ナチュラリストとして活躍する高橋清さん。自宅で話を聞いた。©The Vancouver Shinpo
ナチュラリストとして野鳥や自然保護活動に深く関わってきた高橋清さん。地域貢献でエリザベス女王のQueen Elizabeth II Diamond Jubilee Medal 2012を受章したほか、コミュニティから多数の賞を受賞している。 2021年は夏の熱波、11月の豪雨と、ブリティッシュ・コロンビア州は大きな自然災害に見舞われた。温暖化との関係が指摘され、地球環境について危機感を感じている人も多い中、高橋さんに環境問題や自然保護活動などについて話を聞いた。
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- 自然保護活動に関わってきた高橋さんから見て、環境問題や温暖化問題についての考えを教えてください。 温暖化対策は一般市民には、それほど有効な手段はないと思いますが、誰でもできることは、日常の生活の中でも可能です。僕にとって一番大切なのは、日常生活の中で二酸化炭素ガスの発生をできるだけ抑えることと考えていて、車の運転を極力減らすこと、冷暖房を最低限度とすること、化石燃料のガスの使用をやめています。 もう一つ、大事なことに樹木や植物の生長を助け、炭酸ガスを吸収することがあると考えています。これらが今の私たち、一般市民にできる対策と考えて実行しています。木材を燃やして発生する炭酸ガスは植物に吸収されて、化石燃料のように毒性物質を発生することはほとんどありません。自然に対する害は少なくてすんでいます。
ノルウェー製の薪ストーブを暖房に用いている。©The Vancouver Shinpo
高橋さんの家のリビングにはノルウェーから輸入したという薪ストーブが設置されている。 - 暖房は薪ストーブも利用していらっしゃるのでしょうか?
はい。石炭や石油、ガスなどの化石燃料は燃やせば大量の二酸化炭素を発生し、地球温暖化の一因となります。一方、薪を燃やしても二酸化炭素を放出しますが、その量は化石燃料の10分の1ともいわれています。毒性の高い物質はほとんど含まれず、木が燃えて発生する灰は肥料として使用できるなど役に立ちます。 薪ストーブの下、床の部分には厚みのある石の板を使っていて、火を使うと石と周りの空気が温まります。温まった石は冷めにくく保温性があるので、床暖房のような感じになっています。おかげで冬も最小限の暖房費で快適に過ごすことができます。 リビングは吹き抜けで暖かい空気が2階に流れるため、電気の暖房は最小限で済んでいます。- こういった家を造ろうと考えた理由を教えてください。
カナダに移住して合成樹脂の会社の研究室で働きました。化学薬品を用いていたために研究室内の空気が悪く、気がつかない間に身体を蝕んでいて、肺気腫を発症しました。 そこで仕事で知り合ったブリティッシュコロンビア大学の教授に相談して、研究室の排気構造を改善しました。その時に学んだ空気清浄の方法を自宅にも適用し、我が家は24時間フィルターで空気清浄をしています。きれいな空気の中で暮らしたい、そのためにも住まいが大切と考えました。 ベッドルーム、リビングなど全室に清浄した空気が循環して、キッチンとトイレ3カ所から排気されます。新型コロナで部屋の空気清浄に注目が集まりましたが、自宅が完成した1985年当時は一般的でなく、装置を探すのに苦労しました。 また気密性や断熱性が高く、カナダでは多くの家は壁の厚みは4インチとなっていますが、我が家は6インチです。天井も12インチで保温材を入れてあります。 薪ストーブを使っていることと、気密性・断熱性が高いことから、我が家では化石燃料は一切使用しないで、快適に暮らすことができています。電気代はかさみますが、ガスを使用しないため、我が家の光熱費は一般家庭よりかなり少なくなっています。
家を建てた当時、まだCarbon Neutralは一般的ではなかったのですが、教授のアドバイスで行った設計が脱炭素にとても効果的でした。 汚染を減らし、効率を考えて暮らすことは省エネにもなり、我が家のガスや電気の使用量はご近所の半分程度です。電気やガスを全く使わないというのは無理ですが、効率を考えて、できるだけ使用量を減らすように努めています。
コミュニティ支援や自然保護のボランティアとして
高橋さんは絶滅危惧種の野鳥をはじめとする自然保護活動、コミュニティのボランティア活動でも知られている。コキットラムに以前あった、リバービュー精神病院(2012年に閉鎖)で患者支援ボランティアを5年務めて表彰された。 - リバービュー精神病院では5年間ボランティアをされたそうですね。 週2回、1回あたり5~6時間を5年間続けました。リバービューのボランティアは続いても2年程度という人が多くて、5年間続けた人はいないと聞いています。患者と敷地内の散歩をしたり、話し相手をしました。昼食や身の回りの世話とか、患者の調子のよい時には近くの自然を案内しました。 患者を扱うのは決して楽ではなく、終わると敷地内の芝生に寝転んで気分転換をしてから帰宅ということも多かったです。精神病院で長時間ボランティアをするのはきつかったです。
ロッキーポイントパークに巣箱を設置。1万2000キロもの距離を渡って、越冬したムラサキツバメが戻ってきた。Photo courtesy of Kiyoshi Takahashi
- 自然保護活動について教えてください。2019年8月には『グローバルTV』が、メトロバンクーバーにムラサキツバメ(パープルマーティン)が戻ってきたのは、高橋さんの活躍によるものと、その活動を報じていますね。 ムラサキツバメがメトロバンクーバーから姿を消していたというのはなぜでしょう。
古い建物がなくなり、巣をつくる場所がなくなったためです。1950年代以降はメトロバンクーバーには来ていませんでした。 肺気腫を患ったことから58歳で早期退職して、自然保護団体に入って活動を始めました。帰ってきていないことを知ったのは1987年ごろで、巣を作るために必要な構造を考えて、巣箱を作りました。 そうして作った巣箱をポートムーディーのロッキーポイントパークに設置したところ、1995年に3羽が戻ってきました。以後、フレイザー川沿いに約20キロ間隔で上流に向けて10から15個ずつ置いていき、今ではハリソンレイクの近くまでムラサキツバメが戻ってくるようになりました。
退職後、鳥の生態学ornithologyを学んだ高橋さんは、それぞれの鳥の生態にあった巣箱を作る。自宅の作業室で。©The Vancouver Shinpo
- そのほかにも、コウモリの保護活動にも関わっていますね。
コウモリは害虫を食べる益獣で、昔は古い家の屋根裏などに住みついていました。しかし、とても神経質で少しのことでいなくなってしまいます。コウモリの保護のためにも、巣箱を作りました。 パープルマーティン、コウモリ以外にも、メンフクロウの巣箱を作り、トライシティ(コキットラム、ポートコキットラム、ポートムーディー)に設置して保護に努めてきました。メンフクロウも絶滅危惧種です。 ただ、もう年ですし、設置のために梯子(はしご)に登って落ちると危ないことから、引退を考えています。
活動の後継者探しが課題
コキットラムのコロニーファームに設置したコウモリの巣箱。Photo courtesy of Kiyoshi Takahashi
- 後継者は見つかりそうでしょうか。
残念ながら難しいです。これまでにも、中学校や高校で保護活動についての話をしてきました。若い人たちは、しっかり話を聞いてくれるのですが、活動には興味がないようです。 刑務所でも巣箱づくりについて教えたことがあるのですが、話をした受刑者は翌年には出所したりで、後継者育成にはつながっていません。 私が参加している自然保護団体、Burke Mountain Naturalists でも、巣箱設置活動はボランティアがいないために終了するそうです。子育てが一段落して、自由な時間ができた50~60代の方が関わってくれたらと思っています。
高橋さんが自然保護活動や環境について考えるようになったのは、群馬県で生まれ育って、自然が身近だったためという。活動を引き継いで、メトロバンクーバーやカナダの地域社会が、今後も環境や自然の保護を促進していくのを期待していると語った。
2012年には英国エリザベス女王Queen Elizabeth II Diamond Jubilee Medal を受章。©The Vancouver Shinpo
高橋 清さん 1932年群馬県で生まれる。群馬大学工学部卒業。化学工学エンジニアとして1966年、家族でカナダへ移住。 早期退職してからは、毎年3カ月間、約15年間、NGOを通して主にタイで技術指導ボランティア。 また、バークマウンテン・ナチュラリスト(Burke Mountain Naturalists)協会、バーナビー・ワイルドライフ・レスキュー・アソシエーションなどで、ボランティアで野鳥や自然保護活動に従事。同時にコキットラムにあるリバービュー病院やミッションの刑務所 で、患者や受刑者の支援ボランティアを行った。 BC州より地域に貢献した人に贈られるLive Smart Community Heroesの冬季自然部門、リバービュー病院患者支援ボランティア5年勤続賞、コキットラム市からSpirit of Community Award、ポートムーディーからEnvironmental Awardを受賞。 2012年には英国エリザベス女王Queen Elizabeth II Diamond Jubilee Medal を受章。
メトロバンクーバーによる高橋さんの活動紹介ビデオ。
(取材 西川桂子)