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Naomi Mishima

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「初夢25」~投稿千景~

エドサトウ

 正月からずっと考えていたことがある。いささか夢のような話なので、「初夢」という題にしてみた。

 なぜに田中英道先生が言われるようにイスラエルの民のような姿をした埴輪が日本の古墳の中に見られるのは、平安時代の貴族の娘さんが紫式部のような結構鮮やかな赤や緑の入った十二ひとえの着物を着ている絹織物を買い付けに来たようにも見える。ローマ時代の貴族男子が着ていた衣装にも、それと似た派手な色の衣装を着けた絵画が残っている。

 当時、これだけきれいな絹織物を作れるのは東洋の中でも日本が最高ではなかったのかと、正月の百人一首のかるたの札に見られるような絹織物が倭国日本にあったように想像される。

 中国の小さな植民地のような出先機関が楽浪郡という北朝鮮の平壌あたりに紀元前からある。そこへ中国の長安(現在は西安)にいたシルクロードの民のイラン人とかイスラエル人が倭人の絹織物に目を付けて早くからやってきて楽浪郡から日本に来たのかもしれない。だから、魏志倭人伝でも、その距離を楽浪郡、もしくはその対岸の中国から考えればと思う。中国の当時の一里は現在の500メートルぐらいらしいから、魏志倭人伝もそのように読めば理解できるかもしれないと思うのであるが?

 その高句麗にある楽浪郡から倭人の絹と交換するための鉄の塊とそれを加工する中近東の人々が弥生時代から倭国にいたようにも想像される。イタリアのスパゲッティは中国のうどんに起源があるらしいから、日本の鮮やか絹織物がはるかローマまで、ラクダの隊商によって運ばれたのであろう。日本とローマの古い絹の遺伝子を調べたら新しい発見があるかもしれない。

 倭国にあるジマ大国、僕風に読めば「島大国」は北九州にあり、日本の本土側からお米などを運び、帰りの船には鉄やガラス製品が運ばれたと考えれば、沖ノ島が日本海側の中継交易の基地として西日本にネットワークを広げていたのかもしれない。その交易に朝鮮半島の南の倭国に住んでいたという秦氏が裏日本一帯で絹織物などの生産に力を入れて大きな勢力となっていくのではあるまいか?日本では織物を機織り(はたおり)というのは、この秦氏のことをさしているのではと勝手な想像である。

 西日本に馬や牛でスキを使う農耕も始まってくると、鮭などを食料にしていた自給自足の縄文人も伊勢街道を経由して奈良の三輪山あたりまで、物々交換のために縄文土器に穀物や木の実を入れて、やってくるのである。何故か三輪山のご神体は中近東などの砂漠で生きていて大切にされ、印鑑(交易のしるしに)に使われたという蛇なのである。このことは、楽浪郡から来た高句麗の役人と一緒に来たイラン系の人たちがいたのかもしれない。そのなごりが三輪山のご神体なのかもしれない。この縄文人のネットワークは楽浪郡経由で入ってくるコマの人達の牛馬の力による農耕を東日本全土に広め、一段と日本の開拓が進んだようにも想像できる。

 当然、いろんな諍いが起こり始めてくると北九州にあったジマ大国は、明日香村に拠点を移動してくることはシャーマン卑弥呼のお告げであったのであろう。また、三輪山は絹織物交易のイラン系の人々の拠点であったためか蛇の信仰が根付いたのかもしれない。

 夢のような話の想像は膨らむばかりである。

投稿千景
視点を変えると見え方が変わる。エドサトウさん独特の視点で世界を切り取る連載コラム「投稿千景」。
これまでの当サイトでの「投稿千景」はこちらからご覧いただけます。
https://www.japancanadatoday.ca/category/column/post-ed-sato/

バンクーバー交響楽団元音楽監督・秋山和慶さん死去

 バンクーバー交響楽団(VSO)で音楽監督を務めた秋山和慶さんが1月26日午後10時57分、肺炎のため死去した。84歳。東京都出身。

 今年1月1日に自宅で転倒して頸髄を損傷、治療に専念するため1月23日に音楽活動からの引退を表明していた。

 斎藤秀雄のもとで指揮法を学び、1963年に桐朋学園大学音楽学部を卒業、1964年2月には東京交響楽団を指揮してデビューした。バンクーバーでは1972年から85年までVSOで音楽監督を務め、のちに桂冠(けいかん)指揮者に就任。以前の地元紙のインタビューでは「バンクーバーは第二の故郷」と語っていた。

 東京交響楽団をはじめ国内外のオーケストラの音楽監督や首席指揮者など要職を歴任。トロント交響楽団の副指揮者(1968〜69年)も務めた。東京交響楽団などの桂冠指揮者、広島交響楽団の終身名誉指揮者。2001年に紫綬褒章、2011年に旭日小綬章。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学より名誉博士号授与。

 VSO終身名誉コンサートマスターの長井明さんは「秋山さんの元日の転倒・入院の速報から引退声明、訃報!VSO のステージにもう一度と期待していたのに・・・!」と悲報に落胆を隠せず、「1975年に秋山さんから『VSOの発展に助けてよ』と言われ、1976年にモントリオール響からVSOに移籍。私の人生の3分の2の“道しるべの線路”を敷いてくれた恩人でした。口数少ないマエストロでしたが彼の行動・言動から学んだことは多大で、今となっては私の最高の賜物の一つです。小澤征爾さんを亡くした日本の指揮者界を引っ張っていく先導者・秋山和義に最善の期待をしていた矢先の悲劇的な他界に言葉を失ってしまいました」と悼んだ。

(記事 編集部)

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展覧会「旨味:芸術で味わう日系人のアイデンティティ」Umami: Savouring Artistic Nikkei Identity

前期:2月8日~5月17日、後期:5月27日~9月27日

オープニングイベント 2月13日18時~20時

本展は、日本カナダ人のアーティストたちが、自分たちのルーツと創造性を独自の方法で表現した作品群を紹介します。日系人としてのアイデンティティを探求する旅路を垣間見ることができます。前期では、Todd Inouye、Ken Mizokoshi、Wendy Tanaka、Brian Kobayakawa、Annie Sumieの五名のアーティストの作品が展示されます。

場所:日系文化センター・博物館 6688 Southoaks Crescent, Burnaby(Edmonds Skytrainより徒歩あるいはバス)

開館時間:火曜から土曜、10時から5時まで

入場無料(寄付歓迎)

ウェブサイト centre.nikkeiplace.org/exhibits/umami-savouring-artistic-nikkei-identity/

お問い合わせ 604.777.7000 info@nikkeiplace.org

年賀状・書き初め・お正月遊びを楽しんだグラッドストーン日本語学園

中学科2、3年書き初め
中学科2、3年書き初め

 日本では、1年の最初に手にする年賀状を高等科上級クラスは文化学習として12月最終日に学びました。相手の健康と幸せを願いながら心を込めて元旦に届く巳年の年賀状を書きました。

年賀状・高上と習字クラブ
年賀状・高上と習字クラブ
書き初めの作品中2、3年と高上
書き初めの作品中2、3年と高上

 「明けましておめでとうございます」の元気な挨拶から2学期が始まりました。

 日本では、1月2日に書き初めをします。学園の中学科2、3年生・高等科上級は2学期の授業初日に、自分の希望や願いの言葉を選んで長い紙に心を込めて真剣な様子で書いていました。「初めて筆を持った」「お習字クラブで書いたことがあったな」と言いながらお稽古しました。掲示された作品を先生方や迎えに来た保護者から、「上手に書けているね」と褒められて満足そうでした。

中学科2、3年書き初め
中学科2、3年書き初め
書初めの作品を持って記念写真
書初めの作品を持って記念写真

 5歳児から小学科、中学科、高等科はクラスごとに、日本の伝統的なお正月遊び「福笑い」「はねつき」「こま回し」「けん玉」「かるた取り(BC州かるた・いろはかるた・ドラえもんかるた・お話かるた・百人一首等)」「すごろく(お正月言葉・カタカナ・漢字・ことわざすごろく等)」「ビデオでお正月に関するクイズ」をし、大きな笑い声が廊下に聞こえてくる一日でした。

「はい、はい」と元気にかるた取り
「はい、はい」と元気にかるた取り
福笑いにチャレンジ
福笑いにチャレンジ
ことわざすごろく
ことわざすごろく
羽根つきを楽しむ
羽根つきを楽しむ
けん玉を楽しむ高等科
けん玉を楽しむ高等科

 また、2、3、4歳児は手作りの凧を日系センターの庭で元気よく凧あげをして走り回りました。

3、4歳児の凧揚げ
3、4歳児の凧揚げ

 どの学年も日本のお正月の気分を味わいながら楽しい時間を過ごし、日本伝統文化の一端に触れたことでしょう。

グラッドストーン日本語学園
Eメール:info@gladstonejls.com
Webサイト: https://www.gladstonejls.com/

(寄稿 グラッドストーン日本語学園)

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「k.d.ラング」音楽の楽園〜もう一つのカナダ 第31回

はじめに

 日加関係を応援頂いている皆さま、音楽ファンの皆さま、
 明けましておめでとうございます。
 本年も宜しくお願いします。

 厳しい国際情勢と激動のカナダ内政で幕を開けた2025年ですが、年末年始の休暇ではリラックスした時間を過ごすことが出来ました。そして、改めて実感したのは、カナダが生んだ音楽家の奥深さです。特に、休暇中の極私的ヘヴィーローテーション音盤の一つがk.d.ラングの「makeover」だったのですが、この音盤を聴くにつけ、頭と身体の双方に実に心地良く爽快な刺激を受けたのです。音盤ジャケットもデザインといい色合いといい最高です。

 仕事がら、私は日々カナダの各界の要人の方々とお目にかかる訳ですが、硬い話のみならず、時にはソフトな事柄も沢山話します。その際に、カナダを代表するアーティストは誰かという話題にもなりますが、多くの方がk.d.ラングだと指摘されます。その意味するところは、単に歌が上手いとか、ヒット曲が沢山あるという事を超えて、カナダという国家のあり様を体現しているという事だと思います。

 という訳で、今回の「音楽の楽園」は、k.d.ラングについてです。

ハレルヤ

 k.d.ラングには実に多彩な面があります。何処から始めればよいか悩むところですが、まずは「ハレルヤ」からにします。2004年発表の音盤「北緯49度の讃歌(Hymns of the 49th Parallel)」に収録されています。静謐な中にも雄弁に歌う、名唱です。

 カナダは国の成り立ちからして非常に多様性に富んだ国。それはカナダの生む音楽の多様性に直結しています。このコラムでも、ロック・ポップからジャズ、更にはクラシックまで毎月紹介して来ています。カナダ人が誇り愛する音楽に満ちています。が、敢えて、カナダを象徴する歌を選ぶとすれば、第2の国歌とも言われる「ハレルヤ」でしょう。本コラム第4回で取り上げたレナード・コーエンの作詞・作曲で1984年発表の音盤「哀しみのダンス」に収録された曲です。歌詞には旧約聖書からの逸話も言及され、完成に5年を要したと云われています。旋律は讃美歌のような崇高さと親しみやすさが同居しています。ボブ・ディランやマドンナはじめ300を超えるアーティストがカバーしています。その中でも、ラングが歌う「ハレルヤ」は、原作者のコーエンに勝るとも劣りません。

 ラングの「ハレルヤ」が数多あるカバーとは一線を画す特別な存在となったのは、2010年2月のバンクーバー冬季オリンピックの開会式での歌唱です。バンクーバー冬季五輪の開会式は、史上初の屋内開催。中心には先住民の誇りである氷製の巨大なトーテムが設置されました。ミカエル・ジャン総督が開会宣言を行いましたが、五輪史上初の黒人による宣言でした。要するに、カナダの歴史と文化と個性を前面に出した式典だった訳ですが、ラングの「ハレルヤ」は、音楽の面からカナダの誇りを示したものでした。多くのカナダ人にとって忘れられない瞬間だったと云います。

カントリー・ミュージックとの出会いと革新

 そんな国民的歌手k.d.ラングの生い立ちを簡単に記します。1961年11月、アルバータ州の州都エドモントンでドラッグストア経営者の父と教師だった母の下、4人兄弟の末っ子として誕生。7歳でピアノ、10歳でギターを始めました。12歳の時、父は出奔したそうです。人知れぬ苦労もあったようですが、アルバータ州のレッド・ディア大学に進学します。そして、運命の扉が開きます。

 ラングは、学業はさて置き、カントリー・ミュージックにのめり込みます。特に、米国現代カントリーの先駆者パッツィー・クラインのナッシュビル・サウンドに魅せられ、パッツィーのカバー・グループ「ザ・リクラインズ」を結成します。1983年、22歳の時には、シングル盤「フライデー・ダンス・プロムナード」でプロ・デビュー。エドモントンのクラブで演奏活動を本格化させます。

 84年には、アルバム「A Truly Western Experience」を発表。カントリーを基礎としつつより現代的な要素も盛り込んだ音盤は高い評価を得て、エドモントンのローカル・バンドから全国区へと成長します。批評家達は、従来のカントリーを革新するk.d.ラング&リクラインズの音楽を“カウボーイ・パンク”と呼びました。ラングの声と歌唱、更にバンド・サウンドは、時代と共鳴し始めます。

 85年には、ジュノー賞の最優秀新人女性ヴォーカリスト賞を受賞します。注目すべきは、k.d.ラングは最早カントリーというジャンルに限定されない歌手としての大いなる可能性が開花し始めるのです。

 トリビアですが、今をときめくテイラー・スウィフトもカントリー&ウエスタンの歌手としてデビューしますが、進化を遂げて、カントリーの重力圏を超えたポップ・ミュージックの境地に達しています。ラングは、スウィフトに先立つこと30年前に、カントリーを超える音楽的冒険の旅路を始めたのです。

音楽と文学の邂逅

 k.d.ラングの特徴の一つが、名前の表記です。誕生時の姓名は、Kathryn Dawn Langでした。が、デビューしてからは、一貫して、k.d. langと全て小文字で表記しています。法律的にも改名しています。そこには、ラングの拘りがあります。特に、米国の詩人e.e. cummingsから影響を受けたと云います。

 e.e. cummingsは、アバンギャルド志向で、既存の形式を破り、ユニークな構造や語順、スペースを使った自由詩スタイルを信条としました。人間の本質を深く掘り下げ、極めて内省的なトーンの表現が読む者の胸に迫ります。そんなカミングは、自身の名も型破りな表現を反映させて、e.e. cummingsと小文字のみで記していました。一説には、謙遜を意図したとも云われています。

 k.d.ラングは、虚飾を排した赤裸々な感情を形式的な制約を超えて自由に表現しようとしています。音楽と文学の違いはあるにせよ、真に自由な表現を希求しようとする衝動という意味では、k.d.ラングとe.e.カミングスの姿勢は重なります。音楽と文学の邂逅を小文字のみを使った名前の表記が象徴しています。

成功

 k.d.ラングは、カントリー・ミュージックを基盤とし、多彩な音楽的な要素を導入して独特なサウンドを築くとともに、前衛的な文学的要素も加味して、ラング流音楽を進化させます。その核心は、彼女の声と歌唱です。アルトの声域で芯太く情感が籠った歌が聴く者の心の奥に刺さります。

 エドモントンの地元シーンから始まった音楽キャリアは、カナダ全土、更にエンタメビジネスのメッカ米国へと広がります。

 1986年には、カントリー・ミュージックの本場テネシー州ナッシュビルに進出。恐るべき創造力と生産性を示します。翌87年には「エンジェル・ウィズ・ア・ラリアット」、88年には「シャドウランド」をたて続きに発表。そして、89年には、k.d.ラングのカントリー時代を締め括る「アブソルート・トーチ・アンド・トワング」を発表します。非常に高い評価を得て、グラミー賞の最優秀女性カントリー・ヴォーカル賞を受賞します。商業的にも、シングル・カットされた『愛いっぱいのフルムーン』がカナダのチャート1位を獲得し、米国でもヒットしました。

 1992年、前作から3年のインターバルを経て、k.d.ラングは「アンジャニュウ」を発表します。収録された10曲は全てラング自身の作品で、ソングライターとしての資質が全開します。サウンドは、カントリー的なフレイバーを微量に感じさせつつも現代的。いわゆるコンテンポラリー・ポップに仕上がっています。都会的な雰囲気の中に滲む田園的要素がお洒落。ラングの声は、最初のワン・フレーズから、ラングと分かる屹立した個性です。歌唱は、語るように歌います。言葉に吹き込まれた生命が舞うようです。商業的にも大成功し、母国カナダ以外でも、日米英独豪NZ等のアルバムチャートで好成績を残しました。そして、グラミー賞6部門にノミネートされ、見事に最優秀女性ポップ・ヴォーカル賞を受賞しました。

 その後も、ラングは栄光に包まれたキャリアを歩みます。歌手としては勿論、女優として映画にも出演します。007ジェームス・ボンド「トゥモロー・ネバー・ダイ」では、エンディング・テーマ「サレンダー」を歌いました。1996年には、35歳の若さで、「カナダ勲章」を受賞します。2006年の音盤「Reintarnation」ではエルビス・プレスリー追悼を前面に出します。2010年は、上述のとおり、バンクーバー・オリンピック開会式を彩りました。2013年には、「カナダ音楽の殿堂」に列せられました。2014年には、ブロードウェイへも出演します。彼女の活動は留まるところを知りません。

私生活と社会活動

 k.d.ラングは、1992年に、同性愛者であることをカミングアウトしました。伝統を重視し、保守的な面もあるカントリー・ミュージック界からの反発も覚悟したと云いますが、それは杞憂に終わりました。彼女の正直な姿勢は評価されました。時代の変化を牽引し体現したのです。HIV問題も献身的に支援。アニー・レノックスと共同で、チャリティー盤「Sing」を2007年12月1日の世界エイズデーに発表しました。

 また、彼女は、チベット仏教徒にして、菜食主義者でもあります。米国で設立された動物愛護団体PETA(People for the Ethical Treatment of Animals)の活動にも積極的に関わっています。彼女の地元アルバータ州では、畜産が州経済を支えている関係で軋轢も生じました。アルバータ州農業大臣が「州を挙げて応援してきたラングが動物愛護側についたことは、裏切られたような気分で極めて遺憾だ」と発言しました。とは言え、ラングの姿勢は一貫していますし、アルバータ州は畜産を重視し、アルバータ牛は今や強力な輸出品目でもあります。

 自由で多様性を旨とするカナダの現実の一旦がここにあります。同時に、個人としてのラングの社会的な影響力の大きさを示す逸話でもあります。

結語

 k.d.ラングの歩みを俯瞰すると、何通りにも自己を表現する術を持ち、それぞれに成果を残しています。一人の人間が為し得る可能性の振幅の大きさに驚嘆します。

 実は、彼女は2019年には、BBCのラジオ番組に出演し、ほぼ引退する意向を表明しました。還暦を前にした、一つの決断だったのでしょう。それでも、2021年には、既存の録音をリズム重視のクラブサウンドに大胆に編曲し直した「makeover」を発表。ラングの音楽が時代を超えて共鳴し得ることを証明しました。

 そして、2024年9月、k.d.ラングは力強くカムバックします。還暦を過ぎて、原点回帰するのです。32年ぶりに、あのリクラインズを再結成したのです。「カナダ・カントリー音楽の殿堂」入りを祝してのことです。YouTubeでその模様は観れますが、彼女自身も聴衆も本当に楽しんでいます。理屈も蘊蓄も超えた、音楽の楽しさに溢れています。

 2024年10月、彼女は新たに音楽出版社と出版契約を結びました。既存の作品のみならず、将来の作品も視野に入っているとのことです。

 k.d.ラング、成熟した国民的歌手の今後の更なる活躍が楽しみです。

(了)

山野内勘二・在カナダ日本国大使館特命全権大使が届ける、カナダ音楽の連載コラム「音楽の楽園~もう一つのカナダ」は、第1回から以下よりご覧いただけます。

音楽の楽園~もう一つのカナダ

山野内勘二(やまのうち・かんじ)
2022年5月より第31代在カナダ日本国大使館特命全権大使
1984年外務省入省、総理大臣秘書官、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、外務省経済局長、在ニューヨーク日本国総領事館総領事・大使などを歴任。1958年4月8日生まれ、長崎県出身

24 ☆「おめでとうございました」の文化的背景

日本語教師  矢野修三

 明けましておめでとうございます。今年は巳(み)年、「巳」を「実」にかけて、いろいろ楽しい願いが、巳を結びますように・・・。本年もよろしくお願い申し上げます。

 先日、日本語上級者から、「先生、新年の挨拶が遅くなってすみません。明けましておめでとうございました」。こんなメールが届き、思わず読み返した。過去形の「おめでとうございました」であり、びっくり仰天。確かに、正月も半ば、時制にうるさい英語を母語とする彼女が過去形を使った気持ちは分からないでもない。彼女も冗談半分、でも半分は本気だったようで・・・、思わず「明けましておめでとうございました」には笑ってしまった。

 この「ございます」は表現を丁寧にする魔法の言葉として教えている。例えば、お礼やお祝いなどの「ありがとう」や「おめでとう」、さらに、挨拶の「おはよう」などに付けて丁寧な表現に。これらは今の自分の気持ちを述べる言葉であり、基本的に過去形はふさわしくない。もし「おめでとうございました」と言ったら、今は「おめでとうと思っていません」という意味にとられてしまう恐れも・・・。ましてや、お昼近くの朝の挨拶、「おはようございました」は、それこそ落語の世界である。

 しかし、明らかに過去の出来事について、お祝いやお礼を述べる場合、「先日のお祝い会、素晴らしかったですね。おめでとうございました」や「この間はご馳走さま、ありがとうございました」のように、「先日」や「この間」など過去のイメージを持つ言葉と一緒であれば、「ございました」を使う人も多いのでは・・・。個人差もあろうが、日本人は何となく、自然に使い分けている。

 こんな経験も。知り合いの結婚式、本人への挨拶は当然「おめでとうございます」だが、式が終わり、ご両親などへの挨拶として、「本日は誠におめでとうございました」と述べた記憶がある。これは「本日の結婚式が素晴らしかった」ことをすごく強めたい意識で、過去形を使ったような・・・「過去形」にはそのような効果があるような・・・。うーん、個人的な感覚なので、説明が分かりにくく、すみません。

 特に、お礼の「ありがとうございます」は少々面倒なり。例えば、一斉メールなどで、ある情報を受け取った場合、返信メールに「ご連絡ありがとうございます」か、「ありがとうございました」か、どちらを使おうか、と迷いながら・・・、それなりに何気に使い分けているのでは。それはタイミングや人間関係の強弱や個人的な感情などで微妙に変わってくる。その通り。

 確かに、道に迷って、通りすがりの人に親切に教えてもらった場合は、「大変ありがとうございました」と言いたくなる人も多いのでは・・・。それは、もう二度と会わない他人なので、しっかりと、けじめをつけたお礼を述べたい気持ちから、やはり、過去形「ました」にはそんな魔法の力が・・・。

 もちろん、最終的には、各々個人の判断で全く問題ないが、何か文化的な奥深さを感じる。英語の「Thank you」に、past tense の feeling など、これっぼっちもないであろう。

 今までこんなこと考えたこともなかったが、生徒のメールからいろいろ考えさせられ、大いに勉強になり、楽しい年明けに・・・。とっくに明けまして、おめでとうございました!

「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら

矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)    
メール:yano@yanoacademy.ca
ホームページ:https://yanoacademy.ca

<バンクーバー日系人合同教会から2月のお知らせ>

  • バンクーバー日系人合同教会はすべての人に開かれた教会です。キリスト教会が初めてという方も大歓迎です。
  • 毎週日曜日午前11時から12時礼拝を行っています。聖書について話し、讃美歌を歌い、礼拝後は軽食を囲み交流の時を持っています。ワーキングホリデー、留学生の方々の情報共有も行われています。
  • 第2日曜日2月9日午前11時から日英語のバイリンガル礼拝が行われます。
  • オンラインZoomで聖書を読む会(火曜、水曜)があります。聖書を読むのが初めてという方もお気軽に参加できます。
  • ボランティアしてみませんか?
    ダウンタウンイーストサイドのホームレスの方々に配るサンドイッチ作りと配布のお手伝い。木曜日午前9時から教会でサンドイッチとコーヒーの準備、11時から11時半配布のボランティアをしてみませんか?(場所はカーネギーコミュニティーセンタ―横)
  • 教会で行われている会合の紹介
    合気道(火、木曜 午後6時半~)、カトレアコーラス(木曜午前10時~、Zumba(金曜午後5時半~)Line ダンス(土曜午前11時~)、沖縄友愛会(土曜午後7時)バトミントン(日曜午後7時から)、ピックルボール

詳しくはメールで問い合わせください。

  • 結婚、葬儀、その他の人生相談をお伺いします。

お問合せ:604-618-6491(テキスト可)、vjuc4010@gmail.com  牧師 イムまで
住所:4010 Victoria Dr, (Between 23rd and 25th Ave East), Vancouver

  • Zoom(ID 5662538165、パスコード1225)
    ホームページ、Facebook “バンクーバー日系人合同教会”で検索

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サレーNorthwood 合同教会 日本語会衆 クリスマス礼拝

2月16日(日)午後2時より。
住所:8855 156 St, Surrey, BC, V3R 4K9
お問い合わせ:604-618-6491(テキスト可)イム、kuniokazaki98@gmail.com 岡崎まで 

日本語認知症サポート協会「オンライン de Cafe・笑いヨガ」

「笑顔の力」を引き出そう〜「笑いヨガ」で、元気な心と体づくり〜

毎月、「笑いヨガ」を行っています。自宅にいながら参加できる、オンラインでのセッションです。初めての方も大歓迎。楽しく、一緒に笑いましょう!

日時:2025年2月20日(木)午後8時〜午後9時
会場:Zoom

参加費:初回無料、2回目からドネーション(e-Transfer、PayPalまたは小切手にて)
申し込み締め切り:2025年2月18日(火)
申し込みリンク:https://forms.gle/9GjsA57CwoJGeACm6

*お申し込みいただいた方には、追って参加方法をご案内いたします。

お問い合わせ先:orangecafevancouver@gmail.com

主催:日本語認知症サポート協会(Japanese Dementia Support Association) http://www.japanesedementiasupport.com

「日本語認知症サポート協会」ボランティア募集

次の活動のお手伝いをしてくださる方を募集しています。

◆イベント開催時のサポート
◆会計、事務
◆広報、webマーケティング等

認知症のご家族がいらっしゃる方、認知症関連の活動のサポートに興味のある方、当協会にご協力ください。

興味のある方は、下記までご連絡ください。
日本語認知症サポート協会(Japanese Dementia Support Association)
orangecafevancouver@gmail.com
http://www.japanesedementiasupport.com

第20回 エンディング(終活)ノートの再考~Let’s 海外終活~

終活は新しい大人のマナー

叶多範子

新春のお慶びを申し上げます。バンクーバーは寒さの厳しい日が続いていますが、新年の清々しい空気が漂っています。皆様はどのような新年をお迎えでしょうか。この時期、多くの方が新たな目標を立て、心機一転で一年を始められることと思います。

前回のコラムでは「生き様」と「死に様」について触れ、終活が「究極の愛情表現」であるとお伝えしました。この機会に、以前にもご紹介したエンディングノートについて、新たな視点を交えながら、改めてお話させていただきたいと思います。

私がエンディングノートについて繰り返しお伝えするのは、それだけ大切なものだと実感しているからです。弁護士事務所での経験を通じて、準備があるかないかで、残された家族の体験がいかに異なるものになるか、身をもって知っているからこそ、年の始めに、もう一度、エンディングノートの持つ意味を一緒に考えてみませんか。

エンディングノートと聞くと、未だに「まだ早い」「縁起が悪い」と感じる方も多いかもしれません。しかし、このノートは決して「終わり」のためのものではありません。むしろ、あなたの想いを大切な人に届け、そして「未来の自分」を守るための架け橋になるのです。

特に、私たち海外在住者にとって、エンディングノートの重要性は計り知れません。母国の家族との物理的な距離、言語や文化の違い、そして現地の制度への不慣れ―。これらの課題に直面したとき、あなたの想いや希望を明確に記したノートの存在は、大きな助けとなるはずです。

たとえば、もしあなたが認知症になってしまったとき。好きな食べ物、大切にしている習慣、受けたい医療ケアなど、あなたの「とりせつ」(取扱説明書)として、このノートが活きてきます。医療・介護スタッフの方々も、あなたの意向を理解した上で、より適切なケアを提供できるようになります。

また、デジタル時代を生きる私たちには、新たな課題も存在します。スマートフォンやパソコンの中には、大切な写真や連絡先、さまざまなアカウント情報が保管されています。これらへのアクセス方法や希望する取り扱いを記録しておくことも、現代のエンディングノートには欠かせない要素となっています。

エンディングノートは、決して形式的な書類ではありません。むしろ、あなたの人生の物語であり、大切な人への手紙のようなものです。好きな音楽、思い出の場所、伝えたい家族の歴史など。それらを綴ることは、自分自身の人生を振り返る素晴らしい機会にもなります。

書く内容に決まりはありません。

たとえば、

・自分の人生で大切にしてきた価値観
・家族への感謝のメッセージ
・医療や介護に関する希望
・デジタル資産の管理方法
・思い出の写真や品々にまつわる話
・受け継いでほしい家族の伝統や習慣

これらを少しずつ書き記していけばよいのです。完璧を目指す必要はありません。

私の経験から言えば、エンディングノートは「書いてよかった」と感じる人は多くても、「書いて後悔した」という人には出会ったことがありません。それは、このノートが単なる情報の記録ではなく、あなたの想いと愛情が形となって残るからです。

新しい年を迎えるにあたり、「今年こそは」と思っていることの一つに、このエンディングノート作成を加えてみてはいかがでしょうか。それは、未来のあなたと、大切な人たちへの、最高の贈り物となるはずです。

*このコラムは終活に関する一般的な知識や情報提供を目的とするものです。内容の正確さには努めておりますが、必要に応じてご自身で確認、または専門家へご相談ください。このコラムを元にして起きた不利益は免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。

叶多範子(かなだ・のりこ)

グローバルライフデザイナー
2015年、友人の孤独死と相続問題をきっかけに、カナダのバンクーバーで遺言・相続専門の弁護士アシスタントとしてキャリアをスタート。2020年には終活アドバイザー資格を取得し、終活の視点を取り入れた知識と実務経験を活かしたノート術とコンサルティングを提供しています。
「終活せずに困った!」という後悔の声を「やってて良かった」「ありがとう」と笑顔で未来を彩ることをライフワークとしており、これまで300名以上に国境を越えた安心感を届けています。国内外問わず、すべての人が大切な未来をデザインできるようサポートしています。 家族はカナダ人の夫、2人の息子、愛猫1匹。日々の活動や最新情報は、メルマガ、ブログ、SNSで発信中。

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「カナダと日本の“次の100年の架け橋”に」Royal Roads University 日本庭園再新生計画 茶室完成

雪見障子を開けると、色々な角度から庭が眺められるように設計された茶室内
雪見障子を開けると、色々な角度から庭が眺められるように設計された茶室内

ビクトリアのRoyal Roads University(住所:2005 Sooke Road, Victoria, BC)にて、100年以上の歴史を持つ日本庭園の再生プロジェクトが進行中です。このプロジェクトの一環として、本格的な茶室が2024年8月末に完成しました。

外側から眺めた茶室
外側から眺めた茶室

この茶室は、地元のダグラスファー(米松)を使用し、手作業で丁寧に建築されました。

工房にて、一つ一つ手加工している小川隼人氏
工房にて、一つ一つ手加工している小川隼人氏

設計と建築は、Ogawa Landscape Designの小川隼人氏が手掛け、持続可能な素材を活用しています。茶室は日本庭園の南西の隅に位置し、周囲の自然美と調和するようデザインされています。

雪見障子を開けると、色々な角度から庭が眺められるように設計された茶室内
雪見障子を開けると、色々な角度から庭が眺められるように設計された茶室内

プレオープン時には、Royal Roads Universityの学長やビクトリア駐在日本国名誉総領事、地元自治体の市長、考古学者などが出席し、ビクトリア裏千家淡交会のメンバーが主催する茶会が行われました。ゲストたちは、茶室内で和菓子と抹茶を楽しみました。

2023年8月28日に茶室完成セレモニーにてスピーチを行っている小川隼人氏
2024年8月28日に茶室完成セレモニーにてスピーチを行っている小川隼人氏
ビクトリア裏千家淡交会の池田彩子氏がお茶を点てる風景
ビクトリア裏千家淡交会の池田彩子氏がお茶を点てる風景
季節の花、山茶花をモチーフに荻島美佐恵氏による手製の主菓子
季節の花、山茶花をモチーフに荻島美佐恵氏による手製の主菓子

この八畳の茶室は、どの位置からも庭を眺められる設計となっており、雪見障子や襖を閉じることで外部から遮断された静寂な空間を演出します。内部には無節のダグラスファーや檜、掛川和紙、京畳、聚楽塗りの壁など、高品質な素材が使用されています。また、カナダの建築基準に準拠したバリアフリー設計で、茶道だけでなく、華道、香道、書道など多目的に利用可能です。

茶室周りは板張りの廊下となっており、車椅子の方もお茶を楽しめる設計となっている。
茶室周りは板張りの廊下となっており、車椅子の方もお茶を楽しめる設計となっている。

将来的には、四畳半の小間と屋根付きの渡り廊下で接続し、北米でも類を見ない規模の本格的な茶室を計画しています。さらに、茶庭、メインゲート、神輿舎、花見ガーデン、盆栽園、菖蒲園、既存の滝や小川の補修、禅ガーデンとしてのリニューアルなど、多彩なプロジェクトが進行中です。これらが完成すれば、ビクトリアやバンクーバーの新たな名所となることでしょう。

小川氏は、「この場所は単なる建物ではなく、自然と共存する場であってほしい」と述べ、茶室を通じて多くの人々が自然の美しさや季節の移ろいを感じ、新たな出会いを育むことを願っています。訪問者は、茶室に入る前に茶庭で心を清め、特別な空間で一服を楽しむことができます。

このプロジェクトは、Royal Roads Universityの「A Vision in Bloom」キャンペーンの一環として進められており、地域社会や寄付者の支援を受けております。茶室の完成により、学生や地域住民が日本文化を体験し、学ぶ機会が提供されることが期待されています。

メインゲート完成イメージ
メインゲート完成イメージ
メインゲートをくぐると、春には家族や友達と花見を楽しめる桜花見ガーデンの完成イメージ
メインゲートをくぐると、春には家族や友達と花見を楽しめる桜花見ガーデンの完成イメージ
カナダ人ご夫婦から200鉢ご寄付頂いた盆栽のお披露目スペースとして盆栽ガーデン完成イメージ
カナダ人ご夫婦から200鉢ご寄付頂いた盆栽のお披露目スペースとして盆栽ガーデン完成イメージ
禅ガーデンの完成イメージ
禅ガーデンの完成イメージ

(寄稿 渡辺久美奈)

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