バンクーバーの夏の風物詩Theatre Under The Stars(TUTS)の野外ミュージカルが今月2日から8月27日までスタンレーパークのマルキンボウル劇場で上演されている。今年は「Something Rotten」と「We Will Rock You」の2演目が日替わり公演。
その中でもシェークスピアを題材にした「Something Rotten」では、日系カナダ人甲斐静花さんが舞台デザイナーとして抜擢され、見事な舞台デザインが話題になっている。今回は、静花さんに舞台デザイナーとしての仕事について話を聞いた。
– 舞台デザイナーの仕事について教えてください。
まず、脚本を読んで、ディレクターとどういう舞台にしたいかを話し合います。その後、シーンごとにアイデアをスケッチして、立体モデルを作ります。脚本によってシーンの数は違いますが、今回は6シーン作りました。そこから色や形など細々なことを決めて、ミニチュア模型と大工さんに持っていく設計図を作り上げるまでが私の仕事です。舞台デザインの仕事は、短くて3カ月、長くて1年ほどかかります。今回のプロジェクトは、6-8カ月でした。
– かなりの時間と労力ですね。
そうですね。一つのプロジェクトだけにフォーカスできたらいいのですが、バンクーバーで舞台デザインの仕事で生活していこうと思ったら、色んなプロジェクトを重ねながらじゃないと難しいんですよね。だから、今回のミュージカル「Something Rotten」と同時進行にほかのプロジェクトも6つほど受け持ってたのが、時間と体力的に厳しかったです。
でも好きなことを仕事にしているし、毎回、新しい世界を作っているので、すごく満足しています。笑いあり、感動あり、アーティストとしての充実感がありますから。あと私の場合はフリーランスなので、毎回違う演劇会社と働いて、毎回素晴らしい才能を持った人たちとの出会いがあって、それもいい刺激となっています。
– それは素敵ですね!さて今回のSomething Rottenはルネサンスの世界にロックスターとしてシェークスピアが登場しますが、舞台デザインをするのはどうでしたか?
脚本を読んだときに、モダン的な要素が所々見えたので、おもしろいなって思いました。だから今回のデザインには、変わった味を引き出したくて、イマドキなものも入れてみました。
過去に、子どものショーを多く手掛けてきたので、私の作る舞台世界が、どうやらメルヘン系って言うか、かわいい系って言うか、アニメっぽいらしいんですよね。見る人によっては、今回の舞台デザインからも、それを感じとっていただけるかもしれません。
– それは静花さんが日系カナダ人ということも影響していますか?
していると思います!
カナダで生まれ育っていますが、子どものころから親にドラえもんやちびまる子ちゃんをよく見せてもらったし、漫画もりぼんやコロコロ、なかよしとか、色々買ってもらって読んでましたから。だいたい漫画とアニメで日本文化と日本語を学んだ感じなので、それがアートにも影響しているんだと思います。
– 漫画やアニメの影響力ってスゴイですね!
そうですよ〜!笑
あと、私の場合、少女漫画に出てくる先輩後輩という関係にも憧れていましたね〜。先輩って呼ばれたかったし、呼びたかったし、だから初めてシズ先輩って呼ばれたとき、すごく感動しました!カナダでは友人間で年齢による上下関係が存在しないだけに、日本の青春を存分に経験してきましたよ。笑
– ということは、学生時代は日本だったんですね。
2年間だけですが、日本大学の芸術学部に行きました。当時は、役者になりたかったんです。でも、大学で舞台を学んで、実際に演劇をしていく過程で、デザインの方に興味が出てきたので、そちらに進みました。今は、アーティストとして、舞台デザインのほかにも、パペットの仕事もしています。
– パペットとは、人形劇ですか?
はい。シャドーパペットや文楽スタイルをやっています。来年のグランビルアイランドのチルドレンフェスティバルでも、「OTOSAN」っていう文楽スタイルのパペットショーをします。
あとセサミストリートで有名なマペットスタイルのパペットショーも、子ども向けテレビ番組やネットフリックスなどで出演させてもらっています。
– いろんな活動をされているので、お話を聞いているだけで、ワクワクします!
いつもいろんなことにチャレンジしています。楽しいですよ。笑
– それでは最後に今回の「Something Rotten」ミュージカルについて読者の方に一言どうぞ!
今までの舞台セットの中で、一番大きいスケールなので、ぜひ私のセットに注目してもらいたいです。あと、役者さんたちの歌とダンスのスキルがとにかく素晴らしいので、子どもから大人まで楽しめると思います。来る前に、シェークスピアが誰かぐらいをちょっとググってくれてたら、ベストだと思います。
甲斐静花(かい・しずか)
アーティスト。舞台デザイン、人形劇を主に手がける。人形使い、イラストレーター、ディレクター、イヤリングメーカーとしても活動。日本大学芸術学部、Studio 58で演劇を学ぶ。演劇業界でプロとしての功績が認められるジェシーリチャードソン・アワードを始め、過去に多くの賞を受賞。http://shizuka.ca/
Something Rotten
「ロミオとジュリエット」など名作を次々と世に送り出したウィリアム・シェークスピア。ロンドンで劇作家として成功を収め、そのうえ容姿端麗でチャーミングなシェークスピアはロックスターの地位を獲得し、街を歩けば、「ウィル!」と騒がれるほどの人気ぶり。そんなシェークスピアとは裏腹に、売れない劇作家のボトム兄弟。生活が苦しくなるにつれ、売れる作品を書かねばと、焦り出す。切羽詰まった兄は、未来が予測できる予言者を雇い、ミュージカルを書くよう勧められるのだが…思いもよらない展開に。
ブロードウェイで人気のミュージカルソングを含め、華やかな舞台衣装に迫力あるダンスとコミカルなルネサンスの世界に引き込まれる。徐々にテンションが高くなる後半と壮大なエンディングは、感動すること間違いなし。
We Will Rock You
舞台はグローバルソフトウェア会社が支配する300年後の未来。人間とコンピュータの「ハーフ」たる生物までもが存在し、人間が自分の頭脳を使用して物を作ることが違法とされていた。そんな中、300年前の音楽情報の記憶が残る青年が「自分の心の声をミュージックにしたい」と自由を求め、コンピュータ社会に対して反乱を起こす。
Queenの懐かしい人気ソング約20曲をカバーするこの作品は、Queenを知らない子どもたちも、親世代のロックバンドの衣装やメイクなど演奏とともに楽しめる。またダイアログには、LOL、ハッシュタグと言った流行語を含め、人気ポップスターの名前や名曲タイトルなどが次々と登場するのもおもしろい。現在のテクノロジー社会についても考えさせられる。
Theatre Under The Stars
場所:610 Pipeline Rd, Malkin Bowl, Stanley Park
Eメール:info@tuts.ca
電話:604-734-1917
日程・チケットはウェブサイトを参照:https://tuts.ca/
(取材 小林昌子)
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