ホーム 著者 からの投稿 Naomi Mishima

Naomi Mishima

Naomi Mishima
1532 投稿 0 コメント

「学校の垣根を越え、日本語のアウトプットの場として」JALTA第24回お話発表会が開催される

発表会終了後、全員で記念撮影。Photo by Japan Canada Today
発表会終了後、全員で記念撮影。Photo by Japan Canada Today

 JALTA日本語教育振興会による第24回お話発表会が2月11日、バンクーバー日本語学校並びに日系人会館ホールで行われた。

 「この発表会は、学校の垣根を越え、生徒たちが日本語を学ぶ仲間として、ともにアウトプットを行う場です」とJALTA会長ベイリー智子さん。そのため、順位もつけないし、生徒たちの所属する学校も明記しないという。

あいさつする在バンクーバー日本国総領事館・丸山浩平総領事。Photo by Japan Canada Today
あいさつする在バンクーバー日本国総領事館・丸山浩平総領事。Photo by Japan Canada Today

 在バンクーバー日本国総領事館・丸山浩平総領事は、「皆さんは今日のために、本当にたくさん準備や練習をしてきたと思います。すばらしいと思います。今日は落ち着いて、立派な発表をなさってください」と、あいさつで生徒たちに語りかけた。

 発表は、小学科、基礎科、中高等科のカテゴリーに分かれて行われた。

 小学科でペットをテーマに話したのは、アトキンソン萌葦さんとスコットモンクリーフ敬美さん。それぞれ、飼っている犬、猫について、ペットの可愛らしさ、飼うことの大変さなどをいきいきと話した。

猫のベイリーについて話したスコットモンクリーフ敬美さん。Photo by Japan Canada Today
猫のベイリーについて話したスコットモンクリーフ敬美さん。Photo by Japan Canada Today

 家族のふるさとである海辺の村について話したのは小川真理枝さん。浜辺で見つけた貝や石、ガラスなどの描写に繊細な感性を見せた。

 生まれつき難聴である有賀夏織さんは、「音のない世界と、ある世界を行き来できる」ため、たくさんの友達を得たことなどポジティブな面をユーモアを交えて語り、世界にひとつだけの自分の耳を誇りに思っているという言葉で締めくくった。

 基礎科では日本や日本語をテーマにした発表が目立った。メーガン・ハインズさんは、アニメや漫画が好きで日本語を学んでいると言い、いつか家族で日本に行き、家族のために通訳をしたいという夢を披露した。

ピアノへの情熱を話すシェン・ブランドンさん。Photo by Japan Canada Today
ピアノへの情熱を話すシェン・ブランドンさん。Photo by Japan Canada Today

 「ピアノに触れた瞬間、僕は絶対に弾けるようになりたいと思いました」という出だしが印象的だったのはシェン・ブランドンさん。ピアノから学んだことや両親のサポートについて、なめらかな日本語で話した。

 中高等科の発表は、内容のレベルの高さはもちろん、話し方も落ち着いて堂々としたもの。斉藤慎さんのテーマは「私と演劇」。演劇部の活動について、「演技で大切なのは恥を捨てること」と会場の笑いを誘いつつ、その楽しさや、やりがいについて語った。

 昨年、今年と出席した丸山総領事は「子どもたちが普段の生活や取り組んでいることについて日本語で一生懸命話す、そのひたむきな姿に心を打たれました。私たちの仕事にも非常に重要な『言葉』、その大切さに思いを馳せる貴重な機会になったと思います」と述べた。

 閉会に際してベイリー会長は、「きれいな花を支えるのは根。皆さんも日本語学校で少しずつがんばって花を支える丈夫な根っこを広げてください」とあいさつした。

 日加トゥデイのインタビューには「このお話発表会では、生徒たちに普段の授業とは違うかたちで日本語を学んでもらいたいと思っています。開催にあたっては各学校の先生はボランティアで準備にも時間がかかるのですが、その甲斐あって今年も個性あふれる発表を見ることができました」と笑顔で話した。

参加生徒と「お話」タイトル

小学科

  • 「わたしのペット」アトキンソン萌葦(Mei Atkinson)
  • 「大好きな妹たち」五来穂香(Honoka Gorai)
  • 「ぼくのゆめ」グリーンフィールド・アストン(Aston Greenfield)
  • 「ぼくのすきなスポーツ」高橋春樹(Haruki Takahashi)
  • 「わたしのねこ」スコットモンクリーフ敬美(Kiyomi Scott-Moncrieff)
  • 「サッカー」山田真(Ataru Yamada)
  • 「日本の海辺で」小川真理枝(Marie Ogawa)
  • 「私と耳」有賀夏織(Kaori Ariga)
  • 「平和な日本」森永和馬(Kazuma Morinaga)

基礎科

  • 「日本旅行」ブラックモア・ヘンリー(Henry Blackmore)
  • 「日本語との出会い」グエン・マーカス(Marcus Nguyen)
  • 「きょうえいについて」藤本エミリー梅子(Emily Umeko Fujimoto)
  • 「きょねんのなつ」ヒックス義文(Yoshifumi Hicks)
  • 「ピアノ」シェン・ブランドン(Brandon Shen)
  • 「日本語の勉強」チュン・エルフィー(Alfie Chun)
  • 「私が日本語を勉強する理由」メーガン・ハインズ(Meaghan Hines)

中高等科

  • 「おせちのひみつ」星聖楽(Kiyora Hoshi)
  • 「私と演劇」斉藤慎(Makoto Saito)
発表の後に行われた、劇団「座・だいこん」の舞台。演目「かんがえること」は、詩人、工藤直子さんの作品から。Photo by Japan Canada Today
発表の後に行われた、劇団「座・だいこん」の舞台。演目「かんがえること」は、詩人、工藤直子さんの作品から。Photo by Japan Canada Today

(取材 宗圓由佳)

合わせて読みたい関連記事

2024年度 企友会年次総会・懇親会開催

参加者のみなさま(Zoomにて)。写真:企友会
参加者のみなさま(Zoomにて)。写真:企友会

企友会(バンクーバー日系ビジネス協会)の年次総会並びに懇親会が、2024年1月31日にオンラインにて開催されました。

定足数に達する会員参加のもと、2023年度の議事録並びに会計報告の承認、活動報告が行われ、そして2024年度の理事の選出が行われました。13名の方が立候補をされ、承認をされました。今期の新執行部は以下の体制となります。

会長:白石 有紀
副会長:マトソン 悠治
事務局:澤田 泰代
会計:高岡 利和

その後、白石新会長より今年の活動骨子が発表されました。

第二部はホール奈穂子前企友会副会長の司会による懇親会。先ずは、新しく理事になられた5名の方より自己紹介と抱負が語られ、また他の参加者の方からも色々なコメントを頂きました。

公益法人として登録されてから、今年で31年目を迎える企友会、新しいリーダーシップと新体制のもと、更にBC州の日系事業家、起業を目指す人、そしてBC州で働くすべての人を応援するべく活動してまいりますので、応援よろしくお願いいたします!

参加者のみなさま(Zoomにて)。写真:企友会
参加者のみなさま(Zoomにて)。写真:企友会

寄稿:企友会

「ジェームス・エーネス」音楽の楽園〜もう一つのカナダ 第20回

はじめに

 日加関係を応援頂いている皆さま、音楽ファンの皆さま、こんにちは。

 私にとって2回目のオタワの冬も2月も半ばです。そろそろ終盤に近づきつつある中で、地球温暖化を実感する日々でもあります。リドー運河の天然スケート・リンクが昨年は史上初めてオープン出来なかった訳ですが、今年は、限定的とは言え、オープンしました。が、気温のマイルドな日が続き、氷の厚さが足りず、今は閉鎖されています。オタワの冬の風物詩が体感出来ないのは残念です。

 しかし、音楽に関しては、2024年のオタワは、素晴らしい幕開けを迎えました。国立芸術劇場の今年最初のコンサートが1月10日に開催されたのですが、素晴らしいプログラムでした。現在、世界最高峰のヴァイオリニストと目されているジェームス・エーネスが登場したのです。英デイリー・テレグラフ紙によれば「地球上に僅かに存在する完璧なヴァイオリニストの1人」という事になります。という訳で、今回は、カナダが誇るジェームス・エーネスです。

神童現る

 ジェームス・エーネスは、1976年1月27日、マニトバ州ブランドンに生まれます。父アランはトランペット奏者にして地元のブランドン大学音楽学部トランペット科教授、母バーバラはバレリーナという家系です。音楽に溢れる家庭環境で、3歳児のジェームス君は、何故かヴァイオリンに強烈な関心を示し、ヴァイオリンを両親にねだったと云います。芸術家のDNAの成せる業でしょうか。1979年のクリスマス、両親は4分の1のサイズのヴァイオリンをプレゼントとします。

 そして、ジェームス君が5歳になると父からヴァイオリンを正式に習い始めます。圧倒的な才能が顕になるのに時間は要りませんでした。地元の音楽イベントの常連になります。9歳になると、もう父が教えられる事は尽きました。

チャップリンとの出会い

 幸運なことに、父の職場ブランドン大学の同僚にカナダの至宝とも言われたヴァイオリニスト兼ヴァイオリン教師、フランシス・チャップリンがいました。ジェームス君はチャップリンに師事することになります。ここから華麗なるキャリアへの本格的助走が始まります。

 1986年、10歳にして、地元で本格的リサイタルを開きます。

 1987年、11歳の時に、若手演奏家の登竜門として1958年に始まったカナダで最も権威のある音楽コンクールであるThe Canadian Music Competitionの弦楽部門で優勝。

 1988年、12歳で、モントリオール交響楽団主催のコンテストで優勝。翌89年には、13歳にして、シャルル・デュトワ率いるモントリオール交響楽団と共演。これがオーケストラ・デビューでした。才能の原石は磨かれる運命にあります。いよいよカナダの重力圏を超えます。

 ジェームス少年は、チャップリンの強力な推薦もあって真に優れた若き演奏者だけに許される「メドウモント音楽院」に入ります。この音楽院は、イツァーク・パールマンを育てたことで知られるヴァイオリン教師ガラミアンが1944年ニューヨーク州北東部のウェストポートに開きました。夏期7週間だけの非常に密度の濃い弦楽器のためのプログラムです。広大なキャンパスには、食堂、ラウンジ、パフォーマンス・スペース、練習スタジオ、コンサート・ホール、更に、テニス、バスケ等のレクリエーション設備も完備。音楽漬けの7週間を過ごします。生徒は、1日5時間の個人練習に加え、スタジオでの授業、個人指導、更にゲスト講師として招かれた名だたる名演奏家による特別ワークショップがあります。ヨガも取り入れられています。週に3回は、教授、ゲスト講師、生徒が参加するコンサートが開催されます。将来のトップ・プロの養成機関です。ヨーヨー・マ、リン・ハレル、ピンカス・ズッカーマン、チョン・キョンファ等々現在も活躍する錚々たる演奏家を輩出しています。13歳のジェームス少年がその入り口に立った訳です。89年から92年まで、夏になるとメドウモントで学びました。

ジュリアード

 そして、1993年17歳になったジェームス青年は、ジュリアード音楽院に入学。いよいよ、世界の舞台の中心の近傍に来ました。ここで、ジェームス青年の未来を決定づける出来事があります。カナダ楽壇の重鎮ウォルター・ホーンバーガーとの出会いです。

 ホーンバーガーは、グレン・グールドを発掘しマネージャーも務めたことで知られるプロデューサー兼スカウトにして興行主。トロント交響楽団のマネージング・ディレクターを長年務め、その手腕でトロント響の地位を大きく向上させました。トロント大学にホーンバーガー講座を開設する等の後進の指導に熱心で、日本の民音が主催する東京国際指揮者コンクールの審査員も務めています。カナダ楽壇の発展に大きな足跡を残し、1987年、63歳に引退します。

 そのホーンバーガー御大が、1993年、69歳にして悠々自適の生活を切り上げて、17歳のジェームス青年のマネージャーに就任するのです。ここから、ヴァイオリニスト、ジェームス・エーネスの活動が本格化します。ジュリアードで学びつつ、ホーンバーガーの采配で、北米、欧州、そしてアジアの有名オーケストラとの共演を重ねて行きます。

 1995年、未だジュリアード在学中の19歳にして、テラーク・レコードと契約を結びます。デビュー盤は「ニコラ・パガニーニ、24のカプリース」です。超絶技巧を要求される難曲中の難曲。この選択に、エーネスの自信と野心が伺えます。眼光鋭いジャケット写真も印象的です。但し、この段階では、未だ一般的知名度は低く、関係者の間で、あのホーンバーガーがマネージャーを務める期待の大型新人という程度でした。元々、クラシック音楽のレコードCD市場は大きい訳ではなく、商業的には一敗地に塗れました。その後は、録音の機会は与えられませんでした。音楽業界の厳しい現実を垣間見た訳です。しかし、今や、このデビュー盤は相当な貴重品で、中古盤1枚500ドル超のプレミアが付いています。

世界の檜舞台へ

 エーネスは、ジュリアード在学中から、ホーンバーガーのバックアップで北米を中心に世界各国の名だたるオーケストラで客演を重ねていきます。学業との両立は決して容易ではなかったでしょうが、経験こそは何ものにも代え難い生きた教育でした。

 1997年、極めて優秀な成績で、ペータ・メニン賞を受けて、ジュリアードを卒業しました。いよいよ、生き馬の目を抜く厳しい競争と政治的駆け引きとも無縁ではいられない、世界のクラシック音楽業界へと参入するのです。

 順風満帆に見えるエーネスにとっても一つ悩みがあったと云います。それは、ヴァイオリニストにとっての生命線。己の技量をも左右する優れたヴァイオリンを如何に確保するかということです。演奏会であれ、レコーディングであれ、美しき音色は絶対条件です。最高峰は、17〜18世紀に製作されたストラディバリウスです。超一流の奏者は、有力な支援者・団体から貸与され、専属的に使用します。エーネスの場合は、カナダの芸術協会のサポートで、1717年製のウィンザー・ウェインスタイン・ストラディヴァリを使用することが出来るようになりました。

 ここからは、現代のクラシック音楽界の歴史そのものと言えるでしょう。「百年に一人のヴァルチオーゾ」と称されるジェームス・エーネスの誕生です。

 レコーディングに関しては、デビュー盤の不調で、4年間は新規録音はありませんでした。契約上の問題を整理する必要もあったのかもしれませんが、力を貯める良い機会にもなったに違いありません。2000年以降は、CBC、Analekta、Chandon等のレーベルから、精力的にCDを発表しています。年平均2枚余のペースです。如何なる分野の芸術でも、超多作は天才の証です。今や、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンからパガニーニ、ラヴェル、ドビュッシー、ストラヴィンスキー、バルトーク、更にはフィリップ・グラスまで、協奏曲、ソナタ、無伴奏ソナタ等々がヴァイオリンの主要レパートリーを網羅する膨大なディスコグラフィーを誇ります。

 最新盤は、2024年2月9日にリリースされたばかりの「我らの時代の真実(Truth in Our Time)」です。アレクサンダー・シェリー率いるカナダ国立芸術劇場管弦楽団との抜群の相性です。

音は人なり

 ヴァイオリンという楽器は、演奏者の人格識見が音に直裁に反映します。左手の指が押さえるポイントが0.5ミリ違えば音程がズレてしまいます。指の力加減がヴィヴラートの質を決めます。右手の弓を弾くスピードと圧力が音色を決めます。同じ楽器でも弾く人が違えば、全く異なる音が生まれます。ピアノならば、誰が鍵盤を押さえても同じ音程で基本的に同じ音が出ます。勿論、曲を奏でる場合は演奏者の違いが出ます。が、一つ一つの音は既に準備されています。ヴァイオリンは、一つ一つの音をつくるところから始まります。それ故に、ヴァイオリンの音にその人間のほぼ全てが滲むのです。

 もう随分前の事ですが、某テレビ局の有名アナウンサーと懇談の機会を得ました。その方はアナウンス室長を務められていて、後進の指導に当たっておられました。モットーは「声は人なり」。視聴者の方々にニュースを正確に客観的に届けるために、声を鍛え、発音を磨くのだと。謙虚に努力した声には誠意が宿り、視聴者の信頼を得るのだ、と力説されていたのを思い出します。一見華やかな世界の土台に地道な準備があると学びました。

 ヴァイオリンも本質は同じです。外からみれば、才能だ偉才だ天才だと言って片付けてしまいそうですが、そんな簡単な訳がありません。世界最高水準で演奏し続けるための鍛錬とコミットメントは人格そのもののです。故に、音は人なりです。心の乱れは音の乱れです。演奏と人格の境界線は、五木寛之の傑作「海を見ていたジョニー」にも通じる深淵なテーマです。

 2017年発表のCD2枚組「モーツァルト・ヴァイオリン協奏曲全集」を聴いた時の事です。エーネスのヴァイオリンが純朴で善意の塊のような音色だと感じました。モーツァルトの父レオポルドは成功したヴァイオリン教師でしたから、幼いモーツァルトは英才教育で徹底的にヴァイオリンを仕込まれました。モーツァルトにとってヴァイオリン協奏曲は、彼の人格の一部でもあります。その協奏曲を3歳児の頃からヴァイオリンを弾いて来たエーネスが奏でるのです。時代を超えた共感と絆があるに違いありません。小手先ではなく、エーネスの全人格が反映しているのです。

結語

 2024年1月の国立芸術劇場(National Art Centre)での公演プログラムは、エーネスとNAC管弦楽団による4曲のバッハのヴァイオリン協奏曲集です。エーネス自身が指揮して独奏する「イ短調」と「ト短調」。そして「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043」では、 ジュリアードの同級生であるNACのコンサートマスター川崎洋介と共演。更に、「3つのヴァイオリンのための協奏曲ニ長調BWV1064R」では、右の2人に川崎夫人でもあるジェシカ・リンバックが加わりました。音楽の本質は、音学ではなく、音を楽しむことにある、と心底得心させる素晴らしい演奏会でした。そして、この日の演奏は全て録音されていて、2024年9月にはCDリリースされる予定です。また一つ、名盤がエーネスのディスコグラフィーに加わる訳です。

 最後に全くの私事ですが、演奏会の後、幸運にも楽屋で御挨拶をさせて頂く機会を得ました。巨匠ぶったところは全くなく、お茶目で本当にフレンドリーな人柄に魅了されました。NHK交響楽団との共演が感慨深いとも語ってくれました。最後に「アリガトウ」と笑顔で言ってくれました。

 カナダが生んだ現代の巨匠ジェームス・エーネスは47歳になったばかりです。この先、どれだけの傑作を残すのか超楽しみです。既にクラシック音楽の名演奏家列伝に入っているエーネスが如何なる物語を加えるのでしょうか。時代に彼を聴ける喜びを噛み締めたいと思います。

(了)

山野内勘二・在カナダ日本国大使館特命全権大使が届ける、カナダ音楽の連載コラム「音楽の楽園~もう一つのカナダ」は、第1回から以下よりご覧いただけます。

音楽の楽園~もう一つのカナダ

山野内勘二(やまのうち・かんじ)
2022年5月より第31代在カナダ日本国大使館特命全権大使
1984年外務省入省、総理大臣秘書官、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、外務省経済局長、在ニューヨーク日本国総領事館総領事・大使などを歴任。1958年4月8日生まれ、長崎県出身

第23回 「肉体の死と存在の死と生」

 今日もまた朝5時に息子の愛犬「ジュナ」に起こされ、温めたエサを上げ、庭へトイレに出し、そっと身体を拭いて中に入れ、私はゆっくりコーヒーを飲みながらPCに向かう。
 毎週、彼女の為に「アニマル ドクター」助言の野菜入り餌を作り、それを1日2回食べさせる。彼女も私と同じ老齢でよたよた歩くし、遠くへ散歩はもうできない。もそもそ動く犬と私、互いに「老齢の犬と人」労わり合いながら生きている。

 今朝、PC開けて、最初に目に留まったのがチロチャンからのメイルだった。
Date: 2024/02/04 日 21:50
Subject: 母の容態

ポテおばさん
こんにちは。
今日の東京は(関東地方全体)大雪の予報がでており、 会社のデスク下でヒーターを入れているのですが底冷えがします。
土曜日に母に面会してきました。 もうほとんど声が出ず、コミュニケーションはYESとNOを苦しげに、 まばたきでするような状態です。
あるいはホワイトボードに文字で書いて用件を伝えると、 弱々しい手つきで、力なく文字で受け答えをしていました。
そのような中、今週、父が緩和ケア施設に転院する旨を伝えると、 私も一緒に行きたい、パパに会いたい、と言うので、 また私の涙が止まらなくなってしまいました。 一日も早く二人が会えるように、施設に空き状況を確認したのですが、 現在は満室とのことで、母はいつ入れるか分かりません。 最後に二人を、何としても会わせて上げたいです。
チロより

チロちゃん
 
返信遅れごめんなさい。さっきテレビで日本のニュ―ス見ました。2月5日、関東地方は雪で10-15センチ積もると言っていました。
 ここバンクーバーの我が家床暖房ですから家の中暖かです。でも、外は寒いですね。昨日は、マイケルが腎臓結石で緊急病院へ行き11時間くらいの入院で戻って来ました。
 彼は家で今薬を飲み落ち着いています。かなり痛かったようで可哀そうでした。でも、大丈夫でしょう。
 彼はチロチャンが12歳でモントリオールへ1年留学に来て我が家に滞在、その後バンクーバーへ転校しましたね。彼は其の後、モントリオールで生まれた息子です。

 優しいチロちゃんのメイル、貴方やご両親「クーニャンとイーちゃん」との忘れられない懐かしい昔、全て思い出しながら涙で読みました。
 そうですね。「クーニャン」が夫「イーちゃん」のそばに行きたい気持ちわかります。一緒にさせて上げたい、仲良し夫婦ですものね。
 そして、何だか今、次々色々思い出しながら人間の「肉体の死と存在の死と生」も考えています。するとチロちゃん、貴方ご自身と私達家族もつながって、結局、全て…私達の素敵な出会いが良い思い出となり、「存在」が語り継がれる間、その人は死なないのですよ。「その人の存在」は「笑顔」一つ「人に与えたもの」に全てが残る。ねぇ、…そうだとすると、チロチャン、私達の出会い、皆「素敵な人生」の一部だったと言えるでしょう?
 そう、「幸せな私達」が此処にいると思いましょう。数えきれない思い出をこれからしばらくエッセイに書いて行こうと思います。
 「クーニャンとイーちゃん」は何時も私の思い出に生きています。
澄子

セレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。

許 澄子
2016年からバンクーバー新報紙でコラム「老婆のひとりごと」を執筆。2020年7月から2022年12月まで、当サイトで「グランマのひとりごと」として、コラムを継続。2023年1月より「『セレンディピティ』幸運をつかむ」を執筆中。
「『セレンディピティ』幸運をつかむ」はこちらから全てご覧いただけます。

日本LCC初のバンクーバー就航「ZIPAIR Tokyo」マーケティングマネージャー森本マーク氏インタビュー

ZIPAIR機。写真:ZIPAIR Tokyo
ZIPAIR機。写真:ZIPAIR Tokyo

 カナダと日本をつなぐ新たな航空会社として「ZIPAIR Tokyo」が今年3月バンクーバー・成田線を就航する。日本の国際線中長距離LCC(格安航空会社・Low Cost Carrier)として初めてカナダに乗り入れる。

 今回は3月13日の初フライトを1カ月後に控え、ZIPAIR Tokyoマーケティングマネージャー森本マーク氏にオンラインで話を聞いた。

期待の日本初LCCバンクーバー線

 バンクーバーと日本を結ぶ空路は意外と多い。成田に日本航空、エアカナダが、羽田に全日空が毎日1便、さらに関西空港へもエアカナダが5月から運航する。そこに新たに加わるのがZIPAIR Tokyo。初のLCCだ。新型コロナウイルス規制が撤廃される前からカナダ・日本間の運賃は燃油サーチャージなどもあり新型コロナ前と比べ驚くほど値上がりしている。

 そんな中で発表されたZIPAIR就航。2023年12月27日の公式発表によれば、スタンダードバリューは片道300ドル~(28,950円から~)。そのためバンクーバーでも期待は大きく、森本氏によると12月のチケット販売開始からすでに3月、4月はほぼ満席状況という。

 会社は2018年7月31日に日本航空100%出資で準備会社としてティー・ビー・エルが設立され、2019年3月8日にZIPAIR Tokyoとなった。成田空港を拠点とする国際線中長距離に特化したLCCだ。現在はアジアに4路線、北米にはハワイと、西海岸にサンフランシスコ、サンノゼ、ロサンゼルスの3路線、バンクーバーは北米西海岸4路線目となる。

 ZIPAIRを設立するにあたり森本氏は、これまで難しいとされてきた中長距離路線でのLCC就航について「しっかりと利益が取れるビジネスモデルを一から作り上げて、日本から東南アジア、北米へ、格安で運航できるエアラインを立ち上げることにしました」と説明した。「色々と模索し、前例にない低価格でクオリティの高いエアラインとして誕生したのがZIPAIRです。リーズナブルな料金で中長距離を飛べる新しい付加価値を提供しつつ、これまでになかった新しい常識を作っていくエアラインを目指しています」

 バンクーバー・成田路線ではすでに親会社の日本航空も毎日1便運航しているが、そんな中で開設を決めたのは「需要が高いと見込んでいるから」と説明する。アメリカ西海岸3路線をここまで見てきて「今まで日本やアジアに行きたいと思っても運賃が高くて諦めていた新しいマーケット層を開拓できると確信しています」。ZIPAIR利用者の約70%はZ世代と言われる20代から30代と言う。さらに「バンクーバーは(新型)コロナ前から日本との往来が活発でアジアゲートウェイ的な役割も持っている都市だと認識しています。フルサービスエアラインを利用しない層の需要があるとの見込みから、9路線目としてバンクーバーを選びました」。

航空運賃のカスタマイゼーション

 フルサービスエアラインには、ビジネス・エコノミークラスというサービスが異なるクラス分けが存在する。しかし「ZIPAIRの大きな特徴は全てモノクラスということなんです」と話す。「全290席、サービス内容は同じです」。ただビジネスクラス同様の座席としてジップフルフラット席を提供している。「これは(1機に)18席しかなく、とても人気がある座席です」

 他にも特徴的なのは、一律のエンターテイメントや機内食サービスがないこと。「ZIPAIRの座席には個人モニターがありません。その代わりにタブレットやスマートフォンを目の前に置くことができる座席設定がされていて長時間のフライトでも自分の端末で動画を楽しむことができます。ただ、事前に端末にダウンロードしておくことをお勧めしています」

 食事は事前予約のみ、ただ軽食やドリンクは機内でインターネット(Wi-Fi)サービスに接続して自身のスマートフォンで注文することができる。機内インターネットサービスは無料。「現時点では動画ストリーミングは難しいですが、メールの送受信やSNSの閲覧投稿などは快適に行えるほどの通信速度は確保しています」

 つまりチケット購入時は座席料金のみを購入し、サービスについては自分が必要なサービスを必要な分だけ追加する、「航空運賃のパーソナライゼーション・カスタマイゼーション」ができるというわけだ。

「大きなポイントは納得感」

 長距離路線ではZIPAIRだけが行っているサービスもあるという。それは受託手荷物で、有料だが荷物1個につき重さ上限は30キログラム。「去年の10月にルールを改定して1個30キロに設定することになりました。バンクーバー線は1個につき7,000円に設定しています」。1人5個まで同じ料金で預けられる。

 さらに料金で特徴的なのは子供料金。6歳未満なら夏休みや年末年始も含め定額設定となっている。北米路線はバンクーバーも含め片道1万円(104カナダドル)。「ファミリーにとっては優しい運賃体系となっています」

 安さが強調されるLCCだが機材は日本航空なども使用しているボーイング787-8型機を使用。決して小さい機材を使っているわけではないと語る。

 「ZIPAIRの大きなポイントは納得感ですね。ただ安い運賃を提供するだけでなく、その金額に見合ったサービスをきっちりと提供することです」と森本氏は語る。

 気になる成田から、バンクーバーからの国内線乗り継ぎについては、「他社とのコードシェアについてはありません」ということで国内乗り継ぎサービスはないとのこと。国際線はZIPAIRのアジア線に成田経由で同日乗り換えできる路線があるということだった。

「皆様と一緒に成長できるエアラインを目指したい」

 現在は10月までのスケジュールしか販売していないが夏季限定就航ではなく通年で運航するとのこと。

 森本氏は「ZIPAIRはフライト時間を好きなように使えますので、ぜひ効率よくご利用いただければと思います。皆様と一緒に成長し続けるエアラインを目指したいと思いますので、ぜひ機会がありましたらZIPAIRにご搭乗いただき、良かったことも、そうでないことも、教えていただければ大変ありがたく思います。皆様のご搭乗を心よりお待ちしております」とメッセージを送った。

ZIPAIR Tokyo
2024年3月13日からバンクーバー・成田線を就航
運航日は、バンクーバー発、成田発ともに、月・水・土
運航時間や料金など詳しくはこちら:https://www.zipair.net/ja/notification/208
ZIPAIRホームページ:https://www.zipair.net/ja

(取材 三島直美)

合わせて読みたい関連記事

【能登半島地震】バンクーバーで支援活動の輪

 能登半島に甚大な被害をもたらした1月1日に起きた大地震。バンクーバーでも心配の声が上がる中、支援の輪が広がっている。

 2月に開催される能登半島地震被災者支援のための募金活動や、バンクーバーからの義援金の送付方法をまとめた。

バンクーバーでの募金イベント

裏千家淡交会バンクーバー協会主催
「能登半島地震支援茶会」

裏千家淡交会バンクーバー協会がコッキトラム市の東漸寺で茶会を開催。

日時:2月11日(日)
場所:東漸寺(209 Jackson St. Coquitlam, BC, V3K 4C1)
席入り:11:00、12:00、13:00、14:00、15:00
参加費:$30.00 プラス寄付金
*予約はE-TransferでYoshino Nomuraさん(yoshinomura0330@gmail.com)まで。その際にComment欄に希望する時間と参加者の電話番号を記入してくださいとのこと。
詳しくはこちらのページを参照。
【能登半島地震支援茶会】裏千家淡交会バンクーバー協会主催

「Noto Night」@日系センター
2024年能登半島地震被災者支援のためのチャリティイベント開催

 メトロバンクーバー在住の有志による日系文化センター・博物館で開催されるイベント。当日は、太鼓、フラダンス、K POPダンス、コーラス、カラオケ、よさこいなど幅広いジャンルから楽しい催しも。現在、「コミュニティのいろいろなグループや個人からイベントの情報を拡散していただいている『サポーター』を募集中」とのこと。
 主催はBC-Japan Friendship Facebook Group。

開催日:2024年2月17日(土)
時間:午後7時~9時(開場:午後6時)
場所:日系文化センター・博物館(6688 Southoaks Cres. Burnaby)
入場料:寄付
問い合わせ先:bc.japan.friendship@gmail.com

詳しくはこちらを参照。
2024年能登半島地震被災者支援のためのチャリティイベント開催「Noto Night」@日系センター

在バンクーバー日本国総領事館
「能登半島地震災害義援金について」

 在バンクーバー日本国総領事館でも、能登半島地震災害の義援金を受け付けている。総領事館の銀行口座に送金するか、小切手を総領事館に送るもしくは持参する方法がある。

 総領事館によると、「当館経由で日本赤十字社に送金された寄附金は、日本赤十字社の活動に充てられる『救援金』ではなく、全て『義援金』として被災者の方々に届けられます」とのこと。

 詳しくは総領事館ウェブサイトを参照。
https://www.vancouver.ca.emb-japan.go.jp/itpr_ja/noto_earthquake_relief_2024.html

2024年度建友会新年会開催

写真:建友会
写真:建友会

建友会の新年会が2024年1月26日(金曜日)イーストバンクーバーのバンクーバー日系ガーデナーズ協会の事務所をお借りして開催されました。

毎年恒例の新年会に、今年は合計で30名以上が参加しました。建友会会員に加え、総領事館、ガーデナーズ協会、懇話会、企友会、女性企業家協会、日加商工会、日本酒協会からもご来賓として多数にご出席いただきました。

まずは松原会長の新年の挨拶からはじまり、続いて在バンクーバー日本国総領事館の久田領事から祝辞を頂戴しました。

次にBC州日本酒協会代表であり建友会会員でもある小西氏から、日本酒について講演をいただきました。純米酒や純米大吟醸酒など名称の違い、製法の違い、味わい方、世界の他のアルコールドリンクとの違いなどについて教わりました。

そして乾杯につづき、会食をしながらテーブルごとに近況報告、情報交換をしました。日本で元日にあった能登半島地震や、羽田空港滑走路での飛行機事故、またカナダの住宅不足対策としての留学生ビザの発給数制限など、時事についても意見交換がありました。

後半は穴澤元副会長(今年度より役員に返り咲き)の取り仕切りで、恒例のクイズ大会をしました。高得点のテーブルから先に、出席者が持ち寄ったドネーションを賞品として選べるため、建設に関連するクイズの答えを皆さん真剣に考えていました。

そして最後にパーマー副会長の閉会の挨拶で約2時間の新年会が締めくくられました。

建友会は2024年も毎年恒例の社会貢献活動や勉強会、ワークショップを企画運営していきます。イベントの告知、会員の情報につきましては建友会のホームページ、フェイスブックをご確認ください。今年もよろしくお願いいたします。

建友会ホームページ:https://kenyukai.ca/

写真:建友会
写真:建友会
写真:建友会
写真:建友会
写真:建友会
写真:建友会
写真:建友会
写真:建友会
写真:建友会
写真:建友会

(寄稿 建友会)

合わせて読みたい関連記事

最後まで目が離せない学校映画 “THE TEACHERS’ LOUNGE”

Leonie Benesch in THE TEACHERS' LOUNGE, Courtesy of Sony Pictures Classics
Leonie Benesch in THE TEACHERS' LOUNGE, Courtesy of Sony Pictures Classics

 ベルリン国際映画祭などドイツで数々の賞に輝き、アカデミー賞の国際映画長編部門へ送られ、釜山、トロント、バンクーバーなど世界の国際映画祭に招待された作品がバンクーバーへやってくる。

 Carla Nowak(LEONIE BENESCH)は、中学校の体育と数学を教える新任教師。ある日学校で数件の盗難事件が発覚し、教え子の1人に疑いがかかる。ある時先生の1人が小銭を盗んでいるのを目撃した彼女は、わざと自分のジャケットを職員室に置き去りにする。真の泥棒を探して生徒の無実をはらそうとした彼女だが、逆に別の疑いや脅しをかけられてしまう…

 教育制度や学校の規則に問いかけるİlker Çatak監督のストーリー構成は的をついている。かれこれ50年以上も同じ状態で続いてきた学校制度がいま壊れかけてきていることを予感させる映画。若い熱血教師、年齢も態度も古い校長、声を出さず影で文句を言うだけの先生たち、生徒だけでなく先生の中にも泥棒はいるなど、ついうなずきながら見てしまう。また主演女優Carla Nowakの演技も自然。優しくて責任感のある彼女がいじめの攻撃に合う姿は、今の社会で誰もが一度は目撃した事のある場面ではないだろうか。学校を通じて社会の在り方について考えさせられるので、是枝裕和監督の「怪物」と一緒に合わせて見てほしい。

 音楽も最小限だが、何気ない画面の移り変わりがすばらしく、これがİlker Çatak監督の持ち味だと感じた。また何十年も変わっていない先生ファッションも皮肉っぽくてグッド。

THE TEACHERS’ LOUNGE
期間: 2月8日、10~13日、15日
会場:Vancouver International Film Festival(1181 Seymour St, Vancouver)
ウェブサイト:https://viff.org/whats-on/the-teachers-lounge/
オリジナル言語ドイツ、2023、95分。
Press Screening Credits: Mongrel Media / Star PR

Leonie Benesch as Carla Nowak in THE TEACHERS’ LOUNGE. Photo credit: ©if Productions. ©Judith Kaufmann. Courtesy of Sony Pictures Classics.
Leonie Benesch as Carla Nowak in THE TEACHERS’ LOUNGE. Photo credit: ©if Productions. ©Judith Kaufmann. Courtesy of Sony Pictures Classics.

(記事 ジェナ・パーク)

合わせて読みたい関連記事

第22回 何もできない私とセレンディピティ(3)

 歌声喫茶の会場入り口に真っ白髭の「いのこしさん」と言う優しいお爺さんがにこやかに皆を迎え、プログラム歌詞を書いた紙をくれる。2冊の歌の本を借りる。買うこともできる。会費は毎回支払い、23年は15ドル、24年からは10ドルだ。座席は自由席。毎回私は同じ席に座った。初日、私は誰も知らないはずだったが、何処かで以前出会っていた人もいて、声をかけて下さる。嬉しかった。何だかとても暖かーい雰囲気で、「これなら恐れることは無い!」と言うのが第一印象だった。私の席の右隣席は「寅さん」と言う人がいた。当時、彼はマスクをしているので、顔は見えないが目は見える。優しい笑顔の目だった。難聴、ビッコ、音痴、悪声、その場に不慣れな私に、「寅さん」は全く何気なく、手を、又耳を、貸して下さる。彼は歌も上手だった。入り口で借りた歌唱本が黄色と青の表紙で、プログラムに「黄色―p15」とか「青―p10」とか書いてある。それがその時、歌う歌のその本の色とページだと彼が教えてくれた。なれない私は年中ページを間違える。しかし、その度に教えてくれる。有難かった。

 休憩時間が過ぎると今度はギタリストの「ケンさん」がリードしてくれたり、ユーモラスに短歌の披露が有ったり、くつろぐひと時だ。1時半から4時迄思い切り皆で楽しむのだ。

 そして、あれから丁度1年、もう2024年だ。なんだかとても楽しい1年だった。そして、心癒される時をこの歌声喫茶で過ごさせてもらったと思う。もし、我が家が日系会館から近く、歌の知識、数多くの歌曲を知っていて、声も出るなら、更に楽しさは倍になるだろう。毎回、発声練習に始まり、ラジオ体操をやり、オー カナダを歌い、その日の歌声喫茶がはじまり、最後の「今日の日はさようなら」を歌う。その歌詞が私はたまらなく好きで歌いながら毎回涙が出そうになる。

いつまでも 絶えることなく 友達でいよう
明日の日を夢みて希望の道を
空を飛ぶ 鳥のように
自由に生きる
今日の日はさようなら
またあう日まで
信じあう よろこびを
大切にしよう
今日の日はさようなら
またあう日まで
またあう日まで

 今年で200回目を迎えたと言う。皆の「愛情の塊」みたいな「歌声喫茶」だ、こうして300回にもつなげていって欲しい。
 楽しかった「歌声喫茶」1年間本当にありがとう。幸せ私のセレンディピティ

セレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。

許 澄子
2016年からバンクーバー新報紙でコラム「老婆のひとりごと」を執筆。2020年7月から2022年12月まで、当サイトで「グランマのひとりごと」として、コラムを継続。2023年1月より「『セレンディピティ』幸運をつかむ」を執筆中。
「『セレンディピティ』幸運をつかむ」はこちらから全てご覧いただけます。

月に行く ~投稿千景~

エドサトウ

 歴史が紀元前から紀元に代わる2000年以上前に釈迦の仏法とかキリスト教が誕生している。エジプトのアレキサンドリアの港町には、宗教や哲学の本があったというから、かなり色んな本が集めれた図書館に似た本屋さんがあったかもしれない。この頃イエスキリストはこの街で仏教に出会ったのではないかと言う話もあるから、仏教やギリシャ哲学の本もあったのかもしれない。

 この頃にアジアに東征したアレキサンダー大王もこのエジプトの街に来ているから、インドや中国や、イスラム圏の優れた医学書や建築の本もあったかもしれない。そういう文化のにおいを乗せてラクダの隊商は、夏の満月夜に多くの荷物を載せて、東方のアジアの国を目指して、月の砂漠をゆるゆると横切っていく。

 以前にイランから移民してきたイラン人と親しくなり、「エジプトでは多くの金が古代遺跡の装飾に使われているけれど、どうやって金塊を見つけたのだろうか?」と聞いてみると、彼が冗談のように「簡単なことだよ、砂漠に金の石が転がっているのだよ」と言う。僕は、「ああそうか、比重の重たい金塊は、風の吹いた後に、砂漠の砂の上で、月の光でキラキラと光っていたのかもしれない」と思えた。

 ラクダの隊商は、月が明るい夜に静かに移動して行く時に、光る石を見つけたのかもしれない。あの黄金のツタンカーメンのマスクも、こうして見つけられた金をとかして出来ているのかもしれない。中には鉄の塊のような隕石もあったかもしれない。

 記憶は定かではないが、昔、隕石の金属で短剣を作ったという話がある。鉄の発見もこんなところから始まったのかもしれない。中近東の鉄の文化もこうして、シルクロードを経て中国に伝わり、中国からは火薬や羅針盤、絹が中近東やギリシャ、ローマに運ばれたと想像できる。

 奈良時代に、この中近東の人たちが日本に来ているけれど、彼らの目的の一つは、紫式部などが着ていたようなきれいな絹織物の買い付けであったかもしれない。正倉院にある宝物ローマンガラス製品は、そういう時代に日本にもたらされたものであろう。

 古代から、月は日本の文化と深い関わり合いを持っていた。その月へ日本の月探査機スリムがとうとう着陸に成功したのである。

 しかも、ピンポイント着陸で目標地点から50メートルほどのずれでの着陸である。着陸寸前までほぼ正確な軌道であったが、着陸地点をホバリング(空中でとどまり)しながら、着陸地点を自律AIで確認している時に一つのエンジンが故障をしたのか、パイプらしきものが突然に落下したにも関わらず、他のエンジンをコントロールして、目標地点から、50メートルほどのずれで、着陸をしている。すごいことである。

 さらに、着陸前に二つの小さなロボットを月面へ放出している。その一つ日本のおもちゃメーカーが開発したソフトボールくらいの丸いロボットリブ2が月面に着陸した探査機スリムの写真を送信しているから、これもすごい。この金色のスリムの着陸写真を見ると、太陽電池パネルが逆方向に向いているのもすごい。これが、月面に太陽電池パネルを伏せるような下向きであれば、発電は不可能かもしれないが、反対向きであれば、月が移動して太陽の角度が変化すれば発電が可能である。実際に数日後に発電を開始している。

 JAXAのチームはこのパネル状態が心配であったらしいが、リブ2の送信された写真を見て安心をしたらしい。特にチームの責任者の方はこれを見て、腰を抜かすほど驚いたとコメントしておられた。

 数日後に太陽発電も始まり、観測が始まるのである。これまで他国ができなかったことを、日本の月面探査機スリムは実現させて、新しい宇宙時代を開こうとしているのである。ただ、月のマイナス150度以上の寒さに電子機器がどこまで耐えられるかも、もう一つの課題であるが、とにかくおめでとうございます!

 「めぐり逢いて見しや、 それとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな」紫式部

投稿千景
視点を変えると見え方が変わる。エドサトウさん独特の視点で世界を切り取る連載コラム「投稿千景」。
これまでの当サイトでの「投稿千景」はこちらからご覧いただけます。
https://www.japancanadatoday.ca/category/column/post-ed-sato/

第9回 エンディング(終活)ノートのススメ その3~Let’s 海外終活~

終活は新しい大人のマナー

叶多範子

年が明けたと思っていたら、なんともう2月ではありませんか!ぼんやりし過ぎてしまい、この記事の締め切りを過ぎそうになってしまいました(あぶない、あぶない)。そしてこの記事が掲載される翌日からは、旧正月がスタートしますね。2月には節分やバレンタインデーなど他のイベントもあり、今年は29日まであるにもかかわらず、他の月と比べて短いため、あっという間に過ぎていくような予感がします。そして次の記事の冒頭に、2月もあっという間に〜!なんて書くことがないようにしたいです。

前回はエンディングノート(終活ノート)を書く7つの利点について、皆さんがイメージしやすいように具体的な説明を1〜3までさせていただきました。今日はその続きを書いていきます。

4.  法的・医療的意向の表明

私も含め、誰もが自分が重い病気にかかったり、突然命を落とすような事態に見舞われたり、認知症になってしまうようなことは想像したくないものです。ましてや今までに大きな病気を患ったことがなく健康そのものであるならば、それを想像することすら難しいかもしれません。

何歳になったら「延命治療」を含む医療意志(アドバンス・ディレクティブ)などの意思表示や治療方針の希望などの公的書類を作成しておいた方が良いかというガイドラインはありませんが、やはりこれも「元気なうち」「自分の意思で決められるうち」というのが1つの目安になります。

特に身近な家族や血縁者がいない方は、自分で意思や希望を伝えられなくなった時、このような書類がなければ、あなたの意思や希望がわからず、確認できる身内もいないという理由で、国や医療機関、介護施設などで適切ではない、または好ましくない処遇を受ける可能性が出てきます。

もしこのような書類の存在を知らないがために、今まで自分の思うように生きてきた人が、老いてからの大切な自己のケアをなりゆきや他人任せにして人生を終えてしまうのは残念なことです。せめてこの書類の存在をこれからも広めていけたらと思っています。

5. 人間関係の整理

このタイトルを見て、「不要な人間関係は切るべきだ」という否定的な意味に受け取った方もいるかもしれません。私も書いた後で、もっと違う表現が良かったのではないかと反省しました。ここで私が意図していることは、感謝や謝罪の気持ちを伝えたい相手がいないか自分に問いかけてみることです。もしそのような相手がいれば、エンディング(終活)ノートに書き留めたり、会いに行ったり、手紙を書いておいたりすることをお勧めします。

もしもこれを読んでくださっている読者の皆さんの中に、今、心を通わせたい相手がいるのなら、その機会が永遠に失われないうちに恐れずに何か行動を起こせることを願っています。

私自身の話になりますが、何年か前に幼なじみで親友だと思っていた友人に突然連絡を断たれたことがあります。その幼なじみとは共通の友達がほとんどいない状況で、連絡先を変えられて音信不通になってからは、こちらから連絡する方法がありません。SNSを使って根気よく彼女の同級生や昔の共通の友人に尋ねれば、連絡を取ることに成功するかもしれません。しかし、そうして連絡しても彼女が喜ぶとは思えません。私の連絡先は変わっていないので、彼女が私に連絡を取ろうと思えばいつでも可能ですが、そうしないのには彼女なりの理由があるのです。

このことは私の中でまだうまく消化できない部分があります。青春時代の多くを共にした彼女ともう一度心を通わせたいという気持ちと、どこかで2人の道が違ってしまったのならこのまま自然に任せ、これからも道が交わらないならこの苦しい思いごと手放してしまおうという気持ちがあります。そして、彼女に私との関係を断ち切りたくなるようなことをしてしまったことを謝りたい気持ちもあります。(理由は不確かですが、なんとなく推測はしています)

こうやって人の心は簡単にYes/Noのどちらかに割り切ることができないことが多く、厄介だと言えば厄介です。それでも自分がどちらを選んだら後悔しないか、最後はそこにかかってくるのではないかと私は思っています。このノートは、そんな自分の内なる奥底で自問自答するきっかけを作るのにも一役買ってくれるのです。

続く

*このコラムは終活に関する一般的な知識や情報提供を目的とするものです。内容の正確さには努めておりますが、必要に応じてご自身で確認、または専門家へご相談ください。このコラムを元にして起きた不利益は免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。

叶多範子(かなだ・のりこ)

海外終活アドバイザー・弁護士アシスタント
「終活をせずに亡くなった!認知症になって困った!途方に暮れた!!」を、「終活しておいて良かった!」「終活してくれていて、ありがとう!」に変えたい!そんな思いから2020年に終活アドバイザー資格を取得。海外在住の日本人向けの「海外終活」についての講座や説明会、ご相談はブログやFacebookなどのSNSをご覧ください。家族はカナダ人の夫+息子2人+猫1匹、バンクーバー在住。

ブログ: https://globalmesen.com/
Facebook: https://www.facebook.com/noricovancouver
Instagram: https://www.instagram.com/norikocanada/
Line公式: https://line.me/R/ti/p/%40490fuczh
その他SNS: https://lit.link/norikocanada
著書「海外在住日本人のための50代からの終活」:​​https://a.co/d/ad4OeLw

グラッドストーン日本語学園の1月行事「お正月遊び」

すごろく。写真:グラッドストーン日本語学園
すごろく。写真:グラッドストーン日本語学園

 例年通り、2学期の始業日には、「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」という慣れないご挨拶から教室で元気な子ども達と始まる。そして、今月の目標にある「一年の計は元旦にあり」の言葉に沿って生徒は、「宿題を言われる前にやる」、「兄弟喧嘩をしない」、「起こされないで起きる」など思い思いの計画を発表する。

 それから、みんなが楽しみにしている日本のお正月遊び、かるた取り(小、中学科)・百人一首(中、高等科)・手作りすごろく(ひらがな・漢字・ことわざ等)・福笑い・はねつき・手作りこま回し・けん玉・書初め(中、高等科)と各教室を回っていろいろな遊びをする。賑やかな楽しい笑い声が廊下に聞こえてくる。「もう一回やりたい」と言う生徒の希望で、1月中は短時間ではあるが、遊びを楽しみながら日本の文化の一面にも触れることの出来る新年のスタートとなった。

こま回し。写真:グラッドストーン日本語学園
こま回し。写真:グラッドストーン日本語学園
かるた取り。写真:グラッドストーン日本語学園
かるた取り。写真:グラッドストーン日本語学園
福笑い。写真:グラッドストーン日本語学園
福笑い。写真:グラッドストーン日本語学園
羽根つき。写真:グラッドストーン日本語学園
羽根つき。写真:グラッドストーン日本語学園
書初め。写真:グラッドストーン日本語学園
書初め。写真:グラッドストーン日本語学園

(寄稿 グラッドストーン日本語学園)

合わせて読みたい関連記事

Today’s セレクト

最新ニュース