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トランプ関税懸念で「日本のような信頼できる貿易相手国が必要」 ランツPEI州首相インタビュー

インタビューに応じるカナダ・プリンスエドワード島州のロブ・ランツ州首相(大阪市で大塚圭一郎撮影)
インタビューに応じるカナダ・プリンスエドワード島州のロブ・ランツ州首相(大阪市で大塚圭一郎撮影)

 小説「赤毛のアン」の舞台として知られるカナダ東部プリンスエドワード島(PEI)州のロブ・ランツ州首相が2025年9月20日、大阪市で日加トゥデイの英語での単独インタビューに応じた。PEI州の魚介類や農産物の多くはアメリカ(米国)に輸出されているが、輸入品への関税を引き上げているドナルド・トランプ米大統領の復帰で「貿易相手国としての信頼性が低下している」と指摘。「日本のような信頼できる貿易相手国が必要だ」強調し、日本への輸出拡大に意欲を示した。

(共同通信社経済部次長・日加トゥデイ連載コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」執筆者・大塚 圭一郎)

▽「より多様な外国市場の開拓が必要」

 ―2025年大阪・関西万博のカナダパビリオン(カナダ館)でPEIの魚介類と農産品を知ってもらうイベントを9月20日に開催した目的を教えてください。

 「日本の食の選択肢を広げるのに役立つPEIの食品を、より効果的に発信する必要があると考えたためです。PEIは新鮮で自然、清潔で安全、持続可能な食品を提供している『食の楽園』です。これらは全て、日本の消費者が重視している品質と価値そのものです。

プリンスエドワード島の沖合で捕れた雌のロブスター。重量は844グラムあった(大阪市で大塚圭一郎撮影)
プリンスエドワード島の沖合で捕れた雌のロブスター。重量は844グラムあった(大阪市で大塚圭一郎撮影)

 もちろん来日の大きな目的は日本の皆様にPEIの商品を売り込みたいからですが、同時に日本からの輸入も拡大し、友好関係も深めたいとも思っています。良好な関係は双方向で成り立つものであり、おそらく日本から購入できるものもたくさんあります。貿易に不確実性がまん延している今、私たちが求めているのはまさにそれです」

 ―PEIが輸出先を広げようとしている不確実性とは、カナダにとって最大の貿易相手国である米国の大統領にドナルド・トランプ氏が復帰したことを指すという理解でいいですか。

 「はい。米国に近い私たちにとって長年重要な貿易相手国でしたが、トランプ氏が大統領に復帰して信頼性が低下し、予測不可能になっています。このことを踏まえると、より多様な外国市場を開拓することが必要だと承知しています。トランプ政権下ではルールがいつでも変わる可能性があり、より強靭な貿易基盤を構築するためには他の相手国を探す必要があります。それには日本のような信頼できるパートナーが必要なのです」

 ―類似の事例として私がPEI州関係者から聞いたのは「2010年代には輸出先および旅行者拡大で中国を重視していたものの、カナダと中国の関係悪化を受けて急速に冷え込み、中国に偏重することはリスクが大きい」という話でした。

 「そうです。かつてPEIからは年間約4千億カナダドル相当の生ロブスターを中国に輸出していましたが、中国政府がカナダ産の魚介類に100%の関税を課したために門戸が閉ざされてしまいました」

 ―カナダは米国、メキシコとの間で自由貿易協定(FTA)のアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を結んでいますが、発効6年後となる2026年7月1日までに実施する共同見直しに向けてトランプ氏は大幅な変更を辞さない姿勢を示していると報道されています。

 「USMCAは現在も有効で、PEIは実は非常に恵まれています。なぜなら、PEIから米国、メキシコへのほぼ全ての輸出品がUSMCAのおかげで現時点では関税が免除されているからです。一方でカナダには、トランプ政権が自動車や鉄鋼・アルミニウム、銅に対する輸入関税を引き上げた影響をより強く受けている州もあります。これらは他の州では非常に大きな産業になっているため、カナダ全体に大きな影響を与えています。このようにカナダ全体ではトランプ関税の影響を受けており、間接的な影響がPEIにも波及しています。ただ、PEIの現状はまずまずです」

▽PEIへの旅行促進アピールの「絶好の機会」

 ―日本には特にどのような品目の輸出を拡大したいですか。

 「あらゆる食品をもっと多く輸出したいのですが、特にブルーベリーは大きなチャンスがあると考えています。なぜならば日本向けのブルーベリーの流通ルートはまだ確立されていないものの、PEIは自然のままの素晴らしいブルーベリーを豊富に栽培しており、日本の消費者がその存在を知れば輸出を拡大できると考えているからです。一方、日本で既に多少売れているロブスターはもちろん、ムール貝やかきなどの幅広い魚介類もそろっています」

プリンスエドワード島産のブルーベリー(大阪市で大塚圭一郎撮影)
プリンスエドワード島産のブルーベリー(大阪市で大塚圭一郎撮影)

 ―私はPEIを2017年に訪れてロブスターと生ガキ、ムール貝の素晴らしさに感激しました。今回のイベントでは牛肉のバラ肉のステーキを試食し、PEIの牛肉の高品質ぶりにも驚かされました。

 「牧草で育てている自然飼育の素晴らしい品質のPEI産牛肉は、市場を順調に広げています。家族経営の小規模農場は牛を牧草地で放牧し、自然に生えた草を食べて育っています。このようなあらゆる品目で日本との関係を強化できると確信していますし、これこそが私たちが今回来日した使命です」

プリンスエドワード島の沖合で養殖したカキ(大阪市で大塚圭一郎撮影)
プリンスエドワード島の沖合で養殖したカキ(大阪市で大塚圭一郎撮影)

 ―PEIは2024年の旅行者数が年間過去最高となる約170万人でしたが、25年の旅行者数はどのように推移していますか。

 「ご存知の通り、PEIの主要産業の一つは観光業です。(トランプ関税への反発などで)米国への旅行を控えているカナダ人がPEIを大勢訪れたため、2025年夏は非常に好調でした。レストランとホテル、観光名所、公園のいずれにも大勢の旅行者が訪れ、PEI州の経済は非常に好調です」

 ―一方で、『赤毛のアン』が高い人気を誇る日本からの旅行者数はかつてより大きく減りました。

赤土が美しいプリンスエドワード島の海岸(大塚圭一郎撮影)
赤土が美しいプリンスエドワード島の海岸(大塚圭一郎撮影)

 「確かに私が若かった頃の1980年代後半から90年代にかけてはPEIで多くの日本人旅行者に出会い、今でも来ているものの昔ほど多くはありません。ですから、今回の訪日はPEIへの旅行を促進するためにアピールする絶好の機会でもあると思います。

 他方で日本が今、外国人旅行者数が非常に好調だと承知しています。大阪・関西万博の開催が追い風になっているだけではなく、非常に安全で美しい国、親切な国民性、おいしい料理が相まって訪日旅行の人気が急速に高まっています。今回は、ずっと日本に来たがっていた妻も帯同しました」

 ―日本からPEIへの旅行者数が減った背景には、外国為替市場での円安傾向で海外旅行費用が上がったことも一因になっています。

 「確かに過去数十年間に海外旅行の費用が高くなり、日本の訪問者数が減少したと認識しています。しかし私たちは、日本経済が繁栄し、日本の方々がよりお手頃な価格で旅行できるようになることを願っています。そしてPEIへのご来訪を促進し、歓迎するための方法を探していきます」

【ロブ・ランツ(Rob LANTZ)氏】ITやバイオサイエンス、再生可能エネルギーなどのスタートアップ企業のコンサルタント、投資家を経て、2023年4月にプリンスエドワード島(PEI)州議会議員に当選。PEI州の住宅・土地・地域相、教育・幼児教育相を経て、25年2月に第34代首相に就任した。州都シャーロットタウン出身。

色とりどりの漁師小屋が並ぶプリンスエドワード島のフレンチリバー地区(大塚圭一郎撮影)
色とりどりの漁師小屋が並ぶプリンスエドワード島のフレンチリバー地区(大塚圭一郎撮影)

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バンクーバーで第54回スーパーレディースゴルフ大会開催

スーパーレディースゴルフ大会2025に参加者で。2025年9月26日、バンクーバー市。写真提供 塩入勝子さん
スーパーレディースゴルフ大会2025に参加者で。2025年9月26日、バンクーバー市。写真提供 塩入勝子さん

 今年第54回を迎えた、毎年恒例のスーパーレディースゴルフ大会が9月26日、バンクーバー市University Golf Courseで開催された。天気が心配されたが、当日は厚い雲が覆ったものの雨が降ることもなくゴルフ日和となった。

 今年は例年より少ない参加者となったということだが、女性ゴルファーたちは日頃の練習の成果を存分に発揮。優勝はTerri Laliberteさん。主催した塩入勝子さんによると、54回目にして初めて日本人以外の名前が優勝者に刻まれたという。

優勝したLaliberteさん(左)と主催者の塩入さん。2025年9月26日、バンクーバー市。写真提供 塩入勝子さん
優勝したLaliberteさん(左)と主催者の塩入さん。2025年9月26日、バンクーバー市。写真提供 塩入勝子さん

 スーパーレディースゴルフ大会は1988年に「ルールなどを学びながら楽しくゴルフをうまくなりましょう」と塩入さんが日系の女性ゴルファーに声を掛けて始まった。現在は日系にこだわらず女性ゴルファーの交流の場として毎年開催されている。年に1回以上開催していた年もあることから今年が37年目となる。

 初優勝のLaliberteさんには優勝トロフィ、賞金、賞品が贈られた。

 毎年「来年も続けられたら」と話す塩入さんは「今年も開催できて本当によかった。次も参加してくれる皆さんがエンジョイしてプレーできるようにがんばりたいと思います」と語った。そして開催に尽力してくれた参加者や賞品をドネーションしてくれたスポンサーに感謝した。

第54回スーパーレディースゴルフ大会結果

Net
優勝 Terri Laliberte 68
2位 石倉仁美 71
3位 松下秀弥 73

Gross
優勝 石倉仁美 87
2位 Terri Laliberte 90
3位 Babara Mcdaniel 91

Gorss優勝、Netでも2位の石倉仁美さん(右)と塩入さん。2025年9月26日、バンクーバー市。写真提供 塩入勝子さん
Gorss優勝、Netでも2位の石倉仁美さん(右)と塩入さん。2025年9月26日、バンクーバー市。写真提供 塩入勝子さん

(記事 編集部)

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「アワ・レディ・ピース」音楽の楽園〜もう一つのカナダ 第40回

はじめに

 日加関係を応援頂いている皆さま、音楽ファンの皆さま、こんにちは。

 10月の声を聞くと一気に秋が深まり既に冬の予兆を感じます。先日、朝起きたら気温は1℃。日課のウォーキングに出かけた訳ですが、近所の公園に通じる遊歩道では前日の雨で出来た水たまりに薄っすら氷が張っていました。紅葉が進み、落ち葉も目立って来ました。空気が澄んで、遠くの景色も輪郭がはっきりと見えます。

 こんな初冬の季節には、自分を元気付けるために、芯の強いロック・ミュージックを聴きたくなります。商業化されたロックではなく、ウッドストックの頃の熱量と創造性を放射するような21世紀のロックです。

 そこで、今月の「音楽の楽園」はアワ・レディ・ピース(Our Lady Peace)です。敬愛を持ってOLPと呼ばれています。1992年にトロントで結成。以来、ヴォーカル兼ギター兼ソングライターのレイン・メイダを核として30年を超えて今も現役です。カナダのオルタナ/グランジ系ロックの象徴的な存在です。現在、「OLP30」と銘打ったコンサート・ツアーを敢行中で、12月にはトロントやバンクーバーでその勇姿が観れます。

名は体を表す

 ロック史を紐解くと、幾つかの偉大なバンドはアルファベット3文字の略称を持っています。ファンにとっては、その3文字が楽団の音楽性を表すだけでなく、歴史をも語りかけるのです。例えば、ELP(Emerson, Lake & Palmer)、ELO(Electric Light Orchestra)、BST(Blood, Sweat & Tears)、BBA(Beck Bogert & Appice)等々です。そんな、ロック烈伝にOLPも列せられています。

 そこで、まず疑問が沸くのはOLPという名前の由来です。Our Lady Peace、訳しようによっては「平和の聖母」です。決してロック・バンドっぽくはありません。しかし、ビートルズもローリング・ストーンズも楽団名には強烈なメッセージが含まれています。「平和の聖母」にもバンドの思いが込められているのです。

 時は、1991年。トロント大学で犯罪学を専攻していたレイン・メイダは、英国出身のギタリストのマイク・ターナーと出会い新しいバンドを結成。「As If」と名乗り、トロント近郊のオシャワを拠点に活動を開始します。やがて、音楽プロデューサーのアーノルド・ラニと出会い、オリジナル曲を軸に活動を本格化させ、音盤制作も視野に入れていきます。必然的に、バンド名をもっと印象深く主張の明確なものに変更しようとなるのです。

 そこで、メンバー間で相談している中で、行き着いたのが詩人・作家マーク・ヴァネ・ドレンの1924年の詩集「Spring Thunder」に収録された詩『Our Lady Peace』です。ドレンは、米国イリノイ州出身で長くコロンビア大学で教鞭を取り1940年にピューリッツァー賞を受賞。アレン・ギンズバーグやジャック・ケルアックらビート世代に影響を与えています。この詩は、人間社会の混乱や戦争、暴力の中に精神的な救済を求める内容で、Our Ladyは聖母マリアの慈愛を暗示し、Peaceは魂の安寧を志向しています。

 文学的かつ哲学的で精神的な内容である上に、その響きの美しさに惹かれて、バンド名に採用したと云います。メイダ自身も「宗教的な意味はなく、混沌とした中にある平和の感覚を表したかった」と語っています。OLPは30年以上に及ぶ活動の中で進化していますが、人間の孤独、精神的苦悩、社会への問いかけが音楽の根底にあり、このバンド名は正に「名は体を表す」を地で行っている訳です。

OLP始動

 音楽に限らず、文学でも映画、絵画、ファッション等の芸術では、時として、デビュー作品に作家の核心が表れるものです。OLPも例外ではありません。

 デビュー盤「ナヴィード(Naveed)」は、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムというロック・バンドの黄金律が生むシンプルにしてパワフルな直裁な音楽です。1994年3月にリリースされましたが、今聴いても荒削りな中に虚飾を排した原初的ロック・ミュージックの輝きが眩しいです。音盤の表題ナヴィードとはペルシャ語で「良い知らせ」或いは「福音」を意味し、メイダが書いた歌詞には形而上学的な要素が潜み、救済と破滅の間の緊張感、希望と現実の間に引き裂かれる孤独のような二律背反がテーマになっています。哲学的な主題が荒々しいロックのリズムに乗って歌われ、聴く者の胸にダイレクトに迫ります。特に、メイダの声は、一度聴くと耳に残ります。村上龍の最高傑作「コインロッカー・ベイビーズ」の主人公ハシを彷彿させる屹立した声と言うべきでしょうか。U2のボノに近い声質です。

 「ナヴィード」には全11曲が収録されています。これらの楽曲は、1992年にOLPが結成された直後から書き溜め、デモ・テープを作って、独立系のレコード・レーベルに売り込みをかけていたものです。1993年4月に最大手ソニー・ミュージックのカナダ会社と契約。以後、デビュー盤の本格的制作に入ります。リハーサル・スタジオを借り切り、演奏力を鍛えると同時に、楽曲の完成度を高めます。この段階で加入したドラム奏者ジェレミー・タガートは100人を超えるオーディション参加者の中から選ばれた弱冠17歳の神童です。

 デビュー盤の11曲に響く全ての音はOLPの4人のものです(但し、7曲目『Denied』のリードギターだけ例外的に。後にボンジョビのギタリストに就任するフィルXがゲストで弾いた)。バンド・メンバーだけで全て録音するというのは、巨大な産業と化し専門の職業的スタジオ・ミュージシャンが録音するのが普通の音楽業界では稀有なことです。バンドの息づかいや皮膚感覚が1ミリも違うことなく伝えられるのです。

 地元トロント周辺の好事家には知られていても一般には全く無名の新人バンドOLPでしたが、デビュー盤「ナヴィード」はカナダの若者の心を掴みました。グランジ系のロックが商業的な成功に繋がる例は多くないのですが、この音盤からは5曲がシングル・カットされ、1994年に10万枚以上が売れました。カナダのグラミー賞とも言うべきジュノー賞のデザイン部門も受賞しました。この音盤のちょっと変なジャケットが評価されたのです。

 そして、OLPはロック・レジェンドの心も掴むのです。あのレッド・ツェッペリンのロバート・プラントとジミー・ペイジが結成した「ペイジ&プラント」のコンサート・ツアーに同行してオープニング・アクトを務めることになったのです。これは凄いことです。実力が認められたということです。前座と書くと軽く見られがちですが、超大物を目当てに来た聴衆を前に演奏出来るのですから、新人バンドにとっては絶好の機会です。時には、主役を食うほどの盛り上がりを見せたと云います。更に、ヴァン・ヘイレンのツアーにも同行することになりました。英米の最高峰バンドのツアーへの同行は、評判を呼び、「ナヴィード」は米国でも英国でもリリースされることになりました。

 2021年11月の段階で「ナヴィード」はカナダだけで40万枚を売り上げたと公式に確認されています。

次作への挑戦

 OLPは、1992年の結成から2年後にデビュー盤をリリースし、英米の伝説的トップ・バンドのツアーに同行。1995年には、当時人気絶頂のアラニス・モリセットのツアーにも参加しています。瞬く間にカナダ有数のバンドへと成長した訳です。

 そうなると、当然ながら次回作への期待が否が応でも盛り上がります。しかし、事はそう簡単ではありません。人によっては、その期待をプレッシャーと感じることもあるでしょう。演奏ツアーを続けながら、バンドとしての統一感を維持した上で前作を超える質を達成し、時代を先取るのは、言うは易く行うは難しです。でも、OLPは“一発屋”で終わらず、“ちゃんとアルバムを作るバンド”であることを証明したいのです。

 まず、バンドの要ベースがダンカン・クーツに交代します。そして、1996年1月、新アルバム制作の準備のために、オンタリオ州マスコーカにあるクーツの山荘に楽器と録音機材を持ち込んで約1か月間籠ります。全くのトリビアですが、マスコーカは2010年のG8サミットが開催された場所で、私も代表団の一員で参加しましたが、周りに何も無い、大自然の懐に抱かれた地でした。要するに、OLPの4人のメンバーとプロデューサーのラニーは、家族・友人・レコード会社関係者・メディアから完全に隔離された環境に身を置き合宿した訳です。しかも1月の厳冬期です。曲づくりに集中するしかありません。休憩にアイスホッケーで気分転換したそうですが。結果、20曲の新曲が出来上がりました。ほぼ毎日、新曲が出来上がった訳です。

そして、最高傑作

 1996年2月、OLPはトロントのスタジオに参集。マスコーカで出来たばかりの新曲20曲をブラッシュアップして録音します。その中からベスト・テイク11曲が厳選されます。

 そうして第2弾音盤「クラムシー」が1997年1月にリリースされました。カナダのアルバム・チャートでは初登場1位を獲得。米国でもリリースされ、ビルボード誌アルバム・チャートにも入りました。「クラムシー」はカナダと米国でもそれぞれ100万枚ずつ売り上げています。音盤の質を売上枚数で示すのは商業主義的過ぎるかもしれませんが、マスコーカの音楽三昧の合宿生活で生み出された曲は、前作「ナヴィード」を超える佳曲揃いです。今回も完全にメンバー4人のみの録音でしたが、メイダはピアノ・キーボードも弾いて、バンド・サウンドに厚みを加えています。高速のドライブ感もあればスローなバラード調もあります。メイダの声も七変化。曲想の幅が大きく1枚の音盤の中に極上のロック宇宙が拡がっています。OLPの最高傑作にして、北米におけるグランジ系ロックの最良の1枚と言えると思います。

 そんな名盤の生まれた瞬間をメイダが次のように語っています。

 「その時までの曲は全部置いていって、まったくゼロから始めたんだ。MTVもMuchMusicも、メディアもマネージャーもいない。ただ音楽を演奏して、作曲しただけだった・・・朝起きた誰かがアコースティック・ギターを手に取って、自然に曲が生まれていく。また、“音楽を楽しむ”という感覚を取り戻せたんだ・・・何かを楽しみ始めると、もう他人がそれを好きかどうかなんてどうでもよくなる。そうやってプレッシャーが完全に消えたんだ。(エドモントン・ジャーナル紙)」

継続はチカラ

 OLPは、その後もコンスタントに音盤を発表しています。

 2000年の「スピリチュアル・マシーンズ」は、未来学者レイ・カーツワイルの著書に触発された音盤です。近未来にAIが人間の知能を超える特異点が来る可能性を念頭に、改めて人間とは何かを問う傑作。バンドの生音と電子音が共存するサウンドも象徴的です。

 2002年には、創設メンバーのマイク・ターナーが抜けて、バークレー音楽院出身の米国人ギタリストのスティーブ・マズールが加入。OLPは、新たな高みを目指します。グランジ系の荒々しいサウンドからストリングスも大胆に取り入れてより洗練されたサウンドへと進化して行きます。メイダの声もかつての高音域から中音域を主体に深みのある歌唱法へと変化していきます。音盤「グラビティ」には、結成から10年を迎えたOLPの新しい面が見えています。

 2003年には「Live」をリリース。結成以来の幾多の演奏ツアーで鍛えられたライブでの実力を余すことなく見せつけます。全く私事ですが、ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンで大音量でこのライブを聴きながらウォーキングをすると自然とチカラが沸いて来ます。ちょっと面倒くさく錯綜する難問も、きっと何とかなるとポジティブに捉えられるのが不思議です。

結語

 最新作は2025年7月に発表された「Whatever(Redux)」です。ここには、結成から33年を経ても、OLPの核にある社会の現実に関する透徹した認識と人間への温かい眼差しがあります。

 この曲は、カナダ出身でWWE所属のプロレス世界ヘビー級王者クリス・ベノワの応援歌として2002年に誕生。ベノワ入場のテーマ曲でした。「Live」にも収録されたヘヴィー・ロックの佳曲です。が、クリス・ベノワは長年のトレーニングと試合で慢性外傷性脳症を患い、2007年に悲劇的最後を迎えました。衝撃的事件でした。

 初出から23年を経て、OLPは、改めて自殺予防とメンタルヘルスへの意識を広げるために、斬新なアレンジで再録音したのです。この曲のストリーミング収益は全て北米各地の自殺防止活動に寄付すると云います。

 私達は、地球温暖化と厳しい地政学と人工知能の時代に生きています。過酷な現実の中、絶望と諦観、救済と希望を示すOLPの音楽が必要だと実感します。

(了)

山野内勘二・在カナダ日本国大使館特命全権大使が届ける、カナダ音楽の連載コラム「音楽の楽園~もう一つのカナダ」は、第1回から以下よりご覧いただけます。

音楽の楽園~もう一つのカナダ

山野内勘二(やまのうち・かんじ)
2022年5月より第31代在カナダ日本国大使館特命全権大使
1984年外務省入省、総理大臣秘書官、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、外務省経済局長、在ニューヨーク日本国総領事館総領事・大使などを歴任。1958年4月8日生まれ、長崎県出身

日本のアコースティック・デュオTOW(とう) のカナダ初公演ライブ

日本のアコースティック・デュオTOW(とう)のカナダ初公演となるツアーが、2025 年 11 月に開催されます。歌声、ギター、アコーディオンを融合させたシネマティックなサウンドで知られる TOW は、日本国内のみならず海外でも、幻想的かつ物語性に富んだ音楽で観客を魅了してきました。

今回のカナダツアーは、ブリティッシュ・コロンビア州内 3 つの会場で TOW の没入型パフォーマンスを体験する貴重な機会となります。

  • 11 月 6 日— バンクーバー|R. マクミラン・スペースセンター

プラネタリウムドームの下、 音と映像が 360 度に広がる圧倒的な没入空間で、TOWのシネマティックな音楽をお楽しみいただけます。

この特別公演には、サザンウェーブ沖縄の唄と踊り愛好会の皆さんをお迎えします。伝統と現代アートが交差する舞台をお楽しみ下さい。

  • 11 月 9 日— ミッション|クラーク・シアター

ツアーの最終公演となるミッションでは、ライティングとプロジェクション・デザインにより、幻想的で特別な劇場空間を体験いただけます。

TOW のステージは単なる音楽にとどまらず、ライブ映像やナレーションを取り入れることで、言語や文化を超えた体験を創り出します。さらに、今回の 2025 年ツアーは、Studio Snowblind による新作アクションアドベンチャーゲーム『Glaciered』のサウンドトラック制作と時期を同じくしてお り、彼らの多彩な表現力を改めて示すものとなっています。

チケット情報および詳細は、https://powellstreetfestival.com/tow-canada-tour-2025/、または各会場の公式サイトをご覧ください。

H-Martラングレー店内にダイソーがオープン

DAISOカナダのスタッフが揃って、H-Martラングレー店で。写真提供 H-Mart。
DAISOカナダのスタッフが揃って、H-Martラングレー店で。写真提供 H-Mart。

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバー市を中心に展開しているアジア系スーパーマーケット、H-Martのラングレー店内に日本のダイソーが9月24日にオープンした。

 H-Martラングレー店は、現在メトロバンクーバーでも急速に発展しているバンクーバー市郊外のラングレー市にある。

 今回のオープンについてダイソーカナダは、「この度、ラングレーのH-Mart様の店内にDAISO店舗をオープンさせていただきました。H-Martラングレー店の開店により5店舗体制となります。ラングレー地区は人口の増加が進んでおり、当社としてもぜひ出店をしたいと考えていた地区でございます」とコメント。

 H-Mart店内への出店については、「H-Mart様の高い運営能力と商品力、当社の商品との親和性に期待して出店の相談をさせていただきました。開店にあたり多大なるご協力を賜り、当社の通常の店舗と同水準の品揃えで開店させることができました。同地区の消費者の皆さまに日本品質のDAISO商品を提供できる機会を与えていただいたことに心より感謝しております。また、新しい商品の導入や品揃えの改善などを進めてまいりますので今後ともご愛顧のほどよろしくお願いいたします」と相乗効果を期待した。

 H-Mart担当者は、「H-Martラングレー店内に、5店舗目となるDAISOが9月24日(水)にオープンいたしました。オープン前から大きな注目を集め、当日には多くのお客様にご来店いただきました。ダイソー様の商品は、低価格でありながら品質にもこだわり、一定水準以上の機能性やデザイン性を備えております。これにより、地域のお客様にもご満足いただけるものと確信しております」と語っている。

 H-Martは1982年にアメリカで創業。カナダでの1号店は2002年BC州コッキトラム市。以来、バンクーバー・ダウンタウン店などメトロバンクーバーに8店舗、BC州では9店舗目となるビクトリア店が今年5月22日にオープンした。国内では、アルバータ州に4店舗、オンタリオ州7店舗、ケベック州で3店舗を展開している。

 ダイソーはカナダで初めての直営店を2021年4月1日にバンクーバー市ダウンタウンのグランビルストリートにオープン。当時は新型コロナウイルス禍にもかかわらず、オープン時には長蛇の列ができた。現在は、バンクーバー市ダウンタウン、バーナビー市メトロタウン、サレー市ストロベリーヒル・ショッピングモール、リッチモンド市ランズダウンセンターに展開。ラングレー市H-Martラングレー店内で5店舗目となる。

「キッチン用品や文具などの生活必需品に加えて、各種公式キャラクターグッズも豊富に品揃えしています」というH-Martラングレー店内。写真提供 H-Mart
「キッチン用品や文具などの生活必需品に加えて、各種公式キャラクターグッズも豊富に品揃えしています」というH-Martラングレー店内。写真提供 H-Mart

(記事 三島直美)

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第29回 私活(わたしかつ)=「私を生きる」って、どういうこと? ~Let’s 海外終活~

終活は新しい大人のマナー

叶多範子

気づけば、もう10月。秋の風が心地よく感じられるようになりました。

ふと足を止めて空を見上げると、日差しの角度までやさしく変わっていることに気づきます。そんな季節の変わり目は、自分の心や暮らしを見つめ直すのにもぴったりですね。

さて、先月のコラムでご紹介した「私活(わたしかつ)」について、「もっと詳しく聞きたい!」という嬉しいメッセージをいただきました。今回はその“私活”を、少し深掘りしてお話しします🌸

実は「私活」とは、私の造語なんです。(今、試しに「私活(わたしかつ)」で検索してみたら、出てくるのは全部、私のブログとこの連載ばかりでした)

私が考える終活は「死や終わりの準備」ではなく、“これからを自分がどう生きたいか”に焦点を当てる活動のこと。

先日、あるオンライン対談で、教育の現場で長く活躍されている方が、こんな言葉を口にしました。

 「私は今が一番幸せ!地に足がどーんと着いてる!自分を満たすことが幸せ!!」

その瞬間、心の中で拍手したくなりました。あぁ、これこそ“私活”だなって。「誰かのため」だけに生きるのではなく、ちゃんと“自分の軸”をもって生きている。

私たちはつい、家族のことや人の目を優先して、自分の想いを後回しにしてしまいがちですよね。でも、ふと立ち止まって考えてみてほしいんです。

 ・どんな暮らしをしたい?
 ・自分が本当にしたいことは何?
 ・今、幸せって自信をもって言える?

この問いに素直に答えられたら、きっとそれが“私活”の第一歩。人の期待や常識に流されず、自分の人生のハンドルをしっかり握ること。それが「私を生きる」ということ。

でも現実は、そう簡単じゃないですよね。

仕事、家族、健康、お金、環境、、、、どれも大切。だからこそ、やりたいことを後回しにしたり、今すぐには動けないこともあります。私自身も、「やりたいけど、今は無理かも」と感じる瞬間が何度もあります。

でも最近気づいたんです。「できない理由」を一枚裏返すと、そこには本当の「夢」が隠れている。

たとえば「時間がない」は、「本当はもっと自分の時間を大事にしたい」、「家族が反対する」は、「本当は応援されるくらい自分を信じたい」。実はそんな願いの裏返しだったりするのです。

だから、“私活”は完璧じゃなくていい。

現実と理想のあいだで揺れながらも、「私はどう生きたい?」と自分に問い続けることが、すでに“私を生きる”ことなんだと思います。

終活=私活。

それは「人生の終わり」を整えることではなく、「これからの人生をどうデザインし、どんな未来を描くか」を考えることです。

年齢を重ねても、「私、今が一番幸せ」と言える自分でいたい。そのために、日々の暮らしの中で小さな“私活”を積み重ねていきたい。

今日も、自分の人生を自分らしくデザインしていきましょう!

Let’s 私活!

*ご感想・ご質問は、メールにてお気軽にどうぞ。voice@shukatsu.ca

本コラムは終活に関する一般的な情報提供を目的としています。内容には十分配慮しておりますが、必要に応じてご自身での確認や、専門家へのご相談をおすすめします。なお、本コラムをもとに行動されたことによる不利益については、免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。

叶多範子(かなだ・のりこ)

グローバルライフデザイナー/海外終活アドバイザー
カナダ・バンクーバー在住。

カナダで親しい友人を突然亡くしたことをきっかけに、終活の大切さを実感。
相続専門の弁護士アシスタントとしての経験をもとに、海外を含むさまざまな場所で暮らす日本人の終活を、学びの視点から支えている。

エンディングノートの活用や家族との対話を通じて、「自分らしくこれからを生きる」ヒントを共有する活動を続けている。

「終活」を、これからの人生を見つめ直す機会ととらえる——そんな“私活(わたしかつ)”という考え方も、大切にしている。

家族は、カナダ人の夫、2人の息子、愛猫1匹。
ホームページ:https://www.shukatsu.ca

「赤毛のアン」の島、州首相が日本への輸出拡大を目指して豊かな食品PR トランプ米大統領復帰で「貿易不透明」の中で

2025年大阪・関西万博のカナダ館の赤くライトアップされた様子(大塚圭一郎撮影)
2025年大阪・関西万博のカナダ館の赤くライトアップされた様子(大塚圭一郎撮影)
2025年大阪・関西万博のカナダ館でのイベントでプリンスエドワード島(PEI)について紹介するロブ・ランツPEI州首相(大塚圭一郎撮影)
2025年大阪・関西万博のカナダ館でのイベントでプリンスエドワード島(PEI)について紹介するロブ・ランツPEI州首相(大塚圭一郎撮影)

 小説「赤毛のアン」の舞台として知られるカナダ東部プリンスエドワード島(PEI)州のロブ・ランツ州首相が来日し、ロブスターやサーモン、かき、ムール貝といった豊かな食品を紹介するイベントが2025年大阪・関西万博(大阪市)のカナダパビリオン(カナダ館)で9月20日、開かれた。最大輸出国となっているアメリカ(米国)のドナルド・トランプ大統領が輸入品への関税を引き上げるなど「アメリカとの貿易が不透明になっている」(ランツ氏)という中で、日本を含めた世界への輸出を拡大するのが狙いだ。

▽「タリフマン」が脅威に

 カナダは2024年のモノ(商品)輸出のうち約76%に当たる5474億カナダドル(1カナダドル=105円で57兆4770億円)を米国が占めている。私が2020~24年に駐在していた米ワシントン首都圏では、PEI産の新鮮なカキが「安心して食べられるブランド」として認知されて販売されていた。

 輸出の追い風になっているのは、カナダと米国、メキシコが結んでいる自由貿易協定(FTA)の「アメリカ・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)で、魚介類や農産物の多くの品目について互いに輸入関税の適用を免除している。

 しかし、「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ氏は、USMCAの大幅な見直しを迫っている。発効6年後となる2026年7月1日までに実施する共同見直しが迫る中で、カナダのムール貝漁獲量のうち約8割を占め、ジャガイモ生産量のうち約2割を賄うなど食品生産が活発なPEI州は懸念を強めている。

▽カナダ館政府代表「『カナダの食の島』という名にふさわしい」

 カナダ館のローリー・ピーターズ政府代表は「小説『赤毛のアン』の舞台であるPEIは赤い砂浜と肥よくな農地から世界的に有名なロブスター、ムール貝、ジャガイモに至るまでが送り出されているプリンスエドワード島は『カナダの食の島』という名にふさわしい存在だ」と紹介。

2025年大阪・関西万博カナダ館のローリー・ピーターズ政府代表(大塚圭一郎撮影)
2025年大阪・関西万博カナダ館のローリー・ピーターズ政府代表(大塚圭一郎撮影)

 PEI州のランツ州首相は「PEIの魚介類や農産品の高い品質の背景には漁師や農家のまごころ、何世代にもわたって海と大地で働いてきた家族の誇り、そして安全で持続可能、信頼される食料を生産するという確固たる決意がある」と強調した。

ロブスターロールを作るところを実演するシェフのアダム・ルー氏(大塚圭一郎撮影)
ロブスターロールを作るところを実演するシェフのアダム・ルー氏(大塚圭一郎撮影)

 イベントでは、バンズにロブスターの身を挟んだ「ロブスターロール」や生ガキ、蒸したムール貝の料理、揚げたジャガイモに載せたスモークサーモン、バターと香草で味を添えたズワイガニの料理、牛肉のバラ肉を焼いたステーキなどが出席者に振る舞われた。

 PEIのレストランで腕を振るうシェフのアダム・ルー氏は、持続可能な漁業をしていることを証明する国際認証制度「海洋管理協議会」(MSC)の認証を受けたロブスターを使ったロブスターロールを作る様子を実演した。

 また、PEIの州都シャーロットタウンにある「赤毛のアン」を題材にしたチョコレート店「アン・オブ・グリーンゲイブルズ・チョコレート」や、PEIにあるブルーベリー農園などの経営者らも会場で自社商品を売り込んだ。

【プリンスエドワード島】北大西洋に面したセントローレンス湾に浮かぶ島で、2025年4月1日時点の人口は18万29人。島を所管するプリンスエドワード島州はカナダの州としては最小で、州都はシャーロットタウン。赤い砂浜と灯台、瑠璃色の海で知られる保養地となっており、日本でもルーシー・モード・モンゴメリの小説『赤毛のアン』の舞台として広く知られている。

 カナダ連邦が誕生した1867年7月の約3年前、国家樹立について協議した最初の建国会議の舞台はシャーロットタウンだった。このためカナダ本土のニューブランズウィック州との間に1997年に架けられた橋は、連邦結成を意味する「コンフェデレーション橋」(全長12・9キロ)と名付けられた。橋は高速道路の一部となっており、片側1車線、計2車線の道路を通って自動車で直行できる。

バターと香草で味を添えたズワイガニの料理(大塚圭一郎撮影)
バターと香草で味を添えたズワイガニの料理(大塚圭一郎撮影)
2025年大阪・関西万博のカナダ館の赤くライトアップされた様子(大塚圭一郎撮影)
2025年大阪・関西万博のカナダ館の赤くライトアップされた様子(大塚圭一郎撮影)

(共同通信社経済部次長・日加トゥデイ連載コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」執筆者・大塚 圭一郎)

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美しく、壊れて—福丸直子による金継ぎ

2025年10月14日〜2026年2月21日

オープニングレセプション&アーティスト・トーク
2025年10月11日(土)午後2時〜5時

金継ぎは、割れた陶磁器を漆と金粉で修復する500年の歴史を持つ伝統的な技法である。その修復跡を隠すのではなく、新しい景色にすることで、不完全さや時間の流れを美として称える。

バンクーバーを拠点に活動するアーティスト、福丸直子は金継ぎ技法を、単なる技術としてだけでなく、瞑想的なプロセスとしても捉えている。彼女の作品は、心の癒しに対する力強いメタファーを提示している。それは、割れた陶器と同じように、私たち自身の傷もまた、変容し、輝き、美しいものへと生まれ変わる、私たちの物語の一部となり得るということである。

福丸は、伝統的な素材と技法を尊重しながらも、本能的かつ革新的な技法によって、金継ぎの可能性を広げている。彼女のアプローチは、歴史と感情を結びつけ、ありのままでありながらも輝きを放つ作品を通じて、「修復」という行為の新たな意味を再定義する。

本展は、観る者に「美しく、壊れている」とはどういうことか、そして不完全さの中に強さと美しさを見出すことについて、深く考えるきっかけを与えてくれるであろう。

場所: 日系文化センター・博物館 (6688 Southoaks Cres. Burnaby.  Kingsway x Sperling) エドモンズ・スカイトレイン駅から徒歩またはバス (#119) でお越しいただけます。

七五三祝い@東漸寺2025 のお知らせ

七五三とは、三歳・五歳・七歳という成長の節目に、無事に成長できたことへの感謝と、これからの幸福・健康・長寿を祈る、日本の伝統的な行事です。
お寺でも七五三のお祝いができることをご存じでしょうか?

和の学校@東漸寺では、以下のサービスを随時承っております(いずれも有料・予約制です):

    お参り
  着物レンタル
    着付けサービス
    記念写真撮影

詳細・料金につきましては、ホームページ「お寺で七五三お祝いプラン」をご覧ください。

https://wanogakkou.jimdofree.com

※お席に限りがございますので、お早めのお申し込みをおすすめいたします。

どうぞお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ先:コナともこ(tands410@gmail.com)

<合同法要のお知らせ>

※日時などが変更となる場合がございます。事前にご確認いただけますと幸いです。

    日時:2025年11月16日(日曜日) 午前11時
    会場:東漸寺(Tozenji)本堂
    住所:209 Jackson St. Coquitlam, BC

<参加費およびお祝いサービス>

    合同法要へのご参加:$10〜(ドネーション)
    法要内でのお名前の読み上げをご希望の方:$30〜(ドネーション)
    着物レンタル・着付けサービス:$180〜
    記念写真撮影サービス:$250〜(カメラマンにより異なります。詳細はホームページをご確認ください)

※事前にお申し込みいただいた方、または着物レンタルをご利用の方へ:先着10名様に千歳飴をプレゼント!

どうぞよろしくお願いいたします。

コナともこ

和の学校@東漸寺

「カナダ“乗り鉄”の旅」第29回 大陸横断列車の至福体験にも、隣の芝生は青く見える一角!驚愕の「VIPコーナー」とは シリーズ「カナディアン」【3】

カナダ西部アルバータ州エドモントン駅に停車中のVIA鉄道カナダの列車「カナディアン」(大塚圭一郎撮影)
カナダ西部アルバータ州エドモントン駅に停車中のVIA鉄道カナダの列車「カナディアン」(大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダ西部の主要都市バンクーバーを出発し、同国最大都市トロントへ4泊5日で向かうVIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」は、アメリカの有力旅行雑誌「コンデナスト・トラベラー」の読者が選ぶ「世界の優れた鉄道旅行ランキング」で2024年に13位となったように世界屈指の人気列車だ。線路上の至福体験が待ち受けていることは、優れた鉄道旅行を表彰する「鉄旅オブザイヤー」の審査員であり、VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」の会員でもある私が太鼓判を押す。それでも編成の最後尾と後ろから2両目にひそかに存在する「VIPコーナー」に一瞬でも足を踏み入れると、隣の芝生は青く見える―。

▽最上級クラス、料金はエコノミークラスの13倍超!

 1954年デビューと「古希」を過ぎたステンレス製客車が連なるカナディアンにあって、原形をとどめないほどの変貌を遂げた「VIPコーナー」が存在する。それは2階部分がガラス張りのドーム状になっており、1階後方のソファからは流れゆく車窓も楽しめる展望車「パークカー」と、後ろから2両目の客車に計8室ある最上級クラス「プレスティージ寝台車クラス」だ。

VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」の最上級クラス「プレスティージ寝台車クラス」の客室(VIA鉄道カナダ提供)
VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」の最上級クラス「プレスティージ寝台車クラス」の客室(VIA鉄道カナダ提供)

 慢性的な赤字経営に陥っているVIA鉄道が高収益の顧客獲得を目指し、2015年に導入した。2人用の客室は広さが約6・5平方メートルと、私たちの家族が利用した通常の寝台車「寝台車プラスクラス」の2人用個室より約50%広い。日中は「L」の字になった長いすに腰掛け、他の客車より大きな窓からの眺望を楽しんだり、備え付けの大型テレビで好きな番組を視聴したりできる。

 利用者の要望を受け付けるコンシェルジュが乗務しており、夜になると壁から大きなダブルベッドを引き出す。各室にはトイレとシャワーも備えている。パークカーにはカクテルなどのアルコール類を楽しめるバーカウンターを設けた「ミューラルラウンジ」があり、プレスティージ寝台車クラスの利用者はミューラルラウンジと食堂車でアルコール類を無料で楽しめる。

VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」のパークカーにある「ミューラルラウンジ」(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」のパークカーにある「ミューラルラウンジ」(大塚圭一郎撮影)

 車両間にある仕切り扉もボタンを押せば自動で開閉し、手動で押して開けなければならない他の客車と差異化している。

 プレスティージ寝台車クラスにトロント―バンクーバーの全区間に乗った場合の2025年の繁忙期(5月1日~11月15日)の正規料金は、1人当たり6965カナダドル(1カナダドル=107円で約74万5千円)からという大枚をはたくことになる。

 寝台車プラスクラスの2人用個室利用は1人当たり3029カナダドル(同約32万4千円)からと値段が張るものの、プレスティージ寝台車クラスは2倍超だ。一方、背もたれが倒れる座席の「エコノミークラス」は1人の料金が514カナダドル(同約5万5千円)からで、同じ列車でもプレスティージ寝台車クラスの乗客は実に13倍超を支払っていることになる。

外から見たVIA鉄道カナダの列車「カナディアン」の「プレスティージ寝台車クラス」の客室(大塚圭一郎撮影)
外から見たVIA鉄道カナダの列車「カナディアン」の「プレスティージ寝台車クラス」の客室(大塚圭一郎撮影)

 このようにプレスティージ寝台車クラスの料金は断トツで高額なだけに、雲の上の体験を堪能してもらおうとさまざまな“特権”が用意されている。繁忙期にパークカーへいつでも自由に立ち入れるのはプレスティージ寝台車クラスの利用者だけで、寝台車プラスクラスの乗客は原則として午後7時~10時半の夜間しか入れない。

 これは車窓が真っ暗になるためパークカーで車窓を眺める乗客が減ることと、寝台車プラスクラスの乗客にミューラルラウンジでアルコール類を買ってもらいたいとの思惑があるからだ。

 私は「乗り鉄」なのはもちろん、鉄道関連の写真撮影をする「撮り鉄」、列車の走行音や車内放送を録音する「録り鉄」も兼ねているが、列車に乗ると必ず杯を傾ける「のみ鉄」というわけではない。ミューラルラウンジのアルコール類は結構な高額のため、2024年8月にバンクーバーからウィニペグまで乗車した際にパークカーに足を運ぶ機会は限られた。

VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」のパークカーの最後尾に並べられたソファ(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」のパークカーの最後尾に並べられたソファ(大塚圭一郎撮影)

 そこで今回は、閑散期の2023年12月にトロントからバンクーバーまで息子と2人で寝台車プラスクラスに乗車し、全線走破した際にパークカーで出会ったプレスティージ寝台車クラス利用者らの実像を紹介する。私にとっては、プレスティージ寝台車クラスが高嶺の花であることを実感するのに十分過ぎる体験だった…。

▽学会に合わせて北米を周遊する医師夫妻

 息子と一緒にパークカーのミューラルラウンジの座席に腰掛け、「アルコール類ではないため」無料で提供されているコーヒーをすすっていると優雅な雰囲気の女性がやってきた。目が合ったのであいさつし、会話をした。

 この女性はオーストラリア・クイーンズランド州の州都ブリスベンに住んでおり、医師の夫が学会に出席したのに合わせてカナダのモントリオールやトロント、バンクーバー、アメリカのシカゴ、サンフランシスコといった北米各地を周遊する旅行の最中だという。

 女性は「うちの夫は日本語も話せるのよ。日本のアニメや映画などのコンテンツに興味があり、個人レッスンで日本語を習得したの」と言い、個人レッスンの授業料は「とても高額だったのよ」と打ち明けた。

 かつて夫妻で訪日して「長野や新潟、札幌などに行った」とも話し、いずれも国立大学法人の有力医学部があるので学会で訪れたと私は推察した。

 すると、食堂車での夕食に向かうために女性を迎えに来た夫が現れた。夫は私たち親子を見るなり、「初めまして」と流ちょうな日本語で語りかけてきた。

 大枚をはたいて乗り込んでいるプレスティージ寝台車クラスの利用客は“破格の扱い”を受けられるものの、食堂車での夕食のメニューは寝台車プラスクラスの乗客と変わらない。異なるのはアルコール類が無料か、そうではないかという点だけだ。

 もっとも、「のみ鉄」の皆様は「タダ酒が振る舞われるかどうか、それが大きな問題だ」と声を張り上げるかもしれない。

▽バンクーバー島とウィスラーを両立する“魔法の杖”とは

 私たち親子はもっと後の時間帯に夕食を予約していたため、夫妻を見送った。次に現れたのはインド系とおぼしき男性で、バーカウンターで女性乗務員に「ジンを頼む」と注文した。

 続けて、これからが本題だと言わんばかりに「バンクーバーに着いた後に2日間でバンクーバー島やウィスラーなどを巡りたいんだ」と切り出した。

 そう、バーカウンターの向こうに立っている乗務員はバーテンダーの他にも「別の顔」も持つ。プレスティージ寝台車クラスの利用客の相談に乗るコンシェルジュの役割も担っているのだ。

 乗務員は「バンクーバー島を移動するには時間がかかり、ウィスラーはバンクーバー島から離れています」と解説し、どちらかに絞った方がいいことを暗に示唆した。

 立地するブリティッシュ・コロンビア州の皆様には釈迦(しゃか)に説法で恐縮だが、同じ「バンクーバー」の名前が付いていてもバンクーバー島は、北米大陸にあるバンクーバーから隔てられた西側にある島だ。バンクーバーから訪れるには船舶や水上飛行機、旅客機に乗る必要があり、世界で43番目に大きい島のため周遊するには時間を要する。

 一方、スキー場や宿泊施設が立ち並ぶ保養地のウィスラーはバンクーバーの北にあり、バンクーバー島とは方角が異なる。バンクーバーからバスで約2時間かかるため、往復して滞在を満喫するには少なくとも半日は必要だ。

 男性は、それらを両立させるために富裕層ゆえの“魔法の杖”を持っていた。「そこで、プライベートツアーを手配してもらえないだろうか」と要請したのだ。「バンクーバーでの短い時間を無駄にはできないのでね」とも付け加え、「TIME IS MONEY(時は金なり)」と顔に書かれている。

 乗務員は会得した様子で、手元の電子機器端末の操作を始めた。男性がジンのグラスを片手にくつろいでいると、「予約が取れました」という乗務員の声が響いた。

 プライベートツアーの手配を終えた男性の表情が、対照的な境遇の私には“ドヤ顔”に見えて仕方がなかった。男性の客室がプレスティージ寝台車クラスなのに対して私は寝台車プラスクラス、飲んでいるのはジンに対してコーヒー、そしてバンクーバー到着後の移動手段はプライベートツアーに対して鉄道やバスの公共交通機関なのだから…。

▽選んだ「理由があるんだ」という男性

 パークカーの2階には車窓を360度見渡すことができる展望用座席があり、ドーム形になった天井の付近まで窓が延びている。通路を挟んで左右二つずつの座席が6列、計24席あり、うち最前列の4席の上部には「プレスティージ客専用」と記した札が差し込まれていた。

VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」のパークカーの2階にある展望用座席(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」のパークカーの2階にある展望用座席(大塚圭一郎撮影)

 息子とともに2列目に座ると、1人の男性が札の差し込まれた最前列の座席に陣取った。男性はこちらを振り返り、笑みを浮かべながら「日本にはこんなにゆっくりではない、高速で走る新幹線があるよな。最高時速は何キロ出るんだっけ?」と尋ねてきた。息子と日本語で話していたので、日本人だと気づいたらしい。

 「最も速い東北新幹線の最高時速は320キロですね。最初に開業した新幹線の東海道新幹線の最高時速は285キロです」と答えると、男性は「僕も日本を訪れた時には東京から京都まで東海道新幹線に乗ったんだ。日本では鉄道で旅行をしたのに、自分の国で鉄道旅行をするのはこれが初めてなんだよ」と打ち明けた。

 当時71歳だった男性は西部アルバータ州カルガリーに住み、エレベーター大手フジテックのカナダ法人の元社員。「滋賀県の本社に呼んでもらった時に東海道新幹線に乗ったんだよ」と振り返り、バンクーバー国際空港とカルガリー国際空港のエレベーターやエスカレーター、動く歩道も「フジテック製が採用されているんだ」と教えてくれた。

 男性はカナダで初めての鉄道旅行をしたのも、最上級のプレスティージ寝台車クラスを選んだのも「理由があるんだ」と打ち明けた。妻が東部モントリオールで脚の手術を受けて自宅に戻る帰路だったため、リハビリを兼ねて適度に歩くことができ、快適に過ごせる移動空間を選んだというのだ。

 「料金は高かったけれども、妻が適度な運動ができて居住性が優れた客室を良いと考えたんだ」という男性の気遣いに私も大いに納得し、首を縦に振った。

 「それにこの列車に(アルバータ州)エドモントンまで乗り、帰宅すればクリスマスまでにカルガリーに着ける。だから、今年も家族が集まって一緒に過ごすことができるんだ」。そう言って目を細める男性の表情は、VIP待遇を超越した幸福感と期待感に満ちあふれていた。

VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」のパークカーの最後尾にあるソファに座る筆者
VIA鉄道カナダの列車「カナディアン」のパークカーの最後尾にあるソファに座る筆者

【プレスティージ寝台車クラス】VIA鉄道カナダが夜行列車「カナディアン」だけに連結している最上級の2人用個室で、旅客機のファーストクラスに相当する。客室の広さは約6・5平方メートルあり、トイレとシャワーも備えている。日中は「L」字型になった長いすに腰掛けて広い窓からの景色や、大型テレビでの番組視聴を楽しめる。夜は壁からダブルベッドが出てくる。利用者の要望を受け付けるコンシェルジュがおり、展望車「パークカー」のバーカウンターや食堂車ではアルコール類も無料で注文できる。

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

映画「あかし」がVIFFでワールドプレミア!吉田真由美監督インタビュー

「あかし」より。Photo by VIFF
「あかし」より。Photo by VIFF

 「今は緊張していますが、やっとここまで来れたって感じです」と、笑顔でインタビューに応じた吉田真由美監督。2017年に監督・主演した短編映画「あかし」が、ブリティッシュ・コロンビア州映画界のSpotlight Awardsで新人賞を受賞した当時は、自分で脚本、監督、主演、プロデュースの全てをこなし「4つくらい帽子をかぶっていないと不安になるんです」と話していた。

 YouTubeで無料配信していたその短編映画が、約9年後さらに大きくなって今回長編デビューする。しかも初プレミアの舞台はバンクーバー国際映画祭(VIFF)の目玉、世界各地から選ばれた注目作品が上映されるPlayhouse劇場。「この映画とは長いつきあいだった」と監督が認めるぐらい映画「あかし」には監督自身のプライベートな思い出がある。

映画のストーリー「『あかし』は、世代と時を越えて紡がれる愛の物語」

「あかし」より。Photo by VIFF
「あかし」より。Photo by VIFF

 バンクーバーでアーティストとして奮闘するカナ(吉田真由美)は、祖母(木野花)の葬儀のために10年ぶりに東京へ戻ってくる。長い海外生活のせいで、故郷に居場所を見いだせずにいるカナ。これをきっかけに、祖母と自分だけが共有していた秘密――祖父(村井國夫)にもう一人の女性(松原智恵子)がいたこと――を思い出すカナは、偶然にも昔の恋人ヒロ(田島亮)と再会する。物語は祖父の長きにわたる愛人関係と交差し、家族に隠されてきた真実が少しずつ浮かび上がっていく。やがてカナは、愛に生きることの代償と、夢と責任のはざまで揺れる人生の選択に向き合っていく。

色彩パレットのような映像

吉田真由美監督。Photo by 2025 Pender PR
吉田真由美監督。Photo by 2025 Pender PR

 祖母のために作った映画なので、これから見てくれる人たちの反応が最初は心配だったという監督。だが色々な人に脚本を読んでもらっているうちに、このストーリーはユニバーサルで世代を超えて誰にでも通用すると感じた。そこで映像も従来なら過去がクラシックな白黒、現在は鮮明なカラーのところ、過去は愛人同士の目線で振り返るために鮮やかなカラー、現代の葛藤に普遍性を持たせるためにカナのストーリーは白黒でクラシカルに見せるという手法を選んだという。

 「鮮明な記憶をたどっている祖父の目線には色があると思ったんです」と監督。「逆にかなの描写は白黒に感じました」と続けた。「いつの時代でも人は心の葛藤を持っています。今ある感情に色をつけずに見たら本質を感じ取ってもらえるのでは」と思ったという。「ナチュラル」という言葉が似合うくらい時間が止まったように変化しながら映画は進んでいく。

素敵なコラボ

 映画のクロージング・ソングは坂本龍一さんの「Aqua」。吉田監督はこの曲を聞きながらストーリー中の気持ちの整理ができたそうだ。「映画の軸になっています」と話す通り、愛、存在、繋がりの「あかし」が最後まで感じられる曲だ。

 さらに音楽担当のAndrew Yong Hoon Leeさんは、作曲家目線から常に「映画はアート」だとリマインドしてくれたと語った。出演俳優も松原智恵子さんや村井國夫さんなどのベテラン俳優が脇を固め、映画製作からすてきなコラボが実現したようだった。

 10月5日初日のワールドプレミアには日本から俳優も駆けつけて、吉田監督と一緒に舞台あいさつをする予定。

「あかし」

10月5日(日)6pm @Vancouver Playhouse
10月9日(木)3pm @Granville Island Stage

詳細・チケット情報はウェブサイトを参照:https://viff.org/whats-on/viff25-akashi/

「あかし」撮影の様子。Photo by 2025 Pender PR
「あかし」撮影の様子。Photo by 2025 Pender PR

(取材 Jenna Park)

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10月9日、Vancouver Sake Fest ’25開催!〜100種類以上の日本酒と出会えるイベント〜

日本酒ファン必見!「Vancouver Sake Fest ’25」が、今年もバンクーバーにやってきます。日本酒・焼酎をはじめとする日本のお酒が勢ぞろい!

記念すべき第5回目となる今回は、昨年300名以上を魅了した盛り上がりを超える特別な一夜になること間違いなし。

普段はなかなか出会えない銘酒や限定酒を、食品スポンサー様ご提供の和牛やお刺身、ホテルシェフ特製の前菜とともに心ゆくまで味わえる特別な一夜。日本酒好きの方はもちろん、これから日本酒に触れてみたい方にもぴったりの機会です。

開催概要

<日時>2025年10月9日(木)18:00〜21:00(PDT)
<会場>Coast Coal Harbour Vancouver Hotel by APA(1180 West Hastings Street, Vancouver, BC V6E 4R5)

☆チケット購入はこちら:Eventbriteチケットページ

イベントの内容

*写真は昨年の酒フェスのもの

[100種類以上の日本酒・焼酎・梅酒・ビールをテイスティング!]
バンクーバーで大人気のお酒や、新商品など、100種類以上の日本酒、焼酎、梅酒、ビールなどを一堂に楽しめます。酒蔵の伝統と革新に触れながら、テイスティングを通して奥深い味わいと多様性を体験してください。

いろんな酒蔵の日本酒を飲み比べながら、それぞれの味わいや特徴を気軽に体験できます。会場では日本酒に詳しい人たちから、ちょっとした豆知識や、おすすめの飲み方も聞けます。

*写真は昨年の酒フェスのもの

[豪華な食事とペアリング]

今年は、スポンサー様からのご厚意で、和牛やお刺身も一緒にお楽しみいただけます!

日本酒に合うシェフ特製のおつまみもご用意。グラスを片手に、ぜひ自分だけのとっておきのペアリングを見つけてみてください。

チケット情報

Kanpai Pass(10杯分のドリンク+前菜やスナック付)$95
※19歳以上のみ入場可(ID必須)

大人気イベントのためお早めの購入をおすすめします!

下記よりチケット購入サイトにお進みください。

チケット購入はこちら:Eventbriteチケットページ

<日加トゥデイ読者の皆様に特別なオファー>

1.    Instagramで @sake_association_bc をフォロー&いいね
2.    DMで「SakeFest25」と送信
3.    割引チケット用プロモコードをゲットできます!

この秋、バンクーバーで最高の日本酒体験を。
ご友人や同僚を誘って、美味しいお酒と食事を楽しみにVancouver Sake Fest ’25に参加しましょう!当日会場でお会いできるのを楽しみにしています!

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アクシスプランニングのお酒を一部紹介!

今回紹介するすべての銘柄は10月9日にある酒フェスで飲むことができます!

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酒造名:人気酒造(福島県)
商品名:Rice Magic スパークリング RED

50%精米の酒造好適米人気酒造:REDと古代米「朝紫(あさむらさき)」を使用したスパークリング日本酒。グラスに注ぐときめ細やかでクリーミーな泡が立ち上がり、視覚的な美しさを演出します。さらに、繊細な発泡音が心地よく響き、五感で楽しめる特別な一本です。

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酒造名:油長酒造(奈良県)
商品名:風の森 山田錦807

山田錦を80%精米で仕込み、超低温でじっくりと時間をかけて発酵させることで、その持ち味を余すことなく引き出しました。低精白ならではの力強く厚みのある味わいに、個性的な酸が加わり、絶妙な調和を生み出しています。

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酒造名:出羽桜酒造(山形県)
商品名:桜花吟醸酒

この吟醸酒は、大吟醸クラスまで磨き上げた米を使用しています。なめらかで華やかな吟醸香と果実味が、多くの人を日本酒ファンへと惹き込んできました。花のような香り、桃のニュアンス、清らかな湧き水を思わせる澄んだ味わいが見事に調和し、口中では丸みのある上品な余韻が広がります。

IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2015年・2016年 ゴールドメダル受賞。

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酒造名:齊藤酒造(京都府)
商品名:英勲 純米大吟醸 水天一碧

最高級の酒米「山田錦」を原料に、40%まで丁寧に磨き上げて仕込みました。仕込水には、日本でも屈指の名水「白菊水」を使用。水天一碧は、繊細で上品な香りと、驚くほどなめらかで澄んだ味わいをお楽しみいただけます。

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酒造名:今代司酒造(新潟県)
商品名:IMA 牡蠣のための日本酒

近年注目を集めている「日本酒と牡蠣のペアリング」。本品は、その相性を最大限に引き出すために特別に仕込まれた純米酒です。

うま味の主成分であるアミノ酸を豊富に含む日本酒と牡蠣は、科学的にも理想的な組み合わせ。やさしい甘みとほどよい酸味、そして爽やかな後味が特長で、牡蠣はもちろん、さまざまな魚介料理との相性も抜群です。

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酒造名:チョーヤ梅酒(大阪府)
商品名:本格梅酒ソーダ

国産の梅を100%使用した人気の梅ソーダです。香料や着色料は一切不使用。梅の爽やかな香りと心地よい炭酸が、暑い夏の日のリフレッシュやお風呂上がりの一杯にぴったりです。ぜひお楽しみください。

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酒造名:霧島酒造(宮崎県)
商品名:黒霧島焼酎

南九州産の黄金千貫を原料に、霧島裂罅水という清冽な地下水で仕込んだ本格焼酎です。黒麹仕込みならではの豊かな甘みと、キレのある後味が特長で、深みと爽快感をあわせ持つ味わいをお楽しみいただけます。

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酒造名:北川本家(京都府)
商品名:本格米焼酎 はんなりGOLD

長年の清酒造りの技を活かして仕込まれた本格焼酎です。通常の焼酎では白麹や黒麹を用いるのが一般的ですが、本品は清酒と同じ黄麹を使用し、丁寧に醸すことで米の旨みを最大限に引き出しました。タンクと木樽でじっくりと熟成させることで、やわらかな風味を実現しています。

「はんなり30 ゴールド」は、3年以上樽で熟成させた本格焼酎のみをブレンドした逸品。奥行きのある味わいと、まろやかな余韻をお楽しみいただけます。

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酒造名:薩摩酒造(鹿児島県)
商品名: 神の河

二条大麦を100%使用し、単式蒸留で仕込んだ原酒をホワイトオーク樽で3年以上熟成させた琥珀色の麦焼酎です。長期熟成による豊かな香りと、まろやかで深みのある味わいが特長です。

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今回は一部の銘柄のみ紹介しましたが、イベント当日は上記銘柄を含む100酒類以上のお酒を楽しむことができます!

酒フェスについて

<日時>2025年10月9日(木)18:00〜21:00(PDT)
<会場>Coast Coal Harbour Vancouver Hotel by APA

1180 West Hastings Street, Vancouver, BC V6E 4R5

☆チケット購入はこちら:Eventbriteチケットページ
(リンク:https://www.eventbrite.ca/e/vancouver-sake-fest-25-tickets-1553364227219?aff=oddtdtcreator

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