先住民の儀式に羽鳥総領事も参加

 和歌山県美浜町の町おこしのために2018年1月に生まれた日ノ岬・アメリカ村。日本からのカナダ移民の功労者、工野儀兵衛の出身地でもある、美浜町三尾地区のNPO法人で、地域の再生とふるさと教育に関する事業を行い、地域の振興に寄与することを目的として活動している。

 その日ノ岬・アメリカ村から一行がメトロバンクーバーを訪れて、現況を訴えたのは2018年10月のこと。三尾地区の状況を知った日本カナダ商工会議所(会長 サミー高橋氏)が、活動を支援したいと「美浜町アメリカ村再生プロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトの一環として、話題づくりにトーテムポールを寄贈することになった。

 トーテムポールを彫る作業が終わり、10月29日に在バンクーバー日本国総領事館 羽鳥隆氏も出席し、トーテムポールに“魂”を注ぎこむ儀式が執り行われた。

工野儀兵衛のふるさとに生まれた『日ノ岬・アメリカ村』

 工野儀兵衛は1888(明治21)年、貧しい漁村であった和歌山県三尾村からカナダに渡航して、スティーブストンの鮭漁に目を付け、村の人たちを呼び寄せたとされる。最盛期には同村からの移民者は2千数百人に達したという。

 三尾村からの移民は、カナダで漁業や林業に従事して、故郷三尾村に送金する。また、引退したり、出稼ぎから戻った人たちは北米風の生活を持ち帰ったために、地域はアメリカ村と呼ばれるようになったという。

 その三尾村(現、美浜町三尾地区)は、現在2015年の国勢調査で人口677人。うち65歳以上が373人と人口の半分以上を占める、いわゆる『限界集落』となっている。

 そこで美浜町の有志が地域の活性化を目指して『日ノ岬・アメリカ村』というNPO法人を2018年1月に立ち上げ、10月にメトロバンクーバーを訪れて、協力を呼び掛けた。

日加友好の証としてトーテムポールを贈りたい

 日本カナダ商工会議所サミー高橋会長は、日ノ岬・アメリカ村』の活動を支援したいと考え、「日本・カナダ商工会議所として美浜町アメリカ村再生プロジェクトを立ち上げ、スポンサーを見つけてカナダのシンボルであるトーテムポールを寄贈することを考えました」という。

 高橋氏は日本を訪れて、工野儀兵衛のひ孫、高井利夫氏に会い、日本とカナダの交流の計画を説明。国際協力推進協議会の代表でもある高井氏は、スポンサーになることを快諾してくれたそうだ。

スコーミッシュ族のアーティストが制作

トーテムポールを製作したダレン・イエルトン氏 Photo © Manto Artworks
トーテムポールを製作したダレン・イエルトン氏 Photo © Manto Artworks

 トーテムポールを制作しているのは、スコーミッシュ族のダレン・イエルトン氏だ。今回、美浜町に贈ることになっているトーテムポールは、シダーを使用している。

 「25年前に連邦政府が私たちの山で皆伐を行おうとして、部族の許可なくテリトリー内の木の伐採を始めました。部族らの抗議で止めることができたのですが、既に約1万本もの木が切られていました。今回制作したトーテムポールは、その時に切られた木を連邦政府から寄付を受けて、使っています」とイエルトン氏は語った。

 トーテムポールは頭の部分が力と栄光を表すハクトウワシで、友情のシンボルでもある。ハクトウワシは、他者を歓迎して聖なる地に案内をする“カヤッチン”という案内人を抱えている。その下には力や強さのシンボルであるグリズリーベア。グリズリーベアはチヌックサーモンを手にしている。

 サーモンは生まれた川から太平洋に出て、最後に再び生まれた川に戻ってくるというライフサイクルを象徴している。はるばる和歌山から太平洋を渡ってカナダに移り住んだ工野儀兵衛や三尾地区の人々に思いを馳せて彫ったという。

 そのほか、幸運の象徴であるカエルも彫られている。和歌山の人たちに幸運が訪れるようにとの願いを込めた。

 トーテムポールにはそれぞれストーリーがあるというが、このトーテムポールは工野儀兵衛を記念するもので、イエルトン氏は3カ月をかけて彫り終えた。

 この日、トーテムポールに『魂(ソウル)』を注ぎこむ儀式を行ったのは、スコーミッシュ族のミニスター、ユージーン・ハリー氏。ハリー氏は「木にも魂が宿っていて、アーティストを選びます。この木はダレン(イエルトン氏)と和歌山に行くことを選んだのです」と語った。

日本の人たちに敬意を表して、最初の一筆は羽鳥総領事

 これからは彫り終わったトーテムポールに色を塗っていく。通常はイエルトン氏が最初の塗料を塗るのであるが、今回は「日本の人たちに敬意を示して、最初の一筆は儀式に立ち会った羽鳥総領事にお願いします」とのことだった。

彫り終わったトーテムポールに最初の色を塗った羽鳥総領事 Photo © the Vancouver Shinpo
彫り終わったトーテムポールに最初の色を塗った羽鳥総領事 Photo © the Vancouver Shinpo

 「例年は姉妹都市交流も多数行われますが、今年は新型コロナウイルス感染拡大により人の行き来ができず、多くのイベントが中止を余儀なくされました。そのような中で、和歌山県とBC州との関係を深めるこのプロジェクトは素晴らしいと思います。今回の儀式に参加できてうれしいです。また貴重な経験をしました」と羽鳥総領事はあいさつした。

 続いて、高橋氏がイエルトン氏やスポンサーの高井氏をはじめとするプロジェクト協力者に感謝を述べた。

 トーテムポールは完成後、日本に送られ、2021年に美原町にて除幕式を予定している。

 プロジェクトは、日本側が国際協力推進協議会(Committe for Promoting International Cooperation: CPIC)、カナダ側が日本カナダ商工会議所の協力で進めている。

 アメリカ村には、既にカナダに移り住んだ人たちの歴史と彼らが地域にもたらした文化、カナダでの足跡を展示する「カナダ・ミュージアム」、ゲストハウス「遊心庵」、アメリカ村食堂「すてぶすとん」の施設がある。

 今後はカナダ移民の歴史を日本の人たちにもっと知ってもらうために、トーテムポールに加えて、日ノ岬・アメリカ村に工野儀兵衛の銅像設置や移民資料館の整備、国内留学のできる英語学校や大学のサテライトキャンパス設置などを目指している。

写真右から日本・カナダ商工会議所、サミー高橋会長、工野儀兵衛の曽孫の髙井利夫理事長(特別非営利活動法人国際協力推進協議会(CPIC)、藪内美和子美浜町長、岩橋延直和歌山国際姉妹都市親善協会会長 Photo courtesy of Sammy Takahashi
写真右から日本・カナダ商工会議所、サミー高橋会長、工野儀兵衛の曽孫の髙井利夫理事長(特別非営利活動法人国際協力推進協議会(CPIC)、藪内美和子美浜町長、岩橋延直和歌山国際姉妹都市親善協会会長 (2020年1月) Photo courtesy of Sammy Takahashi

(取材 西川桂子)

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