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天皇誕生日祝賀レセプション、バンクーバーで華やかに開催

あいさつをする髙橋良明バンクーバー総領事。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
あいさつをする髙橋良明バンクーバー総領事。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 在バンクーバー日本国総領事館主催の天皇誕生日祝賀レセプションが3月7日、バンクーバー市内のホテルで開催された。

 当日はブリティッシュ・コロンビア(BC)州の各界から約300人が集まり、天皇陛下の誕生日を祝福した。

 髙橋良明総領事は「2月23日に65歳の誕生日を迎えられた天皇陛下を皆さんと一緒にお祝いできることをうれしく思います」とあいさつ。BC州高等教育省アン・カン大臣、環境・公園省ラナス-タマラ・デビッドソン大臣ほか、BC州議員、連邦議員、市長・市議、各国在外公館関係者、そして日系カナダ人コミュニティから関係者が多く出席したことに感謝した。

 日加関係は2027年には日系移民150周年、2028年には日加修好100周年の節目の年を迎えると紹介。日本とカナダは政治、安全保障、経済、教育、文化と多岐に渡って深い協力関係を築いてきたと語り、今年はバンクーバーと横浜、バーナビーと釧路が姉妹都市60周年を迎えたほか、4月に開幕する大阪・関西万博などで、日加の交流がますます盛んになることを期待した。また2026年にはFIFAワールドカップの試合がバンクーバーでも行われることにも触れ「日本とカナダの対決がバンクーバーで実現してほしい」と語った。

BC州デイビッド・イービー州首相に代わり州政府を代表してあいさつと語るカン高等教育大臣。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
BC州デイビッド・イービー州首相に代わり州政府を代表してあいさつと語るカン高等教育大臣。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 BC州政府からはカン大臣があいさつ。BC州と日本との友好関係は長く、約55,000人の日系カナダ人の貢献は計り知れない、もうすぐ開花する桜は日本との友好の証で、カナダで最も多い33市の姉妹都市関係が絆の強さを表していると紹介した。日本はBC州にとって最も重要な貿易相手国であり、輸出先の多様化を促進する中で日本の存在はより重要となるだろうと語った。

 会場には、日本・バンクーバー間に直行便を運航している日本航空と全日空のほか、日本との貿易を促進するJETRO(日本貿易振興機構)やJNTO(国際観光振興機構)がブースを並べていた。

 また、髙橋総領事が「この日のために日本から取り寄せた」という新鮮な魚介類を使ったすしや厳選した日本の酒などが用意され、出席者は舌鼓を打ちながら和やかなひと時を過ごした。

乾杯の音頭を取る日系文化センター・博物館代表ハーバート・オノ氏(左)とカン大臣(中央)、髙橋総領事。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
乾杯の音頭を取る日系文化センター・博物館代表ハーバート・オノ氏(左)とカン大臣(中央)、髙橋総領事。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
連邦議員、州議員、市長、市議らと髙橋総領事夫妻を囲んで。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
連邦議員、州議員、市長、市議らと髙橋総領事夫妻を囲んで。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
各国在外公館関係者と髙橋総領事夫妻。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
各国在外公館関係者と髙橋総領事夫妻。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
BC州日本酒協会が日本の酒をふるまう。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
BC州日本酒協会が日本の酒をふるまう。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
いつも人気のすしコーナー。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
いつも人気のすしコーナー。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
会場の入り口付近にはいけばなの展示も。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
会場の入り口付近にはいけばなの展示も。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
会場の一角には日本の箱庭も用意され、日本の雰囲気を演出した。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
会場の一角には日本の箱庭(Ouka Landscape&Design Ltd.)も用意され、日本の雰囲気を演出した。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
ゲストを出迎える髙橋良明バンクーバー総領事夫妻。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
ゲストを出迎える髙橋良明バンクーバー総領事夫妻。2025年3月7日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

(記事 編集部)

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第43回モントリオール国際芸術映画祭開幕、日本作品「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」上映

©Photographs by Michiko Matsumoto
©Photographs by Michiko Matsumoto

 第43回モントリオール国際芸術映画祭が3月13日に開幕した。日本からはドキュメンタリー映画「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」が公式招待作品として上映される。

 フランスを代表するフェミニスト・アーティスト「ニキ・ド・サンファル」の人生と作品を追ったドキュメンタリー。世界で活躍する女性アーティストを撮り続けてきた写真家松本路子が映画初監督を務める。ナレーションを担当したのは歌手で俳優の小泉今日子、エンディング曲でも上田ケンジとのユニット「黒猫同盟」として参加している。

 ニキの集大成としてイタリア・トスカーナに制作した彫刻庭園「タロット・ガーデン」。1981年からニキと10年以上にわたり交流してきた松本路子自身がその庭園を訪れ、ニキが歩んだ道を辿る。

 同作は昨年のバンクーバー国際映画祭でも上映され、好評を得ていた。

 松本氏は「バンクーバーに続いて、モントリオールでも私たちの映画が上映されるのは、とても嬉しいことです。見終わると幸せな気分になるというお言葉をたくさんいただきました。皆さまに、ぜひ見ていただきたいと思います」とメッセージを送った。

上映は以下の通り。

ケベック国立美術館
2025年3月19日(水)10:30〜

シネマ・デュ・ミュゼ – Auditorium Maxwell-Cummings
2025年3月21日(金)17:15~

詳しくはウェブサイトを参照:https://lefifa.com/en/catalog/viva-niki-the-spirit-of-niki-de-saint-phalle

(記事 編集部)

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第22回 最小限の準備で最大の安心を ~Let’s 海外終活~

終活は新しい大人のマナー

叶多範子

早春の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。バンクーバーでは、日に日に陽射しが柔らかくなり、木々の芽吹きが感じられる季節となりました。海外での生活に慣れるにつれ、「いつか」と先送りにしがちな終活のお話を、今日は少し違った視点からお伝えします。

先日、ある方たちからこんなメッセージをいただきました。「終活と聞くと、なんだか大変なことのように思えて、なかなか踏み出せません」「正直、終活にお金も時間もかけたくないって思ってしまうんです」と。この声は、おそらく多くの方が共感されるのではないでしょうか。

「終活」=時間とお金がかかる その思い込み、今日で終わりにしませんか?最小限の準備で、最大限の安心を。

終活というと、断捨離、エンディングノート、遺言書、お墓の準備など、やるべきことがリストとして頭に浮かび、その量に圧倒されてしまうかもしれません。特に海外在住者にとっては、「日本とこちらのどちらで準備すべきか」という悩みも加わり、さらにハードルが高く感じられる人もいるようです。

しかし、本当に必要な「核」は意外にシンプルです。

1.法的書類(遺言・委任状) 海外在住者にとって、日本と居住国の法律が絡み合う遺言書の作成は一見複雑に思えます。しかし、居住国の法律に則った形で基本的な遺言書を用意するだけでも、残された家族の負担は大きく軽減されます。

また、万が一の時のための委任状(Power of Attorney)も重要です。財務の決定権を信頼できる人に託す書類を準備しておくことで、もしものときの安心感が生まれます。

2.エンディングノート 法的拘束力はありませんが、自分の希望や思いを自由に書けるエンディングノートは、残された人々への大切なメッセージとなり、尚且つ、将来もしも認知症になったときには自分の取扱説明書(取説)になります。デジタル資産の管理方法、されて嫌なこと、苦手なこと、医療や葬儀の希望など、簡潔に記しておくだけでも、家族や医療関係者が迷うことなく進めることができます。

この2つの土台があれば、あとは人生を思う存分楽しむだけ。

終活の本質は、実は「生活」です。残された時間を大切に生きるための準備であり、不安や心配を取り除くことで、より自由に生きる手助けとなります。

断捨離や墓じまいなどその他のことは、人生を楽しむ過程で、必要性を感じたとき、タイミングが来たときの選択肢としてください。

先日、長年カナダで暮らすSさんはこう語ってくれました。「遺言書と委任状を作り、エンディングノートに基本的なことを書いておいたら、不思議と心が身軽になりました。今は旅行に行ったり、新しい趣味を始めたり、何かに挑戦することになっても、もしものときの心配や不安がなくなり、積極的にどんどんできるようになった」と。

終活は終わりのための活動ではなく、より豊かに生きるための準備です。最小限の準備で最大限の安心を得て、その先の人生を思う存分楽しむ。それこそが、私が提案する「海外終活」の真髄です。

私たち海外在住者は、移住という大きな決断と挑戦を経験してきました。みなさんのその勇気と行動力を、終活にも活かしていただきたいと切に願っています。異国の地で新しい生活を築いたように、終活も新たな一歩として捉えれば、意外とシンプルで、むしろ人生を豊かにする活動だと気づくはずです。

これまで自分の意思で人生を切り開いてきた皆さんが、人生の最後だけ何も準備せず人任せ、成り行き任せになってしまうのは、あまりにも残念なことです。海外で築き上げた豊かな人生が、準備不足のために混乱と後悔の中で幕を閉じる—そんな事例を数多く目の当たりにしてきました。特に海外在住者の場合、準備がないと家族は二重三重の困難に直面します。あなたの大切な人たちに、そんな重荷を背負わせたいでしょうか?また認知症になった自分に適切なケアがされないでいいのでしょうか?

日本とは異なる制度や文化の中で暮らす私たちだからこそ、「最低限何が必要か」を今すぐ見極める必要があります。複雑な終活をシンプルに捉え直し、必要最小限の準備から始めることで、かえって効果的な終活が実現します。時間はいつも思うより少ないのです。

今日から、あなたも小さな一歩を踏み出してみませんか?まずはエンディングノートを手に取るところから。最初の小さな一歩が、未来の安心につながっていきます。明日ではなく、今日が、その一歩を踏み出すべき日であって欲しいと思います。

*このコラムは終活に関する一般的な知識や情報提供を目的とするものです。内容の正確さには努めておりますが、必要に応じてご自身で確認、または専門家へご相談ください。このコラムを元にして起きた不利益は免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。

叶多範子(かなだ・のりこ)

グローバルライフデザイナー
2015年、友人の孤独死と相続問題をきっかけに、カナダのバンクーバーで遺言・相続専門の弁護士アシスタントとしてキャリアをスタート。2020年には終活アドバイザー資格を取得し、終活の視点を取り入れた知識と実務経験を活かしたノート術とコンサルティングを提供しています。
「終活せずに困った!」という後悔の声を「やってて良かった」「ありがとう」と笑顔で未来を彩ることをライフワークとしており、これまで300名以上に国境を越えた安心感を届けています。国内外問わず、すべての人が大切な未来をデザインできるようサポートしています。 家族はカナダ人の夫、2人の息子、愛猫1匹。日々の活動や最新情報は、メルマガ、ブログ、SNSで発信中。

メルマガ:https://www.shukatsu.ca/mailmagazine
ブログ: https://globalmesen.com/
Facebook: https://www.facebook.com/noricovancouver
Instagram: https://www.instagram.com/norikocanada/
著書「海外在住日本人のための50代からの終活」:​​https://a.co/d/ad4OeLw

ホワイトキャップス開幕3連勝、GK高丘は無失点

ゴール前でボールを弾くGK高丘。2025年3月8日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
ゴール前でボールを弾くGK高丘。2025年3月8日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
大きな声で指示を出すGK高丘。2025年3月8日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
大きな声で指示を出すGK高丘。2025年3月8日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 ホワイトキャップスが今季開幕から3連勝と絶好調だ。この日はBCプレースにCFモントリオールを迎え、危なげない展開で快勝した。

3月8日(BCプレース:19,531)

バンクーバー・ホワイトキャップス 2-0 CFモントリオール

ホワイトキャップスは32分にLaborda(DF)がネット前の混乱からこぼれたボールを押し込み1-0。さらに後半早々の49分、MLS初出場ホワイトキャップスデビュー戦となった19歳のジョンソン(DF)が決め2-0。その後も猛攻が続いたが追加点なく、2-0で3連勝とした。

堅い守りで快勝、GK高丘は今季初クリーンシート

 GK高丘が大活躍する場面もないほどこの日のディフェンスは安定していた。相手に得点をされそうな機会は終盤に2回。それでも83分は相手と1対1となった場面で高丘が左足で止め失点を防いだ。アディショナルタイムにはバーに当たったボールをディフェンダーが蹴り出し、事なきを得た。

 「どんなに集中して守っててもやっぱり少なからずエラーはあると思うので、そこを自分がどうやって助けるかを考えてやってました」と冷静に分析した。また逆に「周りに助けられて部分もあった」とも振り返った。チームが集中しての今季初のクリーンシートだった。

 試合はホワイトキャップスが圧倒する内容だった。ただモントリオールがもたつく場面が何度もあったが結局2得点のみ。「ある程度自分たちがボールを持って押し込める時間が長かかった分、もっと相手の決定機を減らさないといけないですし、そういった意味では勝ちはしましたけど、まだまだ課題も残る内容かなと思います」と反省を口にした。

 それでも23分にはキャプテンGauld(MF)がけがで途中退場する不運があったにもかかわらず、勝ち切ったことは大きい。

 今季から監督が代わり、練習のメニュー設定も難しくなっていると話す。「試合よりも練習の方が難しいっていうところがある」と高丘。「強いチームはどこもそうですし、(J1横浜F)マリノスの時もそうだったので、(ホワイトキャップスの)基準が上がってきたのかなと思います」と語った。

 これでMLS開幕から3連勝。西カンファレンスではもちろん単独首位。3月はMLSだけでも5試合あるが、そこにCONCACAF Champions Cupの2試合が組み込まれている。12日にはメキシコでCFモンテレイとのセカンド・レグがある。高丘は「(試合に向け)いい準備して、リカバリしながら、今日の試合も振り返って反省して次に生かしていきたいと思います」と意欲を見せた。

3月・4月のホームゲームhttps://www.whitecapsfc.com/

3月22日(土)7:30pm シカゴ・ファイアFC戦
4月5日(土)6:30pm コロラド・ラピッズ戦
4月12日(土)4:30pm オースティンFC戦

試合終了後、チームメートがGK高丘の周りに集まり勝利を喜ぶ。2025年3月8日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
試合終了後、チームメートがGK高丘の周りに集まり勝利を喜ぶ。2025年3月8日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

(取材 三島直美/写真 斉藤光一)

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日本漢字能力検定(2025年6月)のお知らせ:グラッドストーン日本語学園

グラッドストーンで漢字検定開催

 2025年6月28日(土)に『公益財団法人 漢字能力検定試験』を実施いたします。

 この検定は国内はもとより、世界の日本語学校でも実施されているものです。日本国内でも高校や大学の入学試験において有利であったり、企業内でも受検を促しているところもあるとのことです。

 カナダにいるけれども、将来日本で勉強しよう、あるいは働こうと思っている方、もしくはいずれ日本で社会生活を送ろうと考えている方は、この機会に受検をお勧めします。

 日本語能力試験に大変役に立っているという声もあります。

 受検をご希望の方は、グラッドストーン日本語学園までお問い合わせ下さい。お申し込み締め切りは、2025年4月5日(土)です。

2025年度公益財団法人認定日本漢字能力検定実施要項

実施日:2025年6月28日(土)午後1時30分から
会場:グラッドストーン日本語学園(日系文化センター・博物館2階)

申し込み締切日:2025年4月5日(土)
※学園ホームページからお申込み頂けます(https://www.gladstonejls.com/kanji/
※定員になり次第、締め切りとさせて頂きます。

申し込み連絡先:グラッドストーン日本語学園
電話:604-515-0980
Email:info@gladstonejls.com
ホームページ:https://www.gladstonejls.com

バンクーバー桜まつり「さくらデイズ・ジャパンフェア」今年は4月12日、13日に開催

David Lam Park in Vancouver, BC; Photo by Koichi Saito
David Lam Park in Vancouver, BC; Photo by Koichi Saito

 毎年3月から4月にかけてメトロバンクーバー各地でイベントが開催されるバンクーバー桜まつり。

 中でも最も多くの人が訪れるのが「さくらデイズ・ジャパンフェア」。日本の伝統や文化を体験できるのが魅力で、毎年大人気。茶道や華道、書道などのワークショップや、和太鼓や三味線、空手などのパフォーマンス、風車作り体験などが楽しめるほか、もちろん日本のフードや日本酒などのグルメも満喫できる。

 今年の開催は4月12日(土)、13日(日)。3月17日までは割引特典が大きい前売り券が販売されている。

 メトロバンクーバーでは3月中旬ごろから約6万本の桜が咲き誇る。その始まりは1930年代初めに神戸と横浜の市長がバンクーバーに贈った500本の桜。それらはスタンレーパーク内にある日系カナダ人戦没者慰霊碑の周りに植えられた。

 さらにVancouver Cherry Blossom Festival のサイトによると1958年には当時の在バンクーバー日本国総領事館・田辺宗夫領事により「日加の永遠の記憶と友好」として約300本の桜が贈られたという。バンクーバーで咲く約4万3000本の桜は何らかの形で日本から贈られたと桜まつり発起人のリンダ・ポールさんが記している。

 いまやバンクーバーに春を告げ、市民から愛される、この町になくてはならない存在となった「日加友好の証」。その桜を愛でながら日本文化に親しむ2日間は格別かもしれない。

「さくらデイズ・ジャパンフェア」

日時
4月12日(土)午前10時~午後6時(最終入場は午後5時30分)
4月13日(日)午前10時~午後5時(最終入場は午後4時30分)

会場:バンデューセン植物園(5251 Oak Street, Vancouver)

料金

3月17日までに購入
大人 $20.00、シニア $16.00、子ども $8.00

4月11日までに購入
大人 $24.00、シニア $19.00、子ども $9.00

当日券(4月12日、13日)
大人 $26.00、シニア $21.00、子ども $11.00

*4歳以下は無料。バンデューセン植物園会員は割引あり。
*チケットは土曜日と日曜日の各日で購入する。
*入場には各日午前11時までは時刻に合わせた入場制を導入。

詳しくはウェブサイトを参照:https://vcbf.ca/festival/sakura-days-japan-fair/
その他のイベント情報などバンクーバー桜まつりのウェブサイトはこちら:https://vcbf.ca/

満開の八重桜と浴衣レンタルを楽しむ来場者。2024年4月14日、バンクーバー市。 Photo by Ayaka Furuakawa/Japan Canada Today
満開の八重桜と浴衣レンタルを楽しむ来場者。2024年4月14日、バンクーバー市。 Photo by Ayaka Furuakawa/Japan Canada Today

(記事 編集部)

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「心のこもった熱いスピーチ」第37回ブリティッシュ・コロンビア州日本語弁論大会

第37回BC州日本語弁論大会参加者と髙橋総領事、審査員、関係者と一緒に。2025年3月1日、バンクーバー市。写真撮影 Jenna Park
第37回BC州日本語弁論大会参加者と髙橋総領事、審査員、関係者と一緒に。2025年3月1日、バンクーバー市。写真撮影 Jenna Park

 今年で第37回となるブリティッシュ・コロンビア(BC)州日本語弁論大会が3月1日、バンクーバー市ブリティッシュコロンビア大学(UBC)アジアンセンターで開催された。

 主催:BC州日本語弁論大会実行委員会、在バンクーバー日本国総領事館、協力:UBC、UBCアジア研究学科、バンクーバーの日系企業・団体、日本の姉妹都市(安中市、釧路市、さいたま市)。

 発表者はBC州とユーコン準州に居住する日本語を母国語としない人が対象で、各地から応募し予選を通過した46人がこの日、学習の成果を発表した。当日は午前10時から12時まで高校生の部(初級、中級、オープンの3カテゴリー22人)、午後1時から4時まで大学生の部(初級、中級、上級、オープンの4カテゴリー24人)が行われた。今年は最多参加者となり、それぞれの思いを日本語で熱く語った。

 高校生の部・初級で優勝したKeely Wongさんは、子どもの頃は仲良くしていた大好きな祖母に中学になるとそっけない態度で接してしまったが、いつも見守ってくれていると思うと右手に着けた祖母のお気に入りだったブレスレットで弁論大会に臨んでいた。

 大学の部では、自分のやりたいこと、なりたい道を見つけられないと悩む学生たちの胸の内が垣間見えた。大学の部では初級・中級でも4分、上級・オープンカテゴリーでは5分間のスピーチとなる。それぞれに内容や言語的正確さ・流ちょうさに加え、表現力も使いながら、聞く人にいかに分かりやすく伝えるかという高度な技術が要求される。

 そうして弁論を終えた参加者の結果が発表されると、上位に名前を呼ばれた同じ大学生から歓声が上がる一幕もあった。

あいさつする髙橋総領事。2025年3月1日、バンクーバー市。写真撮影 Jenna Park
あいさつする髙橋総領事。2025年3月1日、バンクーバー市。写真撮影 Jenna Park

 髙橋良明総領事は、思慮深く印象的な弁論を発表した参加者に感謝し、弁論大会は「カナダと日本の異文化を繋ぐ重要な役割を果たしている」と語った。

 UBCアジア研究学科長のシャラリン・オルバー教授は「学生たちの日本語学習への関心は毎年高い」と称賛し、今年も大会が開催できたことに、総領事館、審査員、ボランティア、協力各団体、関係者に感謝した。

 大学の部の各カテゴリー優勝者は、3月30日にオンタリオ州トロント市のヨーク大学で開催されるカナダ全国日本語弁論大会に出場する。

全国大会に出場する大学の部各カテゴリー優勝者。2025年3月1日、バンクーバー市。写真撮影 Jenna Park
全国大会に出場する大学の部各カテゴリー優勝者。2025年3月1日、バンクーバー市。写真撮影 Jenna Park

第37回BC州日本語弁論大会の結果は以下の通り。

高校生の部

初級(Beginner)

1位 Keely Wongさん「祖母のブレスレット」
2位 Jason Linさん「帰れない過去」
3位 Tiana Honさん「自分の道を歩く」

中級(Intermediate)

アウトスタンディング・エフォート賞
Catriona Hicksさん 「日本の写真花嫁」

1位 Rebecca Hicksさん「誰をかも」
2位 Keira Hoさん「マルチリンガルの葛藤と可能性」
3位 Sean Huさん「運の生きる方」

オープン(Open)

1位 Josh Liuさん「凋落しない黄葉」
2位 Raku Wongさん「人生の意義」

大学生の部

初級(Beginner)

アウトスタンディング・エフォート賞
Anooj Chauhanさん 「私の夢」

1位 Josh Wongさん「正義のための一歩」
2位 Joie Juさん「気づけばスマートスピーカーが相棒になっていた」
3位 Scotia Chowさん「私の専攻」

中級(Intermediate)

1位 Kai Leeさん「日本がくれた夢」
2位 Matthew Wongさん「言語と思い出の間に」
3位 Caroline Lutzさん「物おじせずに行う勇気」

上級(Advance)

1位 Meira Sembratさん「私のことを知っていますか?」
2位 Ran Moさん「気づかなかったその懐かしい記憶」

オープン(Open)

1位 Koto Shiさん「居場所探しの意義」
2位 Yoshiko Fujiwaraさん「未完成の花期」

(取材 Jenna Park)

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「自分らしく生きるとは?」西加奈子さんインタビュー(後編)

西さんは「書く時はまずほんとに自分が書きたいものを書く」と語る。2024年8月。撮影 斉藤光一
西さんは「書く時はまずほんとに自分が書きたいものを書く」と語る。2024年8月。撮影 斉藤光一

 小説家として活躍する西加奈子さん。2004年「あおい」でデビューし、以降次々と作品を発表している。2019年12月からはカナダ・バンクーバーに滞在。その時に乳がんが見つかり、バンクーバーで治療を受ける。その闘病記を自身初のノンフィクションとして発表した「くもをさがす」も話題を呼んだ。

 2024年8月、バンクーバーに滞在していた西さんに話を聞いた。(後編)

「自分らしく生きるとは?」小説家・西加奈子さんインタビュー(前編)

作品について

 多くの賞も受賞し、映画化された作品もあるほど人気のある西さんの小説。その原動力は「好きなものを書く」。書いた作品を読み返すと自分が感じていたことが「テーマ」として見えてくるという。

 西さんは世代では「ロストジェネレーション世代」。自分ではコントロールできない社会情勢や日本の状況は「好きなものを書く」という小説に影響を与えているのだろうか?

***

-他のインタビュー記事で、「自分らしく生きる」「自分の人生は自分で決める」ということをテーマにしていると読んだのですが、「自分らしく生きられない」と感じているのでそういうテーマについて書こうと思うのですか?

 「小説って不思議で、書いていたら自分が何を気にしていたかが分かるって感じなんです。なので、自分は海外で生まれたんですけど、ほぼ日本で育ったし、日本の価値観を完全に内面化して生きてきましたし、それに全く疑問を持った記憶はなかったんですけど、自分が小説を書くと、やっぱり自分はおかしいと思ってたんだなとか、ある程度の息苦しさを感じてたんだなというのを小説を書いてから気づくっていう感じです」

-小説を書く時に読者を想定して書かない、自分が書きたいものを書いているということですが、それは自分の書いたものが読者に届けばいいと思って書いている感じですか?

 「とにかく書く時はまずほんとに自分が書きたいものを書く。それを世に出し得るかどうか、お金をいただいていいかどうかは編集者が決めると思っています。編集者がプロフェッショナルなので、彼らがボツと判断したらもちろん諦めます。ただ、最初に読者を想定して書くと下投げになってしまうというか、全力で投げることができなくなるのも嫌ですし、創作というのは元々すごくエゴイスティックなものと思っていて、特に小説は1人でするものなので『全力で自分の好きなものを書く』っていうのが一番失礼のないやり方かなと思っています」

-その中で自分のことは自分で決める、自分のなりたい自分になるというテーマは書いてるうちにテーマができてくる?

 「ほんとに好きなものを書いてきて、結果、もちろんそうでないものもありますけど、自分の作品を見返した時に、社会から自分を取り戻すというか、社会的にこうでなければいけないとか、役割があったり、ある程度の窮屈さの中にいた人たちが、自分の身体性を持って自分を解放していくという話がすごく多くて。ということは、私はそう思ってたんだなとか、それが書きたいんだなっていうのを後から気づくって感じですね」

西さんは「書く時はまずほんとに自分が書きたいものを書く」と語る。2024年8月。撮影 斉藤光一
西さんは「書く時はまずほんとに自分が書きたいものを書く」と語る。2024年8月。撮影 斉藤光一

-西さんは自身をロストジェネレーション世代として意識したことはありますか?

 「昔はそんなの思っていなかったんですけど、最近同世代の友達の中には、20代のうちはバイトで生活できていたけれど、年齢を重ねるにつれて仕事がなくて就職もできないという人がいます。いよいよほんとに捨てられていってるというか、再就職もかなわない、派遣社員っていうものができてからずっと派遣で正社員になれなくて、ダブルワークしているという人が本当にたくさんいるので、それは深刻に考えるようになりました。

 あとはロストジェネレーションって特徴としてちょっと冷笑的なとこがある気がします。例えば、私もデビュー作を20代で書いたんですけど、結構、キラキラしたというか、ハッピーエンドな物語を書くと冷笑的に笑われてしまったりした経験があって、なんていうんですかね、良いことを書く、ハッピーなことを書くと恥ずかしいみたいなとか、それは私たちの世代の特徴なのかもしれないですね。

 でも、例えばいまZ世代とか若い子たちとしゃべってるとみんなすごくハッピーだし、ハッピーな物語を求めてるし、すごくポジティブだし、もっと経済が悪くなってるのに、なんか冷笑的なものがなくなってきてるのはすごくすてきだなぁって思いますね」

-小説の中でロストジェネレーションをテーマにした作品はありますか?

 「あります、あります。テーマというか、ロストジェネレーションの人たちが主人公で正社員になれなくて貧困にあえがざるを得ない話を書きました。

 私は20代の時は就職しなかったんです。『就職せずによくいけたね』って言われるんですけど、ほんとにすごい就職氷河期だったので、フリーターが目立たなかったんですよね。同世代の作家もフリーターをやってた人はいますし、多分劣等感を感じずに済んだんです、当時は。生活もお金はなかったけど楽しかったし、友達に恵まれて、健康でしたし、それだけでハッピーでした。だた、だんだん年を取ってきて当時の友達とかに会うと、やっぱりさっき言ったようにダブルワークしていたり、親の介護が始まっているのにヘルプを出せなかったり、悲しいことに生活保護受給者に対してすごく辛辣な目を持っていたりとか。そういう話をしていくうちになんでだろうって思って書き始めたんです。

 『夜が明ける』という作品なんですけど、それは『なんでそういうことになってしまったんだろう』とか、『自分だったらどうだっただろう』と自分自身に問う機会でもありました。私もたまたま作家で、たまたまある程度成功したからお金もあります。私は特権があったから今ここにいることができるけど、どうなっていたかは分からない。特権があるから、余裕があるから、例えば制度がおかしいと、『大きなこと』を考えられるけど、本当にいま自分の生活が苦しくて、ダブルワークで、親の面倒を見て、子どもの面倒を見て、ってなったらそんな『大きなこと』を考えられるかなって。

 例えば、身近に生活保護を受けてる人がいたとして、『がんばってないからや』って言ってちょっと胸がすく、そういう夜を過ごしてなんとか生きていくようになるんじゃないか。ほんとにたまたま、全てたまたまなので。そういうことが、作品になっているんだと感じます」

-イラン生まれということですが、世界情勢で中東情勢は気になりますか?

 「一番ガツンと来たのは、アラブの春の時です。エジプトが変わるんだって。ほんとにいま宗教のこと、そのことも小説に書いたんですけど、宗教という信じるものの違いによってこんなに人が傷つけあう状況ってなんなんだろうと考えます。それはもちろん中東だから特にってことではないですけど。

 エジプトにいた時にすごく美しいムスリムの人たちを見ていてました。コーラン・アザーンが聞こえたらお祈りを唱える人たちが、私には排他的には見えなかったんです。ただ自分も、やはり特権があって良いエリアに住んでたし、優しい人たちに囲まれていたというだけで、例えば、当時もコプト教徒の人たちは迫害されていたし、そういうことを気づかなかった自分を思い出しながらまた書くという感じです」

-バンクーバーもそうですがカナダ全体で移民の国で、カナダの多様性をどのように感じましたか?

 ほんとにカナダ人というものがなんなのか分からないくらいですよね。ビザとか書類の問題もありますけど、自分はカナダ人だと思ったらどんな見た目でもカナダ人でいれるっていうのはすばらしいと思いますし、先ほど言ったマイノリティの方が尊重される社会も素晴らしいと思います。

 ただ、例えば私の子どもはキツラノのデイケア(保育園)とかキンダー(幼稚園)に行っていたんですけど、そこは見た目に関して非常に美しい多様性はあるんです。本当にさまざまな人種がいるし、先生ももちろん多様性があるし。ただ経済的には似通っているんです。皆それぞれ特権があってそこに住んでいる。目に見えづらい経済の問題が忘れがちになってしまうんです。

 日本に帰っていま日本の公立に子どもを入れてるんですけど、見た目はほぼ一緒なんです、アジア人で、黒い髪で。でも、経済的には全然違う子どもたちが集まっているっていうのはそれも立派な多様性だと感じます。私はキツラノがほんとに好きだったけど、あまりにも分かりやすい多様性の中にいたのかなというのは思っていて、それを書きたいなと思っているところです」

-西さんにとって自分らしく生きるとは?

 「自分らしさの特集とかありますけど、見つけるのは難しいと思うんですよね。自分らしさっていうと、イコールなんか何物にもとらわれてなくてみたいなイメージになりますけど、そうでなくてもいいと思うんです。

 なにかにすごくとらわれてキュウキュウになってる自分も自分らしさだし。ただ、それが自分で選んだ自分だと良いと思うんですけど、社会に『Should beだ、君はこうあるべきだ』って言われて押し付けられたものだったら1回やめたらいいんじゃないかって思います。

 自分らしさって言葉がまた呪いになるのもおかしいですし、ただなんか『自分が気にしちゃうんねん、もうすっごいあの人のこと気にしてどうで』って、それが私は自分らしくないっていうのではなくて、それも自分らしさだけど、なぜ気になるのかっていうのを掘って掘って掘っていく。それがほんとに自分がピュアに気になるんだったらいいと思うんです。それが『いや、あなたはその年でどうでこうでこういう立場やから、あの人のことを気にした方がいい』だったとしたら一回手放した方がいい。すごく大変な作業ですけど、それをひとつずつ重ねていっているっていう感じです」

-西さんは自分らしく生きてるなって思いますか?

 そうですね。少なくとも、楽にはなってきてますね。なんかこうでないといけないとか、特に日本、世界中そうですけど、女性であって、中年女性であって、働いている女性であって、母であって、娘であってとか、役割が多いと思うんですけど、その役割にはこだわらないという風にはなりましたね」

***

 バンクーバーについては「バンクーバーにはバンクーバーにしかない良いとこがあって、ほんとに自分が心地良い自分でいられる数少ない場所だと思います」と語った。

西加奈子(にし・かなこ)

小説家。イラン・テヘラン生まれ。小学生の時にはエジプト・カイロで過ごしたが、帰国後は大阪に。2004年「あおい」でデビュー。2007年「通天閣」で織田作之助賞、2013年「ふくわらい」で第一回河合隼雄物語賞、2015年「サラバ!」で第152回直木三十五賞を受賞した。映像化された作品には2013年に映画化された「きいろいゾウ」(2006年)、劇場アニメ映画化され、バンクーバー国際映画祭でも上映された「漁港の肉子ちゃん」(2011年)がある。「くもをさがす」は第75回読売文学賞 随筆・紀行賞を受賞した。

(取材 三島直美/写真 斉藤光一)

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高丘選手らと共に「MLSへの扉を開いていかないといけない」吉田麻也選手

LAギャラクシー吉田選手(左)とバンクーバー・ホワイトキャップス高丘選手。試合後に。2025年3月2日、BCプレース。撮影 日加トゥデイ
LAギャラクシー吉田選手(左)とバンクーバー・ホワイトキャップス高丘選手。試合後に。2025年3月2日、BCプレース。撮影 日加トゥデイ

 吉田麻也選手と山根視来選手が所属するLAギャラクシーと高丘陽平選手が活躍するバンクーバー・ホワイトキャップスとの一戦が3月2日、バンクーバーのBCプレースで今季も実現した。

 山根選手はけがのためいなかったが、吉田選手、高丘選手の日本人対決に、会場には日の丸もはためいた。

 MLSで活躍する日本人選手としてはFCシンシナティに久保裕也選手が所属する。

 吉田選手は日本にいるMLSでプレーしたいと思っている選手のために自分たちが扉を開いていきたいと話す。

MLSでは「自分たちの評価イコール日本人の評価」

 MLSに入団して3シーズン目となる吉田選手。昨季はギャラクシーのキャプテンとしてチームをMLS優勝に導いた。ホワイトキャップスのホーム開幕戦となった一戦では、ピリピリする展開で熱くなるチームメートを何度も落ち着かせる場面があった。今季も日本、ヨーロッパで活躍した元日本代表のベテランがギャラクシーを導いていく。

 そこには日本人選手として次の世代にMLSへの扉を開きたいとの思いがある。「僕やその前の世代の選手たちが初めてヨーロッパに行った時に扉を開いたのと同じように、僕とか高丘、視来、久保も、僕らがMLSへの扉を開いていかなければいけないと思う」と話す。

 日本ではまだまだ関心が低いMLS。それでもMLSを目指す次の世代の日本人選手はいるという。そんな後輩のために自分たちがいまMLSで結果を出すことが重要だと認識している。「自分たちの評価イコール日本人の評価、アジアのマーケットの評価につながるので、そこはピッチ内外で意識はしてます」

 高丘選手も「ゴールキーパーとして僕は日本人で(MLS)初めての選手なので、僕への評価が日本人ゴールキーパーの評価になると思うので、そういった意味で責任感を持って良いプレーをして、次の選手、次の世代の人たちが来やすいような道を作ってあげたいなと思います」と同じ思いを語る。

 吉田選手は自分より先にMLSでプレーしている高丘選手について「初めての海外移籍だと思いますけどがんばっていると思います。試合もコンスタントに出ているし、環境が変わってもしっかりポジションを確保していて。あとはチャンスがあれば、(MLSから)代表に絡んでいってくれたらおもしろいなと思います」とエールを送った。

「カナダもアメリカも政治が自分たちの生活に直結するっていう意識が強い」

 ホワイトキャップスのホーム開幕戦はアメリカのLAギャラクシーとの対戦となった。今年1月にトランプ大統領が就任して以降、カナダとアメリカは政治的に緊張関係にある。それが最も顕著になるのがスポーツの試合での国会斉唱。この日も御多分にもれず、アメリカ国歌斉唱時にファンからブーイングが起きた。決して選手たちに向けられたものではないが、カナダ国民の感情が爆発した。

 吉田選手はこの現象についてリーグ内にアメリカとカナダのチームが混在するという状況では「政治的な問題も絡んでくるだろうし、ウクライナの旗とかも見ましたけど、そうなるよな」と理解を示した。トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談が物別れに終わったのは試合の前日だった。

 自分ももう 36歳 のいい大人なのでと笑って、サッカー以外のこともしっかり理解するように一般常識のニュースはフォローしているという。それにアメリカで生活する中でトランプ政権下でのアメリカがどうなっていくのかは直接自分にも関係すると話す。「カナダもアメリカも政治が自分たちの生活に直結するっていう意識が強いなって。それもここにいないと経験できないことなので、なるほどなって興味深く思いました」と語った。

国歌斉唱時にファン席ではためくメープルリーフとウクライナ国旗。2025年3月2日、BCプレース。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
国歌斉唱時にファン席ではためくメープルリーフとウクライナ国旗。2025年3月2日、BCプレース。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

(取材 三島直美)

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「カナダ“乗り鉄”の旅」第22回 トルドー首相表明の高速鉄道計画「アルト」、実現の鍵を握るのは傲岸不遜な隣国大統領!?

東海道・山陽新幹線の「のぞみ」などに使われているN700S(東京都大田区で大塚圭一郎撮影)
東海道・山陽新幹線の「のぞみ」などに使われているN700S(東京都大田区で大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダのジャスティン・トルドー首相が2025年2月19日、約千キロ離れた国内最大都市のオンタリオ州トロントと東部ケベック州ケベックシティーを最高時速300キロで結ぶ高速鉄道計画「アルト」を発表した。投資額が最大1200億カナダドル(1カナダドル=105円で12兆6千億円)になるとの試算もある「カナダ史上最大のインフラプロジェクト」が成就するのかどうかは視界不良だ。しかし、実現するかどうかの鍵を握る影の主役は「カナダがアメリカの51番目の州になるのを見たい」と放言し、カナダからの輸入品に25%の関税を掛けて揺さぶる傲岸不遜な隣国の大統領かもしれない。

【アルト】カナダ東部のトロントとケベックシティーの間に電化した専用軌道を設け、時速300キロの高速列車を走らせる計画。ローマ字表記は「ALTO」。途中駅としてオンタリオ州ピーターボロー、首都オタワ、ケベック州モントリオール、ラバル、トワ・リビエールを設ける。国営企業アルトが担当し、コンソーシアム(共同企業体)「ケイデンス」が設計や建設、運用、保守など経験やノウハウを提供する。ケイデンスには6社が参加しており、カナダの航空最大手エア・カナダ、公共事業受注企業CPDQインフラ、エンジニアリング企業のアトキンスレアリス、フランスの公共交通機関運行受託企業ケオリスのカナダ法人、エンジニアリング企業シストラのカナダ法人、フランス国鉄(SNCF)の高速列車「TGVイヌイ」を運行するSNCF子会社のSNCFボヤジャーで構成する。

2011年、ドイツ・フランクフルト中央駅に停車中のフランス国鉄(SNCF)の高速列車TGV(大塚圭一郎撮影)
2011年、ドイツ・フランクフルト中央駅に停車中のフランス国鉄(SNCF)の高速列車TGV(大塚圭一郎撮影)

「経済を変革」と首相

 トルドー首相は2月19日の記者会見で、アルトについて「所要時間を劇的に短縮し、経済成長を加速させ、二酸化炭素(CO2)排出量を削減するなどわが国の経済を変革する」と意気込んだ。

 同席したアニータ・アナンド運輸相兼国内貿易相も「わが国の人口のほぼ半数がここ(アルトの沿線地域)に住んでいるものの、既存の交通システムは追いついていない」と問題視し、アルトが実現すれば「カナダ史上最大のインフラプロジェクトになる」と期待感を示した。

 アルトが建設予定のオンタリオ、ケベック両州の沿線地域には約1800万人が住み、カナダの国内総生産(GDP)の約4割を稼ぎ出す屋台骨だ。トルドー首相はアルトがカナダの「ゲームチェンジャー(変革者)になる」と訴え、GDPの押し上げ効果が最大で年間350億カナダドル(1カナダドル=105円で3兆6750億円)になるとの試算を紹介した。

左からアルトが計画している区間、VIA鉄道カナダの現在の所要時間、アルトの計画所要時間、時間差を示す表(アルトの公式ウェブサイトから)
左からアルトが計画している区間、VIA鉄道カナダの現在の所要時間、アルトの計画所要時間、時間差を示す表(アルトの公式ウェブサイトから)

 ただ、まだ具体的なルートや各駅の建設場所も決まっておらず、建設には環境影響評価(アセスメント)が必要になるなど課題が山積している。アルトの公式ウェブサイトも付け焼き刃でこさえた様子で、発表時に掲載していた画像に写っている車両は高速列車ではなくなぜかドイツ鉄道(DB)の通勤電車442型だったり、イメージ動画には全米鉄道旅客公社(アムトラック)の客車内の様子が映し出されていたりする。

アルトの公式ウェブサイトのイメージ動画には、全米鉄道旅客公社(アムトラック)の客車内で撮影された場面も
アルトの公式ウェブサイトのイメージ動画には、全米鉄道旅客公社(アムトラック)の客車内で撮影された場面も

主要区間は東京―大阪に相当、でも距離は…

 アルトの主要区間はカナダの2大都市のトロント―モントリオール間となり、日本で言えば東京と大阪に相当する。しかし、トロント―モントリオール間は約540キロあり、これは東京と神戸市の距離に相当する。

 東海道・山陽新幹線の東京―新神戸間を「のぞみ」で移動すると2時間40分前後だ。これに対し、国営の旅客鉄道運行会社VIA鉄道カナダはほぼ同じ距離のトロント―モントリオール間を走るのに5時間半前後と約2倍かかる。

VIA鉄道カナダの列車(カナダ西部サスカチワン州で大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの列車(カナダ西部サスカチワン州で大塚圭一郎撮影)

 大きな要因は東海道新幹線の最高時速が285キロ、山陽新幹線の新大阪―新神戸間は275キロなのに対し、VIA鉄道の列車の最高時速は120キロにとどまるからだ。加えてVIA鉄道が使う線路は貨物鉄道が所有しているため「貨物列車を優先して走らせる権利を持ち、旅客列車は後回しにされている」(VIA鉄道の乗務員)のも打撃になる。

カナディアン・ナショナル(CN)の貨物列車(カナダ西部サスカチワン州で大塚圭一郎撮影)
カナディアン・ナショナル(CN)の貨物列車(カナダ西部サスカチワン州で大塚圭一郎撮影)

 しかし、アルトは東海道・山陽新幹線と同じく電化した専用軌道を走り、最高時速300キロでトロント―モントリオール間を3時間7分で結ぶ計画だ。旅客機で両都市の中心部を移動する場合、空港への移動や手荷物検査などの時間を含めると最短でも約3時間半を要する。アルトが開業すれば旅客機に対抗できる競争力を持つ上、CO2排出量を低減できるため脱炭素化にも貢献する。

保守党は「レームダック声明」と批判

 トルドー首相はアルトの建設に向けて6年間で計39億カナダドル(1カナダドル=105円で4095億円)を投じる計画を表明したが、カナダ国民からは「絵に描いた餅になるのではないか」「過去にも高速鉄道計画が浮上しては消えてきた」などと懐疑的な反応が多い。

 何よりも説得力を欠くのは、アルトの計画を宣言したトルドー氏が事実上レームダック(死に体)化しているからだ。2025年1月に与党自由党党首と首相を辞任すると表明したトルドー氏は、3月9日の自由党党首選の結果が出た後に退き、次期総選挙にも出馬せずに政界を引退すると公言している。

 このため、保守党のフィリップ・ローレンス下院議員は放送局CTVにアルトの発表について「レームダック政権によるレームダック声明だ」と揶揄し、「自由党は高速鉄道計画に9年をかけたが、残したのは高額なコンサルタントへの支出だけだった」と舌鋒鋭く批判した。

 実際、カナダ国民からも「トルドー氏が高速鉄道の建設を目指して善処したというポーズを示すためのアリバイ作りではないか」との冷めた見方が出ている。

「あの大統領」が期せずして推進役に?

 ところが、期せずしてアルトの推進役となる可能性を秘めているのがトランプ氏だ。カナダへの侮辱的な暴言を連発して「名前も聞きたくない」(知人のカナダ人)というほど嫌悪感を持たれているのに、なぜアルトの計画をけん引する影の主役になり得るのか。その根拠を三段論法で説いていきたい。

 トランプ氏が3月4日にカナダからの輸入品に25%の関税を発動すると表明したのに報復し、カナダのトルドー首相は1550億カナダドル(1カナダドル=105円で16兆2750億円)相当のアメリカ製品に25%の関税適用を表明。カナダからの自動車といった工業製品、原油や天然ガスなどの輸出が打撃を受け、カナダ経済に悪影響を及ぼすことは避けられない。

 カナダ統計局によると1月の失業率は6・7%と、日本の1月の完全失業率の2・4%に比べて高く、アメリカとの貿易戦争は雇用の悪化に拍車をかける恐れがある。そこで、カナダの次期首相は雇用創出するための大規模な経済対策を打ち出すとみられ、建設によって5万1千人を超える雇用創出が見込まれるアルトも柱の1つとして打ち出す可能性がある。

 自由党の党首選で最有力候補のマーク・カーニー氏は、カナダ銀行と英国イングランド銀行(BOE)という先進7カ国(G7)の2つの中央銀行で総裁を務めた「銀行界のスーパースター」(金融関係者)だ。アメリカのジョー・バイデン前大統領が新型コロナウイルス禍で悪化した労働市場を立て直すためにインフラ投資法に沿った大規模プロジェクトを進めて雇用が急増したように、経済の専門家であるカーニー氏も同様の政策を打ち出すことが予想される。

“反トランプ”旋風で攻守逆転

 そして、トランプ氏が「(カナダ首相になれば)とても良いことになる。私たちの意見は間違いなくより一致するだろう」と秋波を送ったことで足元を救われ、支持率が失墜しているピエール・ポワリエーブル氏が党首を務める野党保守党が2025年10月までに実施される連邦議会下院の総選挙で敗れればアルトの計画が軌道に乗る好機となり得る。

 ポワリエーブル氏はトルドー氏のことを「いかれた奴」と呼んで議場から退場させられたように“反トルドー”路線で攻勢を掛けて人気を集めていた。

 ところが、トルドー氏の退陣表明に加え、ポワリエーブル氏のことを「トランプ氏を崇拝している」(カーニー氏)などとレッテルを貼った自由党のキャンペーンが奏功。今やカナダ国民の間で吹き荒れる“反トランプ”旋風がポワリエーブル氏に飛び火し、トランプ氏から支援表明を受けたことがすっかり裏目に出て守勢に立たされている。

 調査会社イプソスが2月26日に発表した世論調査で、自由党の支持率が38%となり、保守党の36%を上回って逆転した。6週間前には保守党が自由党を26ポイントも上回っていただけに、保守党の人気急落のすさまじさを物語る。エコスが2月25日に発表した世論調査も自由党の支持率が38%と、保守党の37%を上回った。

 これらの私の見立てが当たった場合には、カーニー氏が率いることになると予想される次期政権が総選挙で勝利し、高速鉄道らしく一足飛びに建設へと邁進することは無理でもアルトの計画が着々と進むことになる。

 一方、好事魔多しとばかりに自由党が総選挙前に足をすくわれる事態が到来しないとも限らない。そうなれば保守党が再び勢いづいて勝利し、ポワリエーブル氏が首相の座に就き、上記の見立てが瓦解することになる。ポワリエーブル氏は“天敵”トルドー氏が策定したアルトの計画について、見せしめだと言わんばかりに白紙撤回するシナリオが想定されるからだ。

 アルトは低い音域の女性の声域を指す。名は体を表すとは言うものの、カナダの2大都市間を結ぶのにふさわしい高速鉄道計画に声を落とす結末が待ち受けているとは信じたくない。

【筆者より】いつもご愛読いただきましてありがとうございます。本稿で示した視点や見解は筆者個人のものであり、所属する組織や日加トゥデイを代表するものではありません。

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

「自分らしく生きるとは?」小説家・西加奈子さんインタビュー(前編)

西加奈子さん。バンクーバー市内で。2024年8月。撮影 斉藤光一
西加奈子さん。バンクーバー市内で。2024年8月。撮影 斉藤光一

 小説家として活躍する西加奈子さん。2004年「あおい」でデビューし、以降次々と作品を発表している。2019年12月からはカナダ・バンクーバーに滞在。その時に乳がんが見つかり、バンクーバーで治療を受ける。その闘病記を自身初のノンフィクションとして発表した「くもをさがす」も話題を呼んだ。

 2024年8月、バンクーバーに滞在していた西さんに話を聞いた。

バンクーバーに語学留学

 西さんは2019年12月から、夫と子どもとバンクーバーに滞在。翌年には新型コロナウイルスが発生したため、新型コロナ禍で3年間の滞在となった。

***

-バンクーバーの滞在は語学留学が目的ということですが、なぜ語学留学をしようと思ったのですか?

 「夫と2人でよく旅行に行っていて、いつか海外に住んでみたいねって話をしていました。夫が会社を2年間休めることになったので、当時は子どもも小さかったのですが、せっかくだからどっかに行こうかとなって。最初はアメリカも考えましたが、一度1週間くらい旅行に来たバンクーバーが本当にすばらしい街だったので、ここにしようって決めました。ただ私たちが滞在できるのは語学留学しかなかったので、それぞれで違う学校に行くビザを取って2年の予定で来ました」

-バンクーバーに長期滞在して何か驚いたことはありましたか?

 「まず旅行に来た時に子どもがまだ1歳でヨチヨチ歩きだったんですけど、もう本当にみんなが子どもに優しくて。ベビーカーでバスに乗ってもみんなすぐ席を譲ってくれますし。こっち(バンクーバー)に来てからも子どもが2歳になって結構やんちゃな盛りで。でも、例えば公園で泣こうがいたずらしようが、私がSorryって言ったら、みんながDon’t be sorryって。子どもなんだからって言ってくれて。それは本当に感動しました」

-海外に移住という選択は自身の執筆活動に影響があると思っての決断だったのですか?

 「最初はそんなに考えてなくて。ただただ家族で海外に住めることにワクワクしていました。英語を学びたいというのもすごくあったので、それがメインでした」

-3年間住んでみて、執筆活動にいい影響はありましたか?

 「日本を離れて見られたのは大きかったです。それから、『くもをさがす』がそうですけど、(新型)コロナもあったし、乳がんにもなって、それを海外で経験するっていうのはスペシャルな経験だったなぁってすごい思います」

-バンクーバーに来る前と来た後で、見方が変わったことなどありますか?

 「私が母親っていうこともあって、子どもがどんな風に育つかっていうのが全然違いました。あとは(私は)40歳過ぎで来たのですが、中年女性が元気だということですね。年齢に関係なく好きな服を着てるし、好きなことをしているし。一方で日本は、良いところはいっぱいあるのですが、私たちの年齢だと年齢に見合った服を着なければいけない圧力があったり、何事も始めるのに適正な年齢があったり、そういうことをすごく感じました」

-バンクーバーで3年暮らした後に東京に帰って、どう感じましたか?

 「そうですね、やっぱり(バンクーバーは)とにかく女性が元気ですね。いわゆるマイノリティと言われている方たちが当たり前のように尊重されているし、安心して暮らせる街だなって改めて思います。日本がそうでないとは言いたくないですし、もちろん自分が全く気にせずにいれば自由に暮らせるはずなんですけど、でも町自体の寛容さとか、町自体が何を許容しているかっていうのが、日本とバンクーバーでは違う気がします」

-日本に帰って窮屈だなぁっていう思いはしますか?

 「窮屈というか、特に東京は物理的に人が多いんですよね。子どもがバンクーバーにいた時は自由に木に登ったり走ったりできてたんですけど、それが一切できない、物理的にできないんです。人の目がどうっていう以前に、危ないし、車も多いし、だから子どもが子どもらしくいれるかなっていうのはすごく考えました。あとは人が多い分、パーソナルスペースも狭いから、あまりカナダにいた時みたいに自由には振る舞えないんじゃないかなとは思います」

語学留学でバンクーバーに滞在していた頃を楽しそうに話す西さん。2024年8月。撮影 斉藤光一
語学留学でバンクーバーに滞在していた頃を楽しそうに話す西さん。2024年8月。撮影 斉藤光一

-バンクーバーでの生活は解放感がありましたか?

 「そうですね、すごくありました。ほんとボロボロの下着みたいな服で外を歩いていましたし(笑)。あとはなんか走りたいなと思ったら毛玉の付いたヒートテック上下でバーッてランニングしたりとか。日本でもやればいいんでしょうし、これは私個人の問題なのですが、やっぱりそれができるような雰囲気ではないかなと感じてしまって。(バンクーバー市)キツラノに住んでいたのでビーチの近くだったんですけど、ビーチで私よりうんと年上の女性がワンピースでフラッと来て服を脱いで上半身裸でバーッと泳いで、バーッて(服を)かぶって帰っちゃったりとか。それをだれも何も言わないとか、それはほんとになんというか、いてて心地よかったです」

-バンクーバーで生活するにあたりカナダの制度面で思ったことはありますか?

 「自分は日本にいて日本人だったのでその土地にいたいと思うことに障害を感じたことはなかったんです。例えば、引っ越しをしたかったらお金の問題はあるけれども引っ越しできるし。

 でも(バンクーバーでは)自分がいたいという場所にいれないっていうことがあるんだなと。(カナダ滞在用の)ビザの問題もそうですし、ビザを取るためにこれだけのことをしなければいけないんだとか、言語の問題もありましたし。あとは自分の母国以外で暮らさざるを得なくなった人たちのこと、難民の方とか、そういうことをすごく考えるようになりました。

 制度でいうと医療制度は、私も無料でがんを治してもらったので、ほんとに感謝しています。でも、同時に無料だからこそエマージェンシー(救急)で9時間待たされるとか、すぐに専門医にいけないとか。あとはすごくクリティカルなことなのに子どもが熱を出しても正確に伝えられないとか、そういうもどかしさはすごく感じました。もちろん自分の語学の問題もあるんですけど、異国で暮らすというのはこういうことなんだなとすごく思い知った感じです。

 だからほんとにむちゃくちゃ良い所もあれば、やっぱりこれは日本が絶対にいいなと思うこともあるし、それは本当に一長一短っていう感じでした」

-外国にいるから日本のことが見えることもあって、外国に住んでみての日本を見る目というのは変わりましたか?

 「そうですね、とにかく日本はお一人おひとりの努力がすごいと思います。ほんとに国の制度が破綻していたとしても、個人個人の努力で自分の時間外労働をしたりしてなんとかやっています。例えば、看護師さんたちもそうですよね、ほんとに給料をもっともらうべきだと思います。さっきパーソナルスペースが狭いと言いましたけど、日本は狭い国で譲り合わないといけないから、譲り合う時の優しさは深いし、そういうところで良い部分があります。

 カナダの方はすごく優しいですけど、どんなにこっちが苦しんでても5時になったらパチッと帰るし。だからすごくほかで優しくいられるんだろうなって思うけど、日本だったらそうではないし、ほんとにそれぞれだなって。どっちも良い所があって」

-日本の良いところでカナダの人に伝えたいことってありますか?

 「有言実行ですね。カナダの方はほんとに素敵なことをたくさん言ってくれるけど、それに伴った行動をしない場合もあるというか(笑)。日本人は例えばシャイだったりして愛情を口に出して言わないけど、でもすごい実はやってくれますね。助けるよって言ったら本当に助けてくれるし、そういう有言実行なところとか。あとは約束を守るところですね。例えば自分が遅れたことによって相手がどれだけ困るかっていう想像力を日本人は強く持っているように思うので、そういうのはいいかなぁと思います。

 こっちはたぶん約束に遅れても平気な社会だから成り立っているんでしょうね。工事の人が来るって言って全然来ないとか、そういうことがあるんやぁっていうのはビックリしました(笑)」

***

後編に続く。

西加奈子(にし・かなこ)

小説家。イラン・テヘラン生まれ。小学生の時にはエジプト・カイロで過ごしたが、帰国後は大阪に。2004年「あおい」でデビュー。2007年「通天閣」で織田作之助賞、2013年「ふくわらい」で第一回河合隼雄物語賞、2015年「サラバ!」で第152回直木三十五賞を受賞した。映像化された作品には2013年に映画化された「きいろいゾウ」(2006年)、劇場アニメ映画化され、バンクーバー国際映画祭でも上映された「漁港の肉子ちゃん」(2011年)がある。「くもをさがす」は第75回読売文学賞 随筆・紀行賞を受賞した。

(取材 三島直美/写真 斉藤光一)

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