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トルドー首相がファイザーCEOと会話、新型コロナワクチンの遅延で

ジャスティン・トルドー首相

 新型コロナウイルスのワクチン接種が昨年12月から開始されたカナダで、ワクチン不足が問題になっている。ジャスティン・トルドー首相は21日、ファイザーグローバルのCEOと21日に話をしたことを明らかにした。

 トルドー首相は「今日、ファイザーグローバルCEOのDr. (Albert) BourlaとCOVID-19(新型コロナウイルス)ワクチンのカナダへのタイムリーな提供について話をした」とツイッターに投稿。「3月末までにカナダが400万回分のワクチンを受け取れると確認した。カナダ政府は国民がなるべく早くワクチンを接種できるように今後も尽力する」とつづっている。

 連邦政府の保健当局が21日に発表した予測によると、カナダでは3月末までに300万人がワクチンを接種することができ、これは全人口の8%を占める。

 またカナダが秋までに現在承認しているワクチン以外のワクチンを承認しなかった場合でも、ファイザーとモデルナからのワクチンで、6月までに1300万人(34%)、9月30日までに3600万人(95%)をカバーすると予測されている。

 カナダのワクチン輸送を指揮するMaj.-Gen. Dany Fortinは、2月7日までは予定されていた供給分の約3分の1しか得られないと説明した。1月最終週には新たなワクチンの納入はなく、2月の第1週にファイザー社から79,000回分を受け取る予定になっているという。ただ、長期的には国民のワクチン接種予定に変更はないとしている。

 今月15日カナダ政府は、ファイザー社から、ベルギーの工場を生産量増加に向けアップグレードするため一時的に減産することから、ヨーロッパ工場から供給しているカナダを含む国々への供給を一時的に減らすことになると伝えられたと明らかにしていた。

 モデルナからは2月第1週までには23万回分を受け取る予定で、2社合わせて3月末までに600万回分のワクチンを受け取る予定になっている。

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トルドー首相、国民に海外旅行のキャンセルを呼びかけ

Vancouver Airport, British Columbia; File Photo by Japan Canada Today
Vancouver Airport, British Columbia; File Photo by Japan Canada Today

 ジャスティン・トルドー首相は国民に海外旅行をキャンセルするよう呼びかけた。22日の会見で、「カナダ国民への私のメッセージは、現時点ではだれも海外へのバケーション旅行を取るべきではないということ」と語った。

 カナダでは3月中旬にスプリングブレイク(春休み)がある。この時期は毎年、多くの学生や家族が海外旅行に出かける。海外旅行先として最も人気が高いのはアメリカで、今年は事情が例年とは異なる。

 アメリカは相変わらず世界で最も感染者が多く、カナダとアメリカの国境も閉鎖されている。1月7日からは入国するすべての渡航者には、72時間前のPCR検査で陰性証明が必要となっている。入国後の14日間自己隔離も義務化されている。

 トルドー首相が国民に海外旅行をキャンセルするよう呼びかける理由は、クリスマス休暇で約120万人が旅行へ出かけたというデータがあるからだ。

 全国紙グローバル&メールの依頼によるエンバイロニクス・アナリティクスの調査によると、昨年12月23日から30日までに少なくとも約120万人が1泊以上の旅行に出かけているという。

 分析によると、都市部の若者や白人富裕層が多く、地域別ではオンタリオ州やケベック州が多かったとしている。国民の3.3パーセントがこの時期に旅行し、その中で、3分の2は白人で、3分の1はビジブルマイノリティ(Visible Minority)グループが多かったとしている。

 分析は、2000万台の携帯電話からなる位置情報のデータベースに基づいて行われ、国勢調査の人口統計や郵便番号と照合して、旅行者のプロファイルを作成して行われている。個人情報は分析情報には含まれていない。

 昨年は、カナダ国内で3月に一気に新型コロナウイルス感染が拡大した。なかでも、ケベック州で爆発的に増加した。その要因の一つは、ケベック州のみスプリングブレイクが他州より早く、特にフランスへ旅行して帰国した人の感染が目立ったとの分析があった。そのため、3月のスプリングブレイクをキャンセルするよう昨年も政府が呼びかけていた。

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新型コロナワクチン治験体験者に聞く、ワクチン接種について(後編)

新型コロナワクチン接種2回目。写真提供 © 片瀬ケイ氏
新型コロナワクチン接種治験に参加した片瀬ケイ氏。接種2回目。2020年9月22日、アメリカ・テキサス州。写真提供 © 片瀬ケイ氏

 世界で3番目に始まったカナダでの新型コロナワクチン接種。そこで今回はアメリカで2020年夏にワクチンの治験に参加した日本人ジャーナリスト片瀬ケイ氏に自身のワクチン治験体験をメールインタビューで語ってもらった。後編はワクチン接種後の反応など。

新型コロナワクチン治験に参加、2回目の接種後には反応も

-接種は何回受けましたか? 1回の接種で治験場所にいた時間はどれくらいですか? その日は家に帰りましたか?

 1回目に治験場所の診療所に行った時は2時間半くらいかかりました。最初に基本的な問診を受けました。

 私が受けた時点での参加条件は、18歳以上、コロナ感染歴がなく、妊娠していない、おおむね健康な人です。

 治験の説明を受け、治験の目的、実施方法、条件が書かれた同意書に署名をし、PCR検査と採血をしました。また、接種後はスマホのアプリ経由で、体調を定期的に連絡するので、その準備もしました。

 その後、すでに液体の入った注射器を持った医師が現れ、注射を受けました。過去に何らかのワクチンでアレルギー反応を起こした人は、この治験には参加できないことになっていましたが、念のため注射後はアレルギー反応がでないことを確認するために30分ほど診療所で経過を見てから帰宅するという仕組みでした。

-接種したあと、なにか症状は出ましたか? プラセボ(偽薬)だった場合は症状が出ないということになりますが、それでも、接種後の自身の体調の変化などあれば教えてください。2回接種した場合、2回ともの症状を教えてください。

 筋肉注射なので、治験の説明書には、プラセボだった場合でも注射後に注射部位の痛みを訴える参加者がいたと書いてありました。

 1回目の注射は、自分が緊張していたせいもあるかもしれませんが、注射もほとんど痛みを感じず、あっという間に終わり拍子抜けしました。

 筋肉注射なので、やはり翌日はちょうどインフルエンザの予防接種を受けた時のような腕に筋肉痛のような痛みがありましたが、1日か2日で消えました。なので、受けた注射はプラセボだったんじゃないかなと思いました。  

 2回目も同じだろうと軽い気持ちで診療所に行きました。注射の前に看護師が血圧を測ったり、1回目の注射の後の様子を質問したりしました。

 その際に、注射のあと、102.1度(摂氏38.9度以上)の熱が出たり、注射痕が10㎝以上赤くなったり、腫れたりするようなら、すぐに連絡するようにと言われました。

 逆に言えば、それ以下の発熱や注射部位の腫れだったら想定内なんだなと思いました。治験の説明書には、早期に試験を受けた250人程度の経験をもとに、ワクチンの注射で一過性の発熱や腕の痛み、頭痛や筋肉痛が出る場合があると書かれていたのですが、1回目の接種では私はほとんど副反応がなかったので、自分には関係なさそうだと思っていました。         

 引き続き、自分がどっちの注射を受けるかは知らされませんが、1回目に受けたものと同じ液体を、同じ分量、注射されます。         

 ところが2回目は注射そのものが痛く感じました。家に帰ってからも1回目より腕が痛いような気がして、夜になって注射箇所を鏡で見てみましたが、赤くもなく、腫れてもおらず、注射痕さえわからない状態だったし、熱も出ないので、そのまま寝ました。   

 翌朝はなんとなく頭が重く、水に触れるといつもより冷たく感じ、風邪でもひいたかなと思いつつ会社に行きました。昼近くなると腕の痛みに加え、頭痛、寒気、だるさ、関節がきしむような痛みを感じるようになりましたが、熱は平熱のまま。

 そのまま定時まで働いて帰宅しました。家に戻るとかなりの頭痛と倦怠感で、ソファに倒れ込みました。といっても、夕食を食べる元気はあり、夕食後に市販の鎮痛剤を飲むことを思いつきイブプロフェンを飲んだら、けっこう楽になりました。

 早めに休んで、翌朝起きたら、頭は若干重い感じでしたが、会社に着いた頃には腕が痛い以外は、他の不快な症状は消えていました。

 腕の痛みが3日から4日続いたので、一瞬、不安を感じましたが、ちょうど地元のラジオ番組で、同じ診療所で治験に参加した看護師と、治験を実施していた医師のインタビューが流れてきました。

 その看護師も2回目の接種は注射も痛かったし、翌日は微熱が出て体がだるく、頭も痛いし体調が悪かったけれど、頭痛薬を飲んで普通に勤務できた程度。ただ腕の痛みは何日も続いて、1回目とは全然違うので驚いたと話していました。

 治験医師もそのインタビューで、免疫反応のためにこうした副反応を経験する治験参加者はいるが大抵は2日くらいでおさまるとコメントしていました。

 それを聞いて安心したと同時に、私が受けた注射はワクチンだったのかも?と思いました。

-接種した時の注意事項や治験期間中にやってはいけないこととかありましたか?

 接種後2週間はインフルエンザを含む、他のワクチン接種を受けないということと、避妊をしてほしいということです。妊婦に対するワクチンの安全性がまだわからないので。

新型コロナワクチン治験2回が終わって

-治験終了後も継続したモニタリングとかはあるのですか?

COVIDダイアリー。写真提供 © 片瀬ケイ氏
COVIDダイアリー。週1回「COVID-19の症状ありますか?」の質問に答えるという。写真提供 © 片瀬ケイ氏

 スマホのアプリを使って定期的に体調を報告します。一部のグループの人は、安全性(副反応)を詳しく見るために、毎日の体温や体調を報告したようですが、私は週に1回、体調に変わりがないか、COVID-19を疑う症状が出ていないかを報告しています。

 それ以外には、2回目の注射から3カ月、6カ月、1年後、2年後と、採血に行きます。抗体がいつまで続くかなどを調べるのだと思います。

-治験を受けてみてのワクチン接種についての感想を聞かせてください。

 今回は過去に例をみない歴史的なワクチン開発や治験だったと思います。ワクチンはこれまで、もっともはやく開発されたものでも実用化までに4年かかっています。一般的な不活化ワクチンだと、ウイルスを弱毒化して培養するのに時間もかかるし、治験をやろうにも参加者を集めるのに時間がかかるし、有効性を検証するのにさらに時間がかかります。

 これに対してファイザーや、ファイザーのすぐあとにやはり緊急使用許可がおりたモデルナのワクチンは、メッセンジャーRNAを使った新しいタイプのワクチンです。

 遺伝子工学がここまで発展して、新型コロナというパンデミックで多くの人が影響を受け、アメリカ政府も巨額の資金をつぎ込んで全面的にワクチン開発や治験をバックアップし、状況を打破するためにも治験に志願するという人が数多くいたので、これほど早く進んだのだと思います。

 治験で注射を受けた人が実際にCOVID-19にかかるかどうかを見なければ、有効性は検証できません。でも、有効性検証のために、わざと治験参加者をコロナウイルスに接触させる「チャレンジ試験」には倫理的な問題があります。

 世界でもダントツにコロナ感染がまん延してしまった米国だから、あえて「チャレンジ試験」をしなくても、短期間で有効性を確認できたというのは、逆に言えば米国の感染がどれだけひどいかを示す非常に残念な話なんですけどね。

-アメリカではすでに接種が始まり、感染者が世界で最も多いアメリカでは接種は新型コロナ収束へのカギとなると思われますが、ワクチン接種についてのアメリカでの国民の反応を教えてください。在住のテキサスでの市民のワクチンに対する反応とか、接種希望者が多いのかどうかなど。

 当面は医療関係者とナーシングホームなど高齢者施設だけが接種対象です。米国のコロナによる死亡はナーシングホームの入居者や介護者が6割だし、医療関係者も毎日コロナ感染に囲まれているので、全体的にはワクチンを歓迎していると思います。

 ただ、これも地元ラジオ局の放送で耳にしたのですが、テキサスの医療関係者の中でも反ワクチン主義の人はいるし、なんとなく不安でとりあえず一番最初には打ちたくないと思う人や、政治的なアジェンダでワクチンに抵抗を示す人もいるようです。

 米国は残念ながら、さまざまな場面で社会システムへの不信感や、政治的な考え方の違いや人種の違いからくる敵対意識が高まってしまっています。

 医療費が高いため、マイノリティや経済的に恵まれない人たちは、医療へのアクセスが限られていたり、気軽に相談できるかかりつけ医を持たない場合がほとんどです。

 来年(2021年)になって一般市民がワクチンを受けられるようになっても、政府や社会システムへの不信感や、ミスコミュニケーション、SNS上のフェイクニュースのために混乱するのではないかと心配です。

カナダのワクチン状況

 ワクチン治験に参加した片瀬氏の体験は、カナダでワクチンを接種する人に少しでも参考になればと思う。

 カナダ政府はファイザーに続いて12月23日には、アメリカのバイオ企業モデルナ社のワクチンも承認した。ジャスティン・トルドー首相はファイザーとモデルナを合わせて少なくとも120万回分のワクチンを2021年1月末までに受け取ると発表している。

 カナダでは、ワクチン接種に否定的な人もいるが、カナダ政府、カナダ公衆衛生局長、州首相らや各州公衆衛生局長らもワクチン接種を積極的に訴えている。

 ただ接種はあくまでも希望者のみで、接種の義務化はしないとパティ・ハイデュ保健大臣が明言している。

 希望するカナダ国民全員が接種できるのは2021年末と政府は予測している。

(取材 三島直美)

新型コロナワクチン治験体験者に聞く、ワクチン接種について(前編)

片瀬ケイ氏プロフィール

片瀬ケイ氏; 写真提供 © 片瀬ケイ氏
片瀬ケイ氏

アメリカ在住の会社員、ライター、翻訳者。東京生まれ。東京の行政専門紙記者を経て、1995年に留学のため渡米。現在はアメリカ人の夫とともにテキサス州ダラス市に在住。米国の政治社会、医療事情などを共同通信47NEWSをはじめ、さまざまな日本のメディアに寄稿している。「海外がん医療情報リファレンス (cancerit.jp)」に翻訳協力するとともに、Yahoo!ニュース個人のブログ「米国がんサバイバー通信」の執筆者でもある。片瀬ケイの記事一覧 – 個人 – Yahoo!ニュース

川村泰久 駐カナダ日本国大使より新年のごあいさつ

駐カナダ日本国大使 川村泰久

明けましておめでとうございます。

 2020年は、新型コロナウィルスの世界的な感染の広がりにより、世界の様相は大きく変化しました。ワクチン接種等が始まり期待する声も聞かれますが、変種のウィルスが新たに見つかるなど未だ先が見通せない中、バンクーバー新報をお読みの皆様は新しい年への思いを巡らせていらっしゃることと思います。

 第二波に直面しているカナダでは、新規感染者数が一層増加傾向にあり引き続き予断を許さない状況が続いております。このような状況の中で、皆様におかれましては、仕事や生活の様々な面においてご心配が多いことかと思います。

 新型コロナの感染が拡大し、課題が拡大している国際情勢において、基本的な価値観を共有するG7の一員として日本とカナダは絶えず協働しています。昨年9月の菅義偉総理とジャスティン・トルドー首相との初の電話会談においては、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け両国で協力していくことを再確認しました。法の支配に基づくインド太平洋地域の自由で開かれた海洋秩序を維持・強化することは、この地域の安定と発展をもたらすものです。

 本年は丑年です。丑は我慢や忍耐を象徴すると言われます。私としましても現下のコロナ禍に屈せず、日加関係、そしてカナダ及び世界における日本の国際的地位の更なる発展のため尽力してまいります。

 新型コロナウィルスの感染対策はしっかりと続けていただくことが必要です。皆様におかれましては、手洗いの励行、マスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保、不要不急の外出の抑制など、感染防止の一層の徹底をお願いいたします。

 大使館、そしてバンクーバー総領事館では、皆様の生活の安定と安寧のため力を尽くして参りたいと思います。お困りのことがありましたら、いつでも大使館、バンクーバー総領事館にご相談ください。

 新型コロナウィルス感染症の早期の終息と皆様のご健康を願い、本年が皆様にとって明るい1年となることを心よりお祈り申し上げます。

 令和三年元旦

A Message from Prime Minister Justin Trudeau

カナダのジャスティン・トルドー首相からバンクーバー新報にビデオメッセージが届きました。

ブリティッシュコロンビア大学(UBC)サンタ・オノ学長インタビュー「大学を超えた地域コミュニティのための機関をめざして」

UBCオノ学長。Photo by ©バンクーバー新報
UBCオノ学長。2016年12月5日にUBC学長室でのインタビューで。Photo by ©バンクーバー新報
UBCオノ学長。Photo by ©バンクーバー新報
UBCオノ学長。2016年12月5日にUBC学長室でのインタビューで。Photo by ©バンクーバー新報

 バンクーバー生まれ、アメリカ育ちの日系二世サンタ・オノ(小野三太)氏がブリティッシュコロンビア大学(UBC)の学長に就任したのは2016年。2020年には全会一致で再任が決定、現在2期目を務めている。

 就任1年目と2年目以来となるオノ学長へのインタビュー。今回はオンラインでUBCがコミュニティに果たす役割や新型コロナウイルス拡大の影響、日本とのかかわりなどを聞いた。

学生との距離が近い学長として

 再任決定について「全会一致で支持されたことをとても光栄に思います」と語った。

 UBCはカナダでも歴史のある名門大学。その学長を2期も務めることになった人というと近寄りがたい雰囲気と思われるが、学生らとのコミュニケーションを大切にしているというオノ学長は学生にもコミュニティにも気軽に声をかけ、その気さくさでよく知られている。

 今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、学生やコミュニティの人々と会って話すことはできないが、「ズームやソーシャルメディアを通してコミュニケーションをとっています」と相変わらず積極的。ツイッターやインスタグラムへの投稿も多い。

 新型コロナが拡大を初めた4月には、チェロで「さくら、さくら」を演奏した動画をインスタグラムにアップし、日系コミュニティと日本の人々へ贈った。

 分刻みに多忙なスケジュールの中でも、積極的にコミュニケーションを取る姿勢は、学長に就任した当初から変わらない。

 UBCはカナダの大学の中でもアジアからの学生が多く、日本人も多数学んでいる。時には学内で日本人学生と話すこともあるという。

 「だいたい日本人の学生が日本語で私に話しかけて、それを私が聞いて自分の日本語の理解力を試す感じです」と笑う。話す方は「少ししかできない」と言うが、聞く方はほとんど理解できる。両親は日本人で、父・孝氏は数学教授としてUBCで教えていた。両親は2016年の学長就任式にも出席している。

 日系コミュニティとかかわることにもバンクーバーに来た当初から積極的だった。現在は多忙のため辞任したが、一時期は日系文化センター・博物館の理事も務めていた。今でもコミュニティとのかかわりを大切にしている。

 「バンクーバーの日系カナダ人コミュニティとの関係をすごく楽しんでいます。また、機会があるときはカナダ各地の日系カナダ人コミュニティとも対話をしています。(全国から)連絡をくれたりすると、とても温かい気持ちになります」

 今でも日系コミュニティのイベントがあるときには、時間が許す限り参加したいと言う。「理事としては日系文化センター・博物館のイベントに参加できなくなりましたが、組織のことをとても誇りに思っています」とオノ学長。「すばらしいコミュニティだと思います。博物館も、(日系文化センターでの)アクティビティも充実していますし、シニアケアセンターも特別です。あそこの料理はとてもおいしいですよね」

パンデミックで変わるものと変わらないもの

 新型コロナの影響で2020年、大学はバーチャル化を強いられた。国際交流を重視しているUBCでオンラインは海外の研究者や学生と交流する一助ではあるが、取って代わることはないと話す。

 「おそらく新型コロナが収束しても引き続きオンラインで続けるものはあると思います。例えば、UBCはグローバル・バーチャル・クラスルームと呼ばれるものを開発しています。これは世界中の研究者や学生をリモートプラットフォームでバーチャルにつなぐものです」。UBCは今後もこうした技術を使って世界中の研究者や学生とつながっていくという。しかし「これが学生が大学に来るということに取って代わることはないでしょう」と断言する。「学生が外国の大学に行って、大学生として現地で感じる体験をオンラインですることは難しいと思います」と言う。

 「おそらくパンデミックが終われば多くの学生がより熱心に海外へ学びに行こうとするでしょう。多くの留学生がUBCに来ると思うし、UBCからも海外へと飛び出していくでしょう」。

 海外の大学との交流もこれまで以上に積極的に行っていくという。日本の大学とも1期目から交流を図り、良好な2校間関係を継続している。さらに「UBCは “the Association of Pacific Rim University (APR)” に加盟していて、私は理事を務めています。日本にもAPRに加盟している大学があり、研究や授業でどのようなコラボができるか考えているところです」

 すでに多くの留学生が学ぶUBCで今後留学生の数を今以上に増やすという予定はないが、「海外からの学生がUBCでの経験が楽しく充実したものだったと留学が終えたときに思ってもらえるよう支援を充実していこうと思っています」と留学の質の向上を目指すと語った。

パンデミック中に起きたアジア系への差別について

 3月に本格的に国内で拡大した新型コロナウイルスの影響で、これまでに経験したことがないようなアジア系コミュニティへの差別行為がバンクーバーで横行した。

 これについてオノ学長は「残念だけど人間の本性の一部」と語った。それはカナダでそれほど遠くない昔に日系カナダ人強制移動という歴史でも知ることができると語る。

 「第2次世界大戦勃発とともにバンクーバーやスティーブストンに暮らしていた日系カナダ人は強制移動させられました。そこには多くのUBCの学生も含まれていました。その多くはカナダ生まれのカナダ人で、カナダのことを誇りに思っていた人々です。彼らは国籍で差別されたわけではなく、民族で差別されました」と語った。UBCでは2012年に強制移動のために卒業できなかった日系人学生を名誉卒業生として卒業証書を授与し、2017年にオノ学長がそれらの卒業生に卒業アルバムを手渡している。

 オノ学長は「このような厳しい状況に置かれたときに人がそうした差別行動に出ることは特に驚きません」と言う。それでも「こうしたときこそ、人の最もすばらしい部分も現れることも事実です。ビジネスコミュニティや政治家、ジャネット・オースティンBC州副総督などが、強い口調でアジア系への差別が正当な行為ではないと主張してくれたことをとてもうれしく思います」と述べ、1940年代当時はこういった声が出なかったことは日系人への不当な対応だったと語った。

3カ国大学対抗野球大会も継続

UBC and Tokyo university presidents; Photo by © the Vancouver Shinpo
ボールを手に始球式の前の東大五神総長(左)とUBCオノ学長(右)。2019年8月18日UBC球場。Photo by © the Vancouver Shinpo

 オノ学長は大の野球好きで知られている。2018年にはUBCの野球チーム・サンダーバーズが日本に遠征した。2019年には、日本から東京大学、慶應義塾大学(慶応大学)、アメリカからカリフォルニア州立大学サクラメント校野球部ホーネッツと、UBCサンダーバーズの4チームが参加してバンクーバーで大学野球大会が開催された。

 優勝は慶応大学で、サンダーバードは残念ながら4位に沈んだ。次は日本でリベンジ戦を計画中だ。もともと毎年日本とバンクーバーで交互に大会を計画していた。本来なら2020年は日本での開催予定だったが、新型コロナの影響で実現しなかった。ただ「オリンピックとは勝負できない」とオリンピックイヤーの日本での開催は非現実的との見方を2019年から示していたため現実的には2021年に日本開催となるだろうと当初から語っていた。

 しかし「おそらく次に大会が実現するのは2022年だと思います」とオノ学長。「前回は4チームでしたが、次はアメリカからも他にワシントン州から参加を希望する大学があるので、6チームでの大会を計画中です」。ただどういう形で開催かは未定だという。

 研究や教育だけでなくスポーツでの国際交流も大切というオノ学長。これから次の始球式に向けて練習に励むのかもしれない。

大学という枠を超えたUBCの役割をスカイトレイン延長でさらに拡大

 2010年2月の冬季オリンピック開催を機に、バンクーバーではスカイトレインの延長が急ピッチで進んでいる。その一つが、ミレニアムラインをVCCクラーク駅からアビュータス通りまで延長するブロードウェイ・サブウェイ・プロジェクト。そしてミレニアムラインは最終的にはUBCまで延長される。

 オノ学長はこのスカイトレインの延長計画は、UBCの学生や関係者だけではなく、コミュニティ全体にとって利益になると説明する。

 UBCへの延長には2つの目的があると言う。「ひとつは毎日大学に通う何百万という人の足としてです。現在の99Bラインは北米で一番混雑しているバス路線だと言われています。大学が成長していくにつれ問題となります。これが解消されます」

 もう一つは、UBCが提供するサービスをコミュニティ全体で共有するために非常に大きな役割を果たすと説明する。「多くの学生や教授らは、ヘルスケアを提供したり、イノベーションやハイテク企業にかかわっていたりと、校内以外のバンクーバーで活動しています。そうした人々がスムーズに動けるというのはバンクーバーのコミュニティ全体に利益となります」

 これから大学もバンクーバーも拡大していく中で、スカイトレインは大きな役割を果たすと日本の東京やその他の都市で鉄道が発達していることを例に挙げた。そうした将来を見据えて、「今の時点で市長会議や先住民族、バンクーバー市、BC州、連邦政府がかかわって、こうした巨大プロジェクトを議論することが重要です」

これからのUBCと日系コミュニティへのメッセージ

 「UBCはすでにすばらしい大学です」と就任した当初と同じ思いを語った。「でも大学としてますます成長することができる、そしてより強力な研究機関となれると期待しています」。これから私たちが直面するますます複雑化する問題を明らかにし、「たとえば、パンデミックや気候変動、社会正義など、これから先の数年にはUBCが最も難しい問題を解決できる機関として知られるようになれることを目指しています」と語った。

 日系コミュニティには、「1期目にも多くの人々がコミュニケーションや対話をしてくれたことにとても感謝しています。そして、引き続きみなさんが私に連絡してくれて、より強い関係を築いていきたいです」とメッセージを送った。

(取材 三島直美)

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