誰にもやってくる人生最期のとき。そのときを穏やかに迎えることを誰もが願うが、不治の病に侵され、肉体的にも精神的にも耐えきれない苦痛に追い込まれるケースもある。
そのとき、カナダでは、自分の意志で決め、医療のサポートを受けながら最期を迎えられる『尊厳死』を選択できる。英語で「Medical Assistance in Dying」。頭文字をとって『MAiD(通称メイド)』。この言葉を知っておくことで、耐えがたい状況の中でも一筋の光明になることがあるかもしれない。
『尊厳死』を選びたいとき、そのサポートをしてくれる団体がある。ブリティッシュ・コロンビア(BC)州のMAiD擁護団体Dying with Dignity Canada(DWDC)。今回は同団体バンクーバー支部長Alex Muir(アレックス・ミューア)さんを講師に招き、6月12日、ZOOMによる講演会が開催された。日本語認知症サポート協会主催。
その講演内容を要約して紹介する。
医療のサポートを得て、自らの意思で穏やかな死を迎えられる『尊厳死』
カナダでは、2016年に合法化された。合法に到る道のりは決して平らなものではなく、先人たちの尊い活動によって達成されたのであった。それまでは、医師がサポートしても自殺ほう助罪とされていたものが、2016年に個人の権利としてカナダ最高裁判所が認めた。
それ以来、尊厳死を実施した件数は、着実に増加している。なかでもBC州は、カナダのなかで大きな割合を占めている。その理由は、高齢者が多いこと、進歩的な考え方をする人が多いこと、また、BC州のMAiD担当の保健省が積極的な広報活動を行っているためなどがあると見られる。
MAiDによる人生最期の方法を選ぶ
医師のサポートを得ながら自然死を待つ、キモセラピー(放射線治療)や腎臓透析などの延命治療を中止する、栄誉補給の点滴をやめるなどのほか、薬剤(注射液または経口剤)で合法的な尊厳死を選択できる。
一方、痛みを緩和する治療は積極的に医師が行う。こうした方法の選択については、死の前に、家族や、代理人に伝えておくこともできる。
MAiDの権利を得るには、厳格な条件がある
- 公的な健康保険(MSP)に加入していること。そのため旅行者などはできない。
- 18歳以上であること。
- 客観的に査定された不治の病を患っているか、本人が同意するあらゆる治療を受けていること。
- 緩和ケアの治療をすべて試し、残る選択肢はなく、病状が耐えがたいという状況であること。
- 自発的な本人の意思があること。家族や友人などの勧めは不可。
- 医療関係者など、専門知識のある人が慎重に確認してMAiDの同意を得ることが必要。
MAiDを受けるための手順
- 患者は、申請書類に必ず本人が署名しなければならない。(身体的な理由により本人が署名できない場合は、同席する代理人)<*以下の写真参考>
- 2人の医師、または診療看護師(ナース・プラクティショナー)が査定を行い、その査定が同じ基準であること。
- 一定の待機期間を経て実施される。
- MAiDの申請が認められたあと、薬剤を摂取する直前まで、MAiDの実施を取り止めることができる。
MAiDの申請は、本人自身が熟慮したあくまでも独自の判断で行うものだが、家族や友人などにも共感を得られるようディスカッションを重ねてほしい。そして、自身の残された貴重なときを過ごしてほしい。事前に葬儀のことや会いたい人に来てもらう、音楽を聞く、読みたい本を読む、食べたい料理をリクエストするなど。
以上、MAiDを選択したいときの概略をまとめた。講演では合法性や留意点など細部にわたって紹介された。アレックスさんの講演は、愛情にあふれ、人生の最期を誰もが穏やかに迎えられるよう配慮されていた。
アレックスさんは、もし、そのときが迫ってきたら担当医師に「MAiD(メイド)について詳しく知りたいと相談してほしい、そのドクターがMAiDに詳しくないときは、ほかの医師を紹介してもらうなど、BC州の居住地の管轄の保健局に問い合わせてほしい」と語った。
(取材 笹川守)
<講師プロフィール>
Alex Muir
Dying with Dignity Canada(DWDC)のバンクーバー支部長。DWDCは、1980年に草の根運動から発足した慈善団体。尊厳死(MAiD)の権利を擁護し、終末期の選択肢やケアについての情報の普及・啓発、個人や家族へのサポートを介し、他支部の運営メンバーとともに、地域社会でのMAiDの周知活動を行う。
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