争によってコミュニティは分断されたが、人々は助け合いながら収容所で生活を築いた」と語った。その後、1988年にカナダ政府が公式に謝罪し補償を行ったことにも触れ、「苦難の歴史を乗り越えてきた人々の歩みを忘れてはならない」と訴えた。

滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

会場の声

参加者からは、滋賀県とカナダのつながりを知り、移民の歴史の重みを改めて感じたという声が聞かれた。戦時下の日系カナダ人の強制移動や財産没収の事実に驚く人も多くみられた。またある参加者は「自分の家族のルーツと重ね合わせて考えるきっかけになった」と語り、歴史を学ぶことの意義を実感していた。

本セミナーは、滋賀とカナダを結ぶ過去と未来を照らし出す貴重な場となった。歴史に光を当てる取り組みは、カナダの日系社会のルーツを再確認し、次世代へと受け継いでいく力となるだろう。

滋賀とカナダを結ぶ移民の歩みを辿る ― 松宮哲さん、バンクーバーで講演

主催:滋賀・カナダ移民研究所、滋賀大学・びわ湖東北部地域連携協議会
共催:日本・カナダ商工会議所
著者:西田珠乃
撮影:乘峯良輔
寄稿:日本・カナダ商工会議所

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北中米W杯2026組み合わせ抽選会、開催都市バンクーバーでも注目

進行役のシンクレアさん(左)。2025年12月5日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
進行役のシンクレアさん(左)。2025年12月5日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 カナダ、アメリカ、メキシコで開催されるワールドカップ(W杯)北中米大会の組み合わせ抽選会が12月5日、アメリカ・ワシントンDCで行われた。開催都市バンクーバーでも朝から抽選会を生中継で見守った。

 FIFAワールドカップ2026バンクーバー開催都市実行委員会が開催した抽選会生中継パーティには、カナダ女子代表元キャプテンのクリスティーン・シンクレアさんが登場したほか、ブリティッシュ・コロンビア州デイビッド・イービー州首相、同州ツーリズム・芸術文化・スポーツ大臣アン・カン議員とバンクーバー市からも市議が参加して、抽選会の様子に注目した。

 開催国カナダ(27位)は1次リーグB組で、カタール(51)、スイス(17)と欧州プレーオフ枠パスA勝者(イタリア、ウェールズ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北アイルランドの勝者)と対戦する。日本(18)はF組となり、オランダ(7)、チュニジア(40)、欧州プレーオフ枠パスB勝者(アルバニア、ウクライナ、スウェーデン、ポーランドの勝者)となる。

 カナダではバンクーバーで7試合、トロントで6試合が予定されている。大会スケジュールは12月6日に発表される。

あいさつするBC州イービー州首相(左)と、カン大臣(左から2番目)、バンクーバー市議2人。2025年12月5日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
あいさつするBC州イービー州首相(左)と、カン大臣(左から2番目)、バンクーバー市議2人。2025年12月5日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

(記事 三島直美/写真 斉藤光一)

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「カナダ“乗り鉄”の旅」第31回 乗務員のレクチャー、日本では“御法度”の攻めたテーマも シリーズ「カナディアン」【5】

VIA鉄道カナダのディーゼル機関車「F40PH―2」(2024年8月、西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーで。大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダのディーゼル機関車「F40PH―2」(2024年8月、西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーで。大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

西部サスカチワン州のサスカチューン駅に停車中のVIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」(2023年12月、大塚圭一郎撮影)
西部サスカチワン州のサスカチューン駅に停車中のVIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」(2023年12月、大塚圭一郎撮影)

 カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーと最大都市の東部オンタリオ州トロントの約4466キロを4泊5日で結ぶVIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」の楽しみの一つは、客室乗務員がカナダの自然や文化、特産品などについて教えてくれるレクチャーだ。利用者が自由にくつろぐことができる中間車両「スカイラインドームカー」でのレクチャーは、日本では“御法度”の攻めたテーマも待ち受けていた。

▽言葉を失う山火事発生件数

西部アルバータ州で「カナディアン」から眺めた車窓(2024年8月、大塚圭一郎撮影)
西部アルバータ州で「カナディアン」から眺めた車窓(2024年8月、大塚圭一郎撮影)

 2024年8月にバンクーバーから中部マニトバ州ウィニペグまで乗ったカナディアンは、山火事で焼け落ちた建物が無残な姿と化していた西部アルバータ州の保養地ジャスパーを通り過ぎた。スカイラインドームカーの2階のドーム状になったガラスから眺めた光景に心を痛めていると、追い打ちを掛けるように「アルバータ州では今も150カ所ほどで山火事が起きている」と聞いて言葉を失った。

 声の主はアルバータ州内在住だという女性で、「まだ昼だけれども、きょうに入ってからも州内の3カ所で新たに発火したとさっきのニュースで知ったわ」と言う。有名保養地のジャスパーで被害が広がったため騒ぎとなったものの、山火事自体はカナダの大自然で決して珍しくないのだと改めてかみしめた。

 次の停車駅はヒントン(アルバータ州)だ。この駅名を聞いた次の瞬間、私は2023年12月にトロントからバンクーバーへ乗ったカナディアンで、今回も乗り込んでいる客室乗務員、エミリー・ファラージさんの「寝台車プラスクラス」利用者向けのレクチャーを思い出した。

 ファラージさんはスカイラインドームカーでのVIA鉄道に関するレクチャーで、カナディアンの運行態勢を「2人の機関士が乗務し、12時間おきに交代しています。安全運行のために労務管理は厳格にしています」と強調した。

 安全対策強化に踏み出したきっかけとして挙げたのが、ヒントンで1986年2月8日午前8時40分ごろに起きた列車衝突事故だった。

 この事故はカナディアン・ナショナル鉄道(CN)の118両編成の貨物列車が停止すべき位置を通り過ぎ、単線区間でVIA鉄道カナダの14両編成の大陸横断列車「スーパーコンチネンタル」(現在は廃止)と衝突して計23人が亡くなった。

 ファラージさんは貨物列車が所定の位置で停止しなかった原因について「機関士の居眠り運転だったとの見方があります」と紹介。というのも、「当時の機関車の運転席にも居眠り運転などを防ぐための安全装置があったものの、機能していなかったのです」と話を続けた。

▽安全装置はなぜ働かなかったか

 事故を起こした機関車の運転席の足元には、「デッドマンペダル」と呼ばれる安全装置があった。機関士は足でペダルを踏んでおく必要があり、もしも居眠りをしたり、意識を失ったりした場合には足がペダルから離れる。すると、数秒後に警報が鳴り、それでも反応しない場合には非常ブレーキがかかる仕組みだった。

 しかし、この安全装置を用なしにしていたのが、機関士の間ではびこっていた悪習だった。ファラージさんは「事故当時は多くの機関士はデッドマンペダルを踏み続けるのが面倒だと感じ、警報が鳴るのを防ぐためペダルにレンガといった重りを置いていました」と明かした。

 発生翌年の1987年に発行された事故の調査報告書は、デットマンペダルの安全装置としての機能が「しばしば無視されていた」と問題視した。ただ、事故を起こした列車の機関士が命を落とし、機関車も大破したため、ペダルに重りを置いていたかどうかの証言や物証は確認されなかった。

VIA鉄道カナダのディーゼル機関車「F40PH―2」(2024年8月、西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーで。大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダのディーゼル機関車「F40PH―2」(2024年8月、西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーで。大塚圭一郎撮影)

 この大惨事を教訓に安全装置が見直された。ファラージさんは、カナディアンをけん引しているディーゼル機関車「F40PH―2」を含めた現在の機関車の運転席には「機関士が居眠りした場合などに検知できるように改良した安全装置があり、走行中に機関士からの反応がない場合には非常ブレーキがかかるようになっています」と解説した。

▽日本では“禁じ手”のテーマ?

 列車の乗客に対してかつての大惨事をタブー視せずに説明し、現在の安全装置の情報も開示して理解を得る姿勢は、重要性が高まっている企業のアカウンタビリティ(説明責任)に沿った行動だと言えよう。それだけでも見上げたものだが、2024年8月に乗った時のファラージさんは日本の鉄道会社では“御法度”の攻めたテーマにも挑んだ。

 なんと、欧米などで頻発している鉄道車両への落書きの手口について説明したのだ。その動機は「カナディアンに乗っていて貨物列車とすれ違うのを見て、貨車の落書きがどのようになされているのかが気になった方もいらっしゃると思います。私も気になり、調べてみました」というものだった。

 落書きは日本ならば器物損壊罪、落書きための車両基地侵入は建造物侵入罪に問われる可能性がある違法行為だが、ファラージさんは犯人らが落書きを「芸術だと思っている向きがある」と解説した。北米では1960~70年代から(アメリカ東部)フィラデルフィアやニューヨークで目立つようになったという。

「カナディアン」とすれ違うカナディアン・ナショナル鉄道(CN)の貨物列車(2023年12月、大塚圭一郎撮影)
「カナディアン」とすれ違うカナディアン・ナショナル鉄道(CN)の貨物列車(2023年12月、大塚圭一郎撮影)

 「カナディアン」に乗ってカナディアン・ナショナル鉄道(CN)の貨物列車とすれ違うと、文字や模様をスプレーで落書きされた貨車がつながれていることがある。

 ファラージさんは「落書きをするのは2人以上のグループであることが多く、複数の場合はスプレーで車体に落書きをするのと、警備員が来た場合などに逃げられるようにする監視役と役割分担をしている」と手口を明かした。ただし、捕まって罪に問われる可能性があるのはもちろん、忍び込んだ電車の車両基地で感電死する犯人もいるなど、犯罪行為の代償は大きすぎる。

 首都圏の私鉄大手幹部は「落書きは違法行為であり、落書きされた車両を運用できなくなれば利用者にも迷惑がかかるだけに言語道断だ」と指弾し、発生した場合は警察に即刻被害届を出すと強調する。その見解は100%正しいのだが、日本の場合は「臭い物にふたをする」と言わんばかりに黙殺し、落書きが発生しても鉄道会社が自主的に情報を開示することは少ない。

 しかしながら、現実世界では鉄道車両への落書きが後を絶たないのも事実だ。「違法行為」で「言語道断」なのを熟知している良識ある人たちが聞き手ならば、落書きの手口を紹介しても模倣犯になるリスクはまずない。また、信頼感を持って話してくれる客室乗務員に対して「非倫理的だ」などと目くじらを立てることもない。

 そのことをファラージさんはよく理解し、実践している。そんな思慮分別のある“大人の社交場”が、カナディアンの寝台車プラスクラス利用者向けのスカイラインドームカーでは見事に成立していた。

▽鉄板の人気企画、そのワケは

「カナディアン」でのワイン試飲イベントで、レッドルースターの白ワイン「ソーヴィニヨン・ブラン」の瓶を持つエミリー・ファラージさん(2024年8月、アルバータ州で。大塚圭一郎撮影)
「カナディアン」でのワイン試飲イベントで、レッドルースターの白ワイン「ソーヴィニヨン・ブラン」の瓶を持つエミリー・ファラージさん(2024年8月、アルバータ州で。大塚圭一郎撮影)

 そして「開始時刻前に受講希望者が必ず何人も集まっている」という鉄板の人気企画が、カナダ産のワインや地ビールの試飲会だ。参加者は参加した動機について異口同音にこう語る。「(寝台車プラスクラスでは)アルコール類を注文すると有料だけれども、これに参加すれば無料だからね」

 2024年8月に乗ったバンクーバー発トロント行きの列車では、ファラージさんがカナダ産ワインを紹介するレクチャーに参加した。この日は出発翌日の8月13日で、アルバータ州を走行中のスカイラインドームカーで開催された。

 ファラージさんがワインの特色を説明後、参加者がプラスチック製のコップで試飲して「どのような傾向の味なのか」を推察する。その後でファラージさんが模範解答を伝えて「答え合わせ」をする。

ブリティッシュ・コロンビア州のオカナガン湖畔のブドウ園(2017年8月、大塚圭一郎撮影)
ブリティッシュ・コロンビア州のオカナガン湖畔のブドウ園(2017年8月、大塚圭一郎撮影)

 この日紹介された3銘柄は、いずれも良質なワインの産地として名高いブリティッシュ・コロンビア州オカナガン湖畔のワイナリーの商品だった。私は2017年8月に現地のワイナリーを訪問したので、湖に生息されるとされる未確認生物(UMA)「オゴポコ」のように深い謎に包まれているというわけではない。それでも味わったことがないワインは多くあり、新たな知見を得られる貴重な機会となった。

 トップバッターは、ワイナリー「レッドルースター」のワイン卸商品質同盟(VQA)の基準で認証された2022年産白ワイン「ソーヴィニヨン・ブラン」だ。口にふくむと柑橘系の風味を感じた通り、「パパイヤやグレープフルーツの香りが特徴」ということだった。

ウェイン・グレツキー・ナンバー99の2022年産の白ワイン「ピノ・グリジオ」のラベル(2024年8月、アルバータ州で。大塚圭一郎撮影)
ウェイン・グレツキー・ナンバー99の2022年産の白ワイン「ピノ・グリジオ」のラベル(2024年8月、アルバータ州で。大塚圭一郎撮影)

 次にファラージさんがボトルを見せたのは、ワイナリー「ウェイン・グレツキー・ナンバー99」の2022年産の白ワイン「ピノ・グリジオ」で「洋なしやリンゴの味だと評されています」という。このワイナリーは、「アイスホッケーの神様」とたたえられた北米ナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)の元スター選手、ウェイン・グレツキー氏から名前を取っている。

 ワインのラベルにはグレツキー氏のサインが印刷されており、ワイナリーに付けられた「ナンバー99」は同氏の現役選手時代の背番号「99」に由来する。この「99」はNHLの永久欠番になっており、いかにずばぬけた選手だったのかを物語る。

「カナディアン」でのワイン試飲イベントで振る舞われた三つのワイン銘柄(2024年8月、アルバータ州で。大塚圭一郎撮影)
「カナディアン」でのワイン試飲イベントで振る舞われた三つのワイン銘柄(2024年8月、アルバータ州で。大塚圭一郎撮影)

 私はカナダを訪問する際にはアイスワインを買って帰るのが定番で、ウェイン・グレツキー・ナンバー99の商品を買うこともしばしばある。それだけに、ファラージさんが「ウェイン・グレツキー・ナンバー99からはもう一つご紹介したいワインがあります!」と声高らかに宣言し、アイスワインを振る舞うのではないかとひそかに夢想した。

 かすかな希望とは裏腹に、登場したのはグレイモンクの2021年産赤ワイン「メルロー」だ。「プラムやベリーのような風味で、好き嫌いが結構分かれます」とファラージさんは解説したが、飲み心地は決して悪くなかった。

 それでもアイスワイン登板への淡い期待が裏切られた私にとっては歓迎する“選手交代”ではなく、やや後味の悪い結末だった…。

【F40PHシリーズ】アメリカの大手自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)の機関車部門だったEMD(現在はアメリカ建設機械大手キャタピラーの部門)などが製造したディーゼル機関車。足回りは2軸台車を2基備えている。

 1975~98年に500両超が製造され、全米鉄道旅客公社(アムトラック)などの北米の鉄道会社が導入した。VIA鉄道カナダは87~89年に造られた「F40PH―2」を53両保有し、運行を続けている。VIA鉄道の機関車は最大出力が3千馬力のディーゼルエンジンを搭載し、設計上の最高時速は145~153キロに達する。

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

バンクーバー・ホワイトキャップス、球団史上初のMLSカップ決勝へ

インテル・マイアミのメッシのシュートに構えるGK高丘。2025年4月24日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
インテル・マイアミのメッシのシュートに構えるGK高丘。2025年4月24日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today

 バンクーバー・ホワイトキャップスが球団史上初のMLSカップ決勝進出を決めた。11月29日、サンディエゴで行われた西カンファレンス決勝でサンディエゴFCに3-1と快勝。前半に3点を入れたホワイトキャップスが、後半GK高丘の好セーブもありリードを守り切った。

 西カンファレンス優勝を果たしたホワイトキャップスの次の相手は、MLSスーパースー軍団インテル・マイアミCF。リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、セルヒオ・ブスケツ、ジョルディ・アルバなど、サッカーファンなら誰も知る名前が並ぶ。ただ、マイアミも今回が初のMLSカップ決勝進出となる。

 MLSレギュラーシーズンではないものの、ホワイトキャップスとは今季CONCACAFチャンピオンズカップで2度対戦。ホーム&アウェイで2試合ともホワイトキャップスが勝利している。8月にホワイトキャップスに入団したミュラーとインテルのメッシはMLSでは初顔合わせとなる。

 MLSカップ決勝はフロリダ州フォート・ローダーデールのチェイススタジアムで12月6日(土)午前11時30分(太平洋標準時)にキックオフ。Apple TVとTSNで生中継される。

人工芝でドリブルするインテル・マイアミのメッシ。昨季は人工芝を理由にバンクーバーに来なかったためかファンからはブーイングが...。2025年4月24日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
人工芝でドリブルするインテル・マイアミのメッシ。昨季は人工芝を理由にバンクーバーに来なかったためかファンからはブーイングが…。2025年4月24日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today

(記事 三島直美)

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海外移住資料館「Broken Promises 破られた約束-太平洋戦争下の日系カナダ人-」

「Broken Promises 破られた約束」のパネル。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美
「Broken Promises 破られた約束」のパネル。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美
「Broken Promises 破られた約束」展示会場入り口。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美
「Broken Promises 破られた約束」展示会場入り口。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美

 神奈川県横浜市にあるJICA横浜海外移住資料館で企画展示「Broken Promises 破られた約束-太平洋戦争下の日系カナダ人-」(12月7日まで)が開催され、オンラインではバーチャル展示(2026年3月31日まで)が閲覧できる。

 同資料館ではカナダをテーマにした企画展は2015年「Taiken体験-日系カナダ人 未来へつなぐ道のり―」に続いて2回目という。

 今年10月、同資料館で話を聞いた。

企画展について

 今回の企画展は学芸担当の小嶋茂さんが「Landscapes of Injustice」のプロジェクトメンバーだったことから依頼を受け実現したという。

 日系文化センター・博物館は「Broken Promises」の展示について、「7年間にわたる学術研究および複数の機関とコミュニティが関与した」研究プロジェクト「Landscapes of Injustice」で明らかになった、カナダ政府による日系カナダ人強制収容政策で没収された財産の全記録「敵性財産資産管理局」関連の情報を基に、強制収容経験者やその家族などの証言などを含めて制作と説明。2020年9月から21年6月27日まで同センター内「カラサワミュージアム」で展示された。

 それを「Broken Promises 破られた約束」日本巡回展示実行委員会が日本向けに編集してカナダ移民に関係が深い関西圏を中心に巡回展示している。資料館の展示では、さらにカナダへの日本人移民の歴史を知らない人でも理解できるようにと移民の歴史から説明したという。同資料館学芸員の原本義浩さんは「カナダへの移民というところから歴史を語らないと強制収容から財産没収、リドレスまでたどり着けないと感じました」と振り返る。

カナダへの移民の歴史を紹介するパネル。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美
カナダへの移民の歴史を紹介するパネル。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美

 膨大な英語の資料を参考にして11枚のパネルにまとめた。そこにはカナダへの移民の始まりから、日系人への差別、真珠湾攻撃を機に始まったカナダ政府の日系人強制収容と財産没収、終戦後も続いた強制移動政策、そしてリドレス運動などを紹介している。移民がいつ始まって、なぜブリティッシュ・コロンビア州南西部に超局所的に生活していたのか、それに対してそこにいたカナダ人の感情はどうだったか、第2次世界大戦で同じくカナダと戦ったドイツ系やイタリア系はどのような扱いを受けたのか、そこまで紹介しないと事実の裏にある全体像が見えてこないと話す。「ただ単に、カナダ政府がひどいことをしました、日系カナダ人がひどい目に遭いました、という展示で終わりたくないと思っていました」。

 心がけたのは、「(Landscapes of Justice)プロジェクトが目指していたものをきちんと勉強して、なるべくそれに沿った形で日本語に訳して提供すること」。資料館での展示に当たっては日系文化センター・博物館のシェリー・カジワラ館長と親切なボランティアスタッフの助けを借りて「可能な限り事実に即したものを作ろうと思ったんです」。ただ展示準備中にバンクーバーに行く機会はなく、「カナダに漂う『公正』の概念の空気感が想像でしかなかったので、実際のカナダの方々の心みたいなものを伝えられるかなというのはありました」。

 それでも来館者の反応はポジティブなものが多く、カナダの歴史があまり知られていない中で今回の展示では「本当に勉強になりました」という声が多かったという。「多様性社会というイメージを持っていたが、日本人も含めて差別された歴史があったことに驚いた」「アメリカへの移民は聞くがカナダにもそれほど多くの日本人が移民していることは知らなかった」といったものや、中にはカナダへの移民という局所的な事象にとどまらず、移民、差別、補償、さらには先住民族の権利など「社会全体の正義・公正にも触れているという意見や日本ではどうなのかなど自分事としてユニバーサルに捉えてみてくれているコメントもあり、作った側としては意図が伝わって本当にうれしかった」と語った。

パネルだけではなく、映像や実際の書類も閲覧できる会場。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美
パネルだけではなく、映像や実際の書類も閲覧できる会場。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美

 「今回の展示に関わらせていただいてすごくラッキーだったなと思います」と原本さん。カナダの資料がデジタル化され充実してきた中で今後につながると思うと期待している。できればカナダ人の「ジャスティス(公正)」に対する感覚に肌で触れてみたいとも語った。

 「Broken Promises 破られた約束-太平洋戦争下の日系カナダ人-」3Dバーチャルツアーは2026年3月31日まで無料で利用できる。資料館に展示されているパネルを見られるほか、日本語のみのパネル部分には英語の解説がポップアップで見られるようになっており、動画や資料なども英語で閲覧できる仕組みなっている。

リンクはこちらから。https://my.matterport.com/show/?m=wBk7qKMNLzj&back=1

日系文化センター・博物館の「Broken Promises(英語)」のサイトはこちらから。https://centre.nikkeiplace.org/exhibits/broken-promises/

「Broken Promises 破られた約束」日本巡回展示実行委員会のサイトはこちら。https://brokenpromisesjapan.com/

講演会 After the Broken Promises 破られた約束のその後

講師:ジョーダン・スタンガー・ロス (Jordan Stanger-Ross) 氏(カナダ ビクトリア大学 歴史学教授 “Landscapes of Injustice”(不正義の風景)プロジェクトディレクター)
日時:2025年12月6日(土)14:00~15:30(13:30開場・受付開始)
会場:JICA横浜1階 会議室1
言語:英語(日本語通訳あり)
主催:JICA横浜 海外移住資料館

「海外移住資料館」について

 独立行政法人国際協力機構(JICA)横浜センター内にあり、日本人の海外への移民について情報提供している。資料館の学芸担当研究員・小嶋茂さんに話を聞いた。

歴史を未来へつなぐ拠点「われら新世界に参加す」

 海外移住資料館は2002年10月4日に、日本人の海外移住の歴史を日本人だけでなく、日系人、特に若い世代へ伝えることを目的として設立されたと説明した。資料館を設立するプロジェクトは2000年4月1日に正式に始動し、国内外の資料収集や展示構想の策定を経て開館に至ったという。

 設立の背景にあったのは「移民」に対する誤った認識が日本にあったからだと振り返る。1980年代半ばから、中南米から日本人移民と日系人の出稼ぎ現象が起き多くが来日したことを契機に、国内で「日本人の顔をしているのに日本語を話さない」と言われるなど言語や文化の違いからさまざまな摩擦が生じたという。当時、日本の公的な教育では海外移住の歴史がほとんど扱われず「大勢の日本人がかつて海外へ移住していった」という事実すら広く知られていなかったというのが現実的にあった。

 こうした状況を踏まえ、毎年開催されている海外日系人大会などで「移住の歴史を伝える施設を作ってほしい」という要望が繰り返し寄せられ、資料館設立へとつながったと説明した。

 展示コンセプトは「われら新世界に参加す」。これは「大阪の国立民俗博物館初代館長の梅棹忠夫先生が1978年にブラジルでの基調演説で提言されたコンセプトです」。民族学者の梅棹忠夫氏は、移民は「棄民」として捉えられることもあるが、実際には移住先の社会に参加し、貢献してきた存在であるという肯定的な視点を示した。小嶋さんは「『棄民』には『日本を捨てて行った人たち』と、『日本国から捨てられた人たち』という2重の意味がある」と説明。しかし、「(梅棹氏の)肯定的な捉え方をすべきであるというメッセージを受けて、資料館では移民とは移住先の国々における参加と貢献であるという視点から移住をお伝えするということで始まりました」。

 常設展示は大きく分けて2つ。前半は、ハワイ移住から2000年までの日本人海外移住の歴史、後半はコンセプトを具体的に紹介する内容になっているという。移住の理由、渡航手段、生活やコミュニティ形成を、国別ではなくテーマ別に多角的に構成し、肯定的な理解を促している。最近は20周年を機にリニューアルが進められ、オンラインのデジタルコンテンツも充実を図っている。

 日本でまだ誤解されていることが多い日本人移民だが、日系人が直接日本人を助けた例として、戦後直後の1946年から1952年にかけて日系人が中心となって展開された救援活動「ララ物資」を挙げた。第2次世界大戦中は、カナダやアメリカでは強制収容、南米でも敵性外国人扱いをされて、日系人も決して裕福ではなかったはずだが、ララ物資を通して日系人の日本への支援は現在の金額に換算すると約1200億円にもなるという。ララ物資全体の約20%を占めていたと説明した。日本人の6人に1人がララ物資の恩恵を受けたとされる。粉ミルクや毛布、薬などの支援は、戦後の困窮する人々の命を救った。「この活動が日系人主導であったことは広く知られていないですが、忘れてはいけないと思っています」。

 日本人移民の歴史は、現代日本が外国人を受け入れる際の重要な示唆を与えるとも語る。偏見や摩擦は避けられないが、日系人は海外でそれを乗り越えてきた歴史があり、「そこから学ぶことはたくさんあると思います。そうしたアメリカ大陸に渡った日本人の歴史を学べるのがこの資料館です」。

海外日系人博物館の未来をつなぐ―ネットワークで再活性化を目指す

 日本人移民の歴史を伝える博物館は北米や南米に数多く存在するという。しかし、南米ではその多くが設立後に関心を失い、来館者が減少し「幽霊博物館」と化してしまう現状を危惧していると話す。背景には、設立を担った1世・2世が高齢化し、次世代である3世・4世が十分に継承できないという課題がある。

 こうした状況を打破するため「ネットワークによる連携と再活性化」を模索していると話す。「例えば、複数の館が協力して、祭りと食文化など共通のテーマで資料を整理し、パネル展示などで共同開催することで関心を呼び戻す取り組みが可能だと思っています。そうすれば来館者が異なる地域の展示に興味を持ち、ブラジルに行ってみようとか交流の機会が生まれることも期待されます」。

 北米ではボランティア活動が比較的活発で一定の支援体制があるため、南米ほど深刻な幽霊博物館化は少ないという。「それでも3世ならば祖父母への関心があっても、5世6世と世代が進む中で関心の低下は避けられないと思いますし、そこを食い止めて大事な歴史を次の世代に伝えていくには連携ネットワークの力が重要だと思っています」。

 今回の「Broken Promises」プロジェクトは博物館連携の新しい可能性を示したと語る。今後は「ブラジル、ボリビア、パラグアイ、アルゼンチンなどの博物館が連携し、みんなの力で活性化できないかを提案していきたいと思っています」と話した。

JICA横浜 海外移住資料館:https://www.jica.go.jp/domestic/jomm/index.html

「Broken Promises 破られた約束」のパネルの前で。左から、小嶋さん、原本さん、渡辺さん。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美
「Broken Promises 破られた約束」のパネルの前で。左から、小嶋さん、原本さん、渡辺さん。2025年10月2日、横浜市。撮影 三島直美

(取材 三島直美)

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建友会第13回(2026年度)年次総会開催

あいさつする松原会長。建友会第13回(2026年度)年次総会。2025年11月25日、バンクーバー市。写真 建友会。
あいさつする松原会長。建友会第13回(2026年度)年次総会。2025年11月25日、バンクーバー市。写真 建友会。

11月25日に、第13回建友会年次総会(2026年度)を、ガーデナーズ協会2階会議室をお借りして開催しました。

25名の会員が会場に来場して出席し、2名の会員がZoomにて出席しました。

年次総会の開始に先立ち松原会長より挨拶、穴澤役員、和田会計役員から2025年の活動、会計報告がなされ、引き続き2026年度の活動、会計計画案が説明されました。

その後、2026年度の役員として、松原昌輝が会長、穴澤龍哉が副会長、和田健治・牧田仁美が会計、伊藤、吉武、Plamer、花木、村山、佐藤が役員の総勢10名が立候補・承認され、無事年次総会は終了しました。

年次総会終了後、食事と歓談をしたのち、穴澤副会長と和田役員をMCとして、ざっくばらんに会に参加した会員の方々に自己紹介等を行ってもらい会員間の交流を深めました。

会の最後は、穴澤新副会長の閉会の挨拶により締めくくり、2026年度も、役員・会員力を合わせ、建友会および日系コミュニティをより一層盛り上げていくことを決心しました。https://kenyukai.ca/2025-agm/

建友会第13回(2026年度)年次総会。2025年11月25日、バンクーバー市。写真 建友会。
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(寄稿 建友会)

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モントリオールからのアルバム11月

霜月の風景 ♪

モントリオールダウンタウン、霜月の風景

写真撮影:鎌田珠代

ダウンタウンのイルミネーション。

教会

HAB-モントリオールのホッケーチーム、Montreal Canadiensの拠点、Bell Centre付近の風景

写真撮影:鎌田珠代

霧雪(せつ)

モントリオール サンタクロースパレード 11月22日

Saint-Henri Ghost Tag

誰が深夜にこっそり描いたのだろうか?グラフィティの世界ではKIA(Killed in Action)はよく使われるスラングで、

・描いた本人の象徴(=危険を冒して描いた)
・亡くなった仲間のタグを残す追悼タグ

どちらの意味にもなることがある。
この写真の雰囲気が一気に重く、深くなります。

文と写真:鎌田淳平
Instagram:junpeke1984

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大人のためのワクチンリスト

 前回のコラムでも書いたように、町で唯一のインフルエンザ接種機関として、マネージャーの私が自ら最前線に立って、多くの患者さんにワクチン接種を行ってきました。久しぶりに顔を見る患者さんとは話が盛り上がり、また最近の患者さんが注射について気になっていることなどが分かって、大変参考になりました。

 一方で、たまった通常業務を片づけるために、夜遅くまで仕事をしている日も少なくありません。日本がバブル絶頂期だった昭和から平成にかけて育った世代なので、毎日の残業もあまり苦になりません。今どき「馬車馬のように働いていただく」なんて言ってしまう高市早苗首相とは、気が合うかもしれません(笑)。

 沢山働くのは良いと思いますが、誰もが年を取ると免疫力は下がりますよ、年齢に応じてワクチン接種を受けましょう!というのが今回のお話です。

免疫老化とは

 人間は歳を重ねるにつれ、免疫機能は自然と低下し、これを免疫老化と呼びます。免疫老化は、免疫応答に関わる細胞の機能が低下し、加齢に伴い感染症に対する抵抗力が弱くなります。このため、高齢の方はインフルエンザや肺炎球菌のような感染症、また帯状疱疹にかかりやすく、重症化のリスクも高まります。だからこそ、ワクチンで予防できる病気については、その力をうまく利用して、健康を守る手段として役立てて頂ければと思うわけです。以下、秋から冬にかけて検討したい、大人のためのワクチンリストです。

RSVワクチン

 呼吸器合胞体ウイルス(Respiratory syncytial virus: RSV)は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で呼吸器感染症を引き起こすウイルスです。冬に流行し、乳幼児だけでなく高齢者にも重篤な肺炎や呼吸不全を引き起こします。75歳以上や心肺疾患のある方、COPDや喘息の方は特にリスクが高いです。80歳以上や基礎疾患のある高齢者では、RSVによる入院や死亡のリスクはインフルエンザと同程度まで高まることが報告されています。

 2023年に承認された2つのRSVワクチン(Arexvy®とAbrysvo®)は、いずれも重症化を約80%防ぐとされ、安全性も良好です。Arexvyは高齢者向けワクチンで主に65歳以上を対象としているのに対し、Abrysvoは高齢者向けに加え、妊婦さんに接種することで、生まれてくる赤ちゃんをRSVから守る目的でも使用されます。

 薬局によって多少の差はありますが、1回あたりおよそ270〜300ドル前後です。民間保険で一部または全額がカバーされる場合もあります。

 臨床試験では、Arexvyで3シーズン目、Abrysvoで2シーズン目まで一定の有効性が示されていますが、実際にどのくらい長く効果が続くかはまだ評価途上です。現時点でカナダのガイドラインでは追加接種(ブースター)は推奨されておらず、今後のエビデンスを踏まえて接種間隔が検討される見込みです。

肺炎球菌ワクチン

 肺炎球菌は細菌性肺炎の代表的な原因菌で、高齢者の肺炎による死亡に大きく関わっています。特に65歳以上で発症率が高く、肺炎だけでなく敗血症や髄膜炎の原因にもなります。

 これまで成人の肺炎球菌予防には、20種類の血清型をカバーする20価ワクチン Prevnar 20®と、23種類をカバーする23価ワクチン Pneumovax 23®が使われてきました。以前は、公費で接種できる Pneumovax 23®が主流でしたが、Prevnar 20®は糖鎖をタンパク質と結びつけた「結合型ワクチン」と呼ばれ、より質の高い免疫応答が期待できることから、自費接種ながらもこちらを選ぶケースが徐々に増えていました。そして2025年7月からは、65歳以上の方には Prevnar 20®が公費負担へ切り替わりました。副反応は腕の痛みなど一時的で軽いものが多く、一度だけの接種になります。ぜひ65歳以上の皆さんには受けて頂きたいワクチンです。

インフルエンザワクチン

 インフルエンザウイルスは毎年変異し、ワクチンも流行株に合わせて更新されます。ただ、今年11月に入って、今年はワクチンの型と流行型のミスマッチであるという報道(https://www.cbc.ca/news/health/cbc-explains-flu-shots-influenza-vaccine-2025-9.6976530)が出てからというもの、予防接種の意義についての質問が相次ぎました。煽り気味の記事でなんと厄介な報道が出たなと思いましたが、最後の方にはちゃんと効果はゼロではありませんから、接種を受けるようにしてくださいと書いてありました。

 BC州では6か月以上の住民に無料で提供されており、注射型のワクチンが中心ですが、子供向けに鼻にスプレーするタイプのワクチンも使用されています。高齢者用には抗原量が通常の4倍の高用量ワクチン(Fluzone HD®)もありますが、こちらは自己負担が発生します。在庫のない薬局も多いので、今から希望される方は予め薬局に連絡を取ることをお勧めします。

COVID-19ワクチン

 パンデミックの危機は過ぎても、COVID-19は無くなったわけではありません。そのため最新のワクチン接種が重症化を防ぐ鍵と言えます。アルバータ州ではCOVID-19ワクチンは約130ドルの自己負担となったのに対し、BC州では無料で提供されています。副反応で具合が悪くなるようなことがない限り、ぜひCOVID-19の予防接種を受け続けて頂くのが賢明かと思います。

帯状疱疹ワクチン

 帯状疱疹は、水痘ウイルス(chickenpox)が体内に潜伏したまま、加齢などで免疫力が低下した際に再活性化して起こる病気で、50歳頃から発症率が急増します。帯状疱疹そのものの痛みに加え、30%以上の高齢者でみられる帯状疱疹後神経痛は、日常生活に大きな支障を来すことがあります。季節性はなく、免疫力が落ちたタイミングで、年間を通じて誰にでも起こり得ます。

 現在使用されている帯状疱疹ワクチンShingrix®は、2〜6か月の間隔で2回接種されます。2回接種を完了することで、帯状疱疹の発症をおよそ80〜90%抑えることができます。一方で、副反応として接種部位の痛みや腫れ、発赤のほか、発熱、悪寒、倦怠感、頭痛、筋肉痛などの全身症状が比較的よくみられます。これらの症状は通常1〜3日程度で自然におさまりますが、2回目の接種後の方が、これらの症状がやや強く出る人が多いです。

 BC州では現在Shingrix®は自己負担(1回につき190ドル前後)のワクチンですが、民間保険が一部または全額を補助することがあります。2回接種で約400ドルと決して安いワクチンではありませんが、「帯状疱疹後神経痛だけは経験したくない」と接種を希望される方は後を絶ちません。

 最後になりますが、予防接種は保険のようなもので、万が一のときに備える手段のひとつです。年齢や持病の有無、生活スタイル、そしてお財布事情も含めて、ご自分にとってどのワクチンを受けるのが適当かをファミリードクターや薬剤師と相談しながら考えて頂ければ幸いです。

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

お薬についての質問や相談はこちらからお願い致します。https://forms.gle/Y4GtmkXQJ8vKB4MHA

全ての「また お薬の時間ですよ」はこちらからご覧いただけます。前身の「お薬の時間ですよ」はこちらから。

「七五三*千歳飴に願いごと」

カナダde着物

第77話
*子どもの成長を祝う秋の風習*

 11月は秋が深まり、冬の気配が立ち始める月です。今年一年の豊穣を祝い、無事に一年を終えられるよう祈りを捧げ、来る冬に備えて心と暮らしを整えます。

 木々が赤や黄金に染まるこの季節、各地では秋祭りや収穫祭が行われ、人々は自然の恵みに感謝を新たにします。また、古くから受け継がれてきた年中行事が多く営まれるのも、この時期の特徴です。

 北米では、サンクスギビングデイ(感謝祭)がその行事にあたるでしょうか。

 家族や親しい人々が集まって祝う日であり、季節の節目をともに過ごす大切な伝統行事として位置づけられています。

 11月15日には、子どもの成長を祈る七五三詣が神社や寺で行われ、家族にとって大切な節目のひとときとなります。

「Tozenji temple 2025 Fall」Manto Artworks
「Tozenji temple 2025 Fall」Manto Artworks

*今日の着物と和の学校*Today’s Kimono and gathering*
「子どもの成長を祝う秋の風習」

 七五三の起源は、平安時代にさかのぼります。当時、宮中や公家の間では「髪置(かみおき)」「袴着(はかまぎ)」「帯解(おびとき)」といった、子どもの成長を祝う儀礼が行われており、これらが現在の七五三の原型とされています。

 子どもが社会の一員として成長していくうえでの大切な通過儀礼でした。時代を重ねる中で、公家や武家の間で作法や日程が整えられ、江戸時代には11月15日に行う行事として定着しました。

15周年を迎えた「和の学校@東漸寺』七五三祝い コナともこ
15周年を迎えた「和の学校@東漸寺』七五三祝い コナともこ

 今年で15年目を迎えました東漸寺の「七五三祝い@東漸寺」合同法要と祝行事は、年々お参りのご家族が増え、今年も30組以上のご家族が可愛い手を引いてお寺へお越しくださいました。

 着物姿のお子様は、華やかな装いに包まれながらも少し緊張した面持ちで、初めてお寺でお参りをするお子様も多かったようです。

 ご家族の皆さまにとっても、成長の節目を迎えたお子様を温かく見守りながら、この日をともに迎えられたことは大きな喜びとなったことでしょう。

コキットラム市にある東漸寺でのお祝い コナともこ
コキットラム市にある東漸寺でのお祝い コナともこ

*参照*

暦生活
https://www.543life.com

七五三祝い
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

「着物語り」
コナともこさんが着物の魅力をバンクーバーから発信する連載コラム。毎月四季折々の着物やカナダで楽しむ着こなしなどを紹介します。
2020年8月から連載開始。第1回からのコラムはこちらから

コナともこ
アラ還の自称着物愛好家。日本文化の伝道師に憧れ日々お稽古に励んでおります。
14年前からコキットラム市の東漸寺で「和の学校」を主宰。日本文化を親子で学び継承する活動をしております。

年間を通じて季節の行事に加え、お寺での初参り、七五三祝い、十歳祝い、元服祝い、二十歳祝い、結婚式、生前葬、お葬式などの設えと装いのお手伝いもさせていただいております。

*詳しくはコナともこ までお問い合わせ下さい。tands410@gmail.com
東漸寺は非営利団体で、和の学校の収益は東漸寺の活動やお寺の維持の為に使われています。

カナダ人の夫+社会人と大学生の3人娘がおり、バンクーバー近郊在住。

和の学校ホームページ https://wanogakkou.jimdofree.com/
インスタグラム https://www.instagram.com/wa_no_gakkou_tozenji/
フェイスブック https://www.facebook.com/profile.php?id=100069272582016

東漸寺Tozenji Temple https://tozenjibc.ca/

コナともこ
Facebook https://www.facebook.com/tomoko.kona.98
Instagram https://www.instagram.com/konatomoko/?hl

「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks
「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks

34 ☆ 大リーグ「ドジャース」と「ドッジボール」

日本語教師  矢野修三

 今年度のアメリカ大リーグのワールドシリーズは、異様なほど盛り上がった。ナ・リーグ代表の「ドジャース」とア・リーグ代表の「ブルージェイズ」との天下分け目の大一番。

 野球に関心のない方には申し訳ないが、ドジャースは大谷を含め3人の日本選手が活躍しているチームであり、一方、ブルージェイズは大リーク30チームの中で、唯一のカナダのチーム。奇しくも、今回は1993年以来のカナダとアメリカの国対抗となり、トロントはもちろん、カナダ全土、ここバンクーバーでも大いに活気づいた。

 さらに、個人的にも、子供のころは、ピッチャーで四番バッターの野球少年だったので、気分はいつも二刀流の大谷翔平であり、日本選手の活躍をワクワクしながら応援。

 しかし、カナダに移住している日本人としては、やはりカナダが大事であり、どっちを応援すればいいのか・・・うーん、いろいろ迷ってしまったのも事実である。

 戦いは、最終第7戦までもつれ込む大接戦。最後は延長戦でドジャースが栄冠をつかんだ。まさに歴史に残る素晴らしい試合であり、さりげなく両チームを応援しながら、テレビに釘付け。どっちにも声援を送り、へんてこなテレビ観戦になったが、野球の醍醐味を存分味わった。

 加えて、先月号の「ドッジボール」のエッセイを読んだ友人から、「ドジャース」のチーム名は「ドッジボール」と関係あり、との助言があり、聞いたり調べたりして、びっくり。「ドジャース」と「ドッジボール」の興味深い繋がりが判明。とてもタイムリーな話題に胸をときめかせてしまった。

 さて、その繋がりとは・・・、このドジャース球団の歴史は古く、はるか昔1883年までさかのぼる。ナント日本では明治中期である。さらに驚いたことは、最初の本拠地はニューヨークのブルックリンとのこと。その当時、市民の足はトロリー(路面電車)であり、街中あちこち走っていたようである。だから、市民は道を横断するにも、このトロリーをドッジする、うまくよけなければならなかった。まさに、「ドッジ・ボール」と同じで、「ドッジ・トロリー」である。

 そこで、トロリー(路面電車)をよけながら生活するブルックリン市民のことを「dodge」に「er」をつけて、トロリーをよける人、ドッジする人、すなわち、トロリー・ドジャース(Trolley Dodgers)と、少しおどけて呼ぶようになったとのこと。なるほど。

 そしてこの地で生まれた野球チームに、この「トロリー・ドジャース」と名付けた。でも少し長いので、「トロリー」を除いて、単に「ドジャース」にした。Oh, I see!

 その後、1958年に今のロサンゼルスに移ったが、古き伝統を残そうと、名前はそのままにしたようである。うーん、確かに、LAとは関係なく、「よける人々」では弱そうで、野球のチーム名としてはふさわしくない気もするが、でも昔からの伝統を重んじた粋な計らい。日本的なつつましさも感じられ、このチームには日本人選手が活躍しやすい雰囲気があるのでは・・・。

 因みに、ブルージェイズはカナダ・オンタリオ州を代表する鳥BlueJay(アオカケス)が由来である。ぜひ来年も、再びこの両チームの決戦となり、日本選手は活躍するが、今度は「ブルージェイズ」が勝つ。こんな夢、My dreamをドッジしないでね。

「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら

矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)    
メール:yano94canada@gmail.com
ホームページ:https://yanoacademy.ca

日本語教師として37年、81歳になって
初めて、平仮名「あいうえお」の
素晴らしさ、奥深さを悟りましたよ。

愛情、いっぱいで、生まれ
あ  い     う

笑顔で、終える。
え   お

素晴らしきかな「あいうえお」

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