ウクライナの友人の教育支援に「クレア・ポストカード・プロジェクト」

ホームページにて注文を受け付け中。Photo by The Vancouver Shinpo
ホームページにて注文を受け付け中。Photo by The Vancouver Shinpo

ポストカードの収益を教育に関わる物品の購入に

仙北谷クレアさん。Photo by The Vancouver Shinpo
仙北谷クレアさん。Photo by The Vancouver Shinpo

 今月9日、バンクーバー在住の仙北谷クレアさんが行うウクライナの青少年団体への教育支援を目的としたホームページが完成した。その名も「クレア・ポストカード・プロジェクト」。

 バンクーバーを拠点に活躍する写真家・斉藤光一さんの写真教室で習った腕前を活かし、バンクーバーの景色や愛犬チャーリーのポストカードをホームページで販売。収益金をキーウの子どもたちの文房具など教育に関わる物品の購入に充てる。

 5枚20ドル。バンクーバー以外の場所(国内、海外)に送る際の郵送費や包装紙代も含まれている。母・有子さんが作成したホームページから注文を受け、父・蔵人さんとクレアさんで梱包し発送する。家族で力を合わせて実現したプロジェクトだ。

同門の合気道教室、育んだウクライナの友人との絆

仙北谷クレアさん(左)と師範の父・蔵人さん(写真提供:武仙会)
仙北谷クレアさん(左)と師範の父・蔵人さん(写真提供:武仙会)

 クレアさんは東京生まれバンクーバー育ちの11歳。現在の習い事は写真と合気道で、忙しい毎日を送っている。合気道は4歳の時から父に直接指導を受けている。蔵人さんは茨城県笠間市発祥の岩間流合気道の師範。バンクーバーをはじめ東京、マレーシア、インドネシア、台湾、イギリスに教室を開く「武仙会」代表でもある。

 今回の支援は、蔵人さんと同じく師範で岩間流合気道ウクライナ・キーウ教室「ウクライナ岩間神信合気修練会」で教えるウクライナ人のマキシム・ウラジミロフさんとの繋がりから生まれた。

侵攻が続く中、ひたむきに稽古に励む

マキシム・ウラジミロフさん(左)とのビデオ通話の様子(写真提供:武仙会)
マキシム・ウラジミロフさん(左)とのビデオ通話の様子(写真提供:武仙会)

 蔵人さんとマキシムさんは海外の教室で出会い、合気道を通し家族ぐるみで親交を深めてきた。

 だが、最近では顔を合わせることやコミュニケーションを取ることに苦労している。理由は2020年から続く新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大による海外への渡航制限と、ロシアによるウクライナ侵攻だ。

 師範は弟子や生徒の級位と段位の審査を行うため各国の教室に出向く。本来なら蔵人さんとマキシムさんとはそこで度々顔を合わせるはずだ。だが、感染症防止のため直接会うことは叶わず、ビデオ通話会議を2カ月に1度行うことで生徒の様子や今後の教室のスケジュールなどの情報を交換していた。

 その後さらに、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。その影響はマキシムさんの教室や家族の生活を一変させた。避難生活を余儀なくされ、一時連絡が途絶えたあと、テキストメッセージを何度かやりとりするようになった。

体育館での稽古の様子。右はマキシムさんの弟子ユリヤさん(写真提供:ウクライナ岩間神信合気修練会)
体育館での稽古の様子。右はマキシムさんの弟子ユリヤさん(写真提供:ウクライナ岩間神信合気修練会)

 ようやく今年3月にビデオ通話会議を再開できた。そこでは想像を超える現状がマキシムさんらの口から語られた。師範らの多くが戦地へ向かったこと、国外に避難する人たちや空襲に備えながらの稽古の様子など、報道で得るのとは肌感の異なる生々しいものだ。

 マキシムさんらは、合気道教室のコミュニティの支援などを受け、稽古の拠点をキーウから別の道場に移した。そこでは、稽古中に空襲警報が鳴り防空壕に逃げ込まなければならなかったり、稽古に必要な胴着をはじめ子どもたちが勉強に使う文房具なども不足しているという。生活のさまざまなインフラが滞る危険も迫っている。

 段や昇級に関わる審査はビデオ通話を通してしか実施できない状況が続く。本来であれば昇級していてもおかしくない日数の稽古を積み実力のある子どもたちを審査することができない。今日や明日の生活や家族の安否を案じながら、それでも稽古にひたむきに取り組む様子に歯がゆさを覚えたという。「個人の力でもできることはないか」と仙北谷さんの家族は考えた。

「クレア・ポストカード・プロジェクト」が始まった

写真教室の斉藤さん(左)に指導を受けるクレアさん(写真提供:仙北谷蔵人さん)
写真教室の斉藤さん(左)に指導を受けるクレアさん(写真提供:仙北谷蔵人さん)

 クレアさんは写真教室の日、斉藤さんにキーウの同年代の子どもたちのために写真を活かしてできることはないか相談した。すると、ポストカードの作成と収益金の寄付を提案されたという。過去に地元の青少年団体にポストカードの売上を寄付した経緯があると伝えられ、斉藤さんのアドバイスを受けながら、ポストカードの作成、販売の準備が始まった。

 写真教室では、さまざまな被写体を基にフォーカスや画角選びなどを習ってきた。これまで、休日には親子でニコン一眼レフを手にバンクーバーの自然を撮影するために出かけ、夢中でシャッターを切った。自分たちの力で役に立つことができる、クレアさんは支援したい気持ちを伝えるため、早速、蔵人さんに頼みマキシムさんへ一報を入れた。

彩り豊かに切り取られたバンクーバーの観光地と仙北谷さん一家の愛犬チャーリーの写真。Photo by The Vancouver Shinpo
彩り豊かに切り取られたバンクーバーの観光地と仙北谷さん一家の愛犬チャーリーの写真。Photo by The Vancouver Shinpo

 合気道を通じて出会ったウクライナ人の友人に教育の機会を諦めてほしくない、その思いでクレアさんはポストカード作りに取り組んだ。母・有子さんはグラフィックデザインやウェブサイトのホームページ作成を仕事で扱うことがあり、ホームページの作成・デザインなどを担当した。

 ホームページ公開前から、クレアさんが通う小学校の先生や生徒、家族に口コミで広まり、ポストカードでの支援に多くの賛同を得ているという。市内の大企業からも連絡が入るほど広まっている。

さくらにフォーカスした「Cherry Blossoms」5枚セット。Photo by The Van-couver Shinpo
さくらにフォーカスした「Cherry Blossoms」5枚セット。Photo by The Van-couver Shinpo

 今回のホームページ公開により注文受付までの作業が簡易になり、より早い支援につながると期待する。

 ポストカードは、クレアさんの目を通したバンクーバーの桜や夕景など、全部で10の絵柄が楽しめる。5枚セットで、「Cherry Blossoms」「Vancouver Landscapes」の2種類を用意している。

今後について

 合気道を通じて今回は個人的な支援に繋がったが、クレアさんは「何かできることはないか、報道を見て多くの人が思っているはずです」と話す。「これで終わりではなく、次に繋げられるようにしたい」

 今後は「子どもたち同士で対話の場を持って、そこで生まれるアイデアも形にできたら子どもたちのためになると思っています。何が求められているか、何ができるかを今後も考え続け、今困っている人をサポートしたい」とすでにプロジェクトの広がりに目を向けている。

 7月30日に開催されるパウエル・ストリート・フェスティバルでの演武披露や今後の昇級に向けて練習に打ち込む毎日の中でも、ウクライナの友人が練習の機会を失わないようこれからもウクライナ教室と連携を取りながら支援を続けていく。

 ポストカードは「クレア・ポストカード・プロジェクト」ホームページから購入できる。https://iis-int.com/clairespostcards/

ウクライナ教室の子どもたち(写真提供:ウクライナ岩間神信合気修練会)
ウクライナ教室の子どもたち(写真提供:ウクライナ岩間神信合気修練会)

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