創業1983年。バンクーバーの老舗日系シーフード店「シーボーン(Seaborn)」は、日本人観光客が大挙した1980・90年代から新型コロナウイルス感染拡大の現在まで、舵取りが難しい時代の波を乗り切ってきた。

 そこには「品質の良い商品を提供する」というこだわりが貫かれている。

旅行客向けお土産からローカル市場へ

バンクーバー老舗シーフード店「シーボーン」。Photo by The Vancouver Shinpo
バンクーバー老舗シーフード店「シーボーン」。Photo by The Vancouver Shinpo

 カナダが人気観光地となった1980年代、「お土産がほしい」という日本人観光客の声が増えてきたと当時を語るのはシーボーン社長武田共平さん。

 そこで、自身が日本の水産関連会社で働いていた経験を活かし、当時バンクーバーで旅行会社を経営していた友人とカナダの海産物を使って観光客向けの「専門店を作ろう」ということでシーボーンが生まれた。

 90年代までは日本から文字通りカナダに観光客が押し寄せた。バンクーバーダウンタウンをはじめ、バンフ(アルバータ州)とトロント(オンタリオ州)にも店舗を開設。主力商品のスモークサーモンをはじめ「スタートしてからよく売れましたね」と当時を振り返った。

 日本からの旅行客が減少すると、ローカルへとビジネスの市場をシフト。現在は主に、自社工場で加工した鮮魚や加工商品を卸したり、自社小売店で販売している。バンクーバーのレストランなどでシーボーン商品が多く使われていると言う。

秋には松茸の販売や日本宅配サービスも。Photo by ©Saito Koichi/ The Vancouver Shinpo
秋には松茸の販売や日本宅配サービスも。Photo by ©Saito Koichi/ The Vancouver Shinpo

 新型コロナ感染拡大で旅行客が来られなくなり、土産販売は大打撃を受けた。代わって、誰もが自由に動けなくなった昨年春からは、メトロバンクーバーを対象に配達サービスを開始。魚だけでなく、米や納豆などの和食材の配達も喜ばれているという。

 こうして時代の流れとともに変化する顧客のニーズに対応して約40年間バンクーバーでビジネスを展開してきた。武田さんは「時代が変わりましたけどね、その中でこういう形(現在のような業務形態)に持ってこられたのは良かったと思いますね」と語った。

ローカル市場に力を入れたシーフード商品が主力に

シーボーン店内シーフードコーナー。Photo by ©Saito Koichi/ The Vancouver Shinpo
シーボーン店内シーフードコーナー。Photo by ©Saito Koichi/ The Vancouver Shinpo

 自社工場で加工した商品は取引先へと卸されるが、自社小売店でも販売している。新鮮なシーフードをバンクーバーの食卓へ届けるため、鮮度にはこだわる。漁業シーズンの夏期には鮮魚を並べる。特に鮭や銀鱈は、丸ごと、フィレやステーキ用など用途に応じて販売。冬期は冷凍魚で対応している。

 ホールセール用で残った魚の頭や骨、切り落とし身なども安価で提供。今では、銀鱈の骨、切り落とし身、カマ(胸びれが付いた部分)などは人気商品という。

 店舗で魚を購入する場合は、好みにカットするのはもちろん、冷凍用にバキュームパックするサービスもある。

 日系シーフード店ならではのサービスを提供することで幅広い層の顧客を増やしていく。

自社工場で作るオリジナルスモークサーモンにこだわる

 土産物用スモークサーモンから始まったシーボーンの歴史。そのスモークサーモンには今でも独自製法にこだわりを持つ。

 「うちはここで獲れる非常に美味しい紅鮭と、大きくなるキングサーモンの、2種類だけを、メープルの木を使ってスモークするんです」と武田さん。味付けは塩だけ。「昔からのやり方で、お魚のオリジナルな、味のあるスモークサーモンを作っています」

 武田さんによると、連邦ライセンスを持つ自社工場を建てて18年ほどになるという。土産用も、日本への宅配用も、ここで生産している。

 工場を任されている中堀怜(さとし)さんは、スモークサーモン作りのこだわりについて「全部手作業でやっているんです」と説明する。最近の大きい工場は機械を使っているが「手でやった方が、一個一個品質チェックもできるんです。それもうちの特長ですね」

 今は新型コロナで旅行客がいないが、近い将来また戻ってくる。「お土産」は日本の文化。武田さんは「せっかくカナダのお土産として買ってもらうのだから、シンプルだけどこういう特長がある方がいいのではないかなと思っています」と笑った。

「良いものを安心して食してもらえる」それが一番

 シーフード店は漁獲量という自然と協調して成り立つビジネス。海洋資源のサステナビリティは世界的な課題だ。

 中堀さんも「魚が少なくなってきて、貴重になってくるので」と今よりも「もうちょっとウェイスト(無駄)を少なくして、そういうもので新商品が作れたら」と考えていると言う。今でもそうした商品を店舗で販売しているが、捨てるところを極力少なくして「うまく活用していきたい」と語る。

 ほかにも、オンライン販売、SNSを使った販売促進、新商品の開発とまだまだできることはあるという。

 今後シーボーンを背負っていく中堀さんには期待がかかる。ビジネスパートナーとここまでやってきた武田さんは「いい後継者がみつかった」と目を細めた。中堀さんは「がんばって続けないといけないなって(笑)。ちょっとプレッシャーも感じますけど」と照れ笑い。それでも「シーボーン」のこれからを見据えている。

 「誇りになるのは」と武田さん。「40何年、1回も食中毒とかそういう問題を起こしたことがないんですよ」と胸を張る。衛生管理は徹底している。「良いものを作って、安心してね(食べてもらえる)」そんな商品を提供し続けることがビジネスとして大事と言う。そして「やっぱりこれからも、お土産も、シーフードビジネスも、必要だと思いますよね」と語った。

シーボーン(Seaborn)

一般問い合わせ先
電話:604-324-7166、1-866-880-5527 (Toll-Free) 
Eメール:info@seaborn.ca / gift@seaborn.ca
営業時間:午前8時から午後4時30分まで
ウェブサイト: http://www.seaborn.ca/

バンクーバー店
住所:1310 W 73rd Ave., Vancouver, BC, V6P 3E7
電話:604-261-2230
Eメール:vancouver@seaborn.ca
営業時間:午前9時30分から午後5時30分まで

カナダのお土産物も並ぶシーボーン店内。Photo by ©Saito Koichi/ The Vancouver Shinpo
カナダのお土産物も並ぶシーボーン店内。Photo by ©Saito Koichi/ The Vancouver Shinpo

(取材 三島直美 / 動画 斉藤光一)

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