救急救命士要請のポイント『Calling 911』

日本語認知症サポート協会
オンライン講演会

 日本語認知症サポート協会は9月19日に、救急車を要請した際に役立つ緊急用リスト作成のポイントを説明するオンライン講演会を開催した。

 ブリティッシュ・コロンビア州で救急救命士(Paramedic)として従事する、兵頭渡さんが講師として招かれた。まず事前に録画した兵頭さんとのインタビュービデオが流され、救急救命士の仕事内容や、リストを用意しておくことの重要さを説明。その後、質疑応答とリスト作成のポイント説明となった。 

救急救命士について

 救急救命士の役割として挙げたのは、
1)患者をいち早く現場から搬送する 
2)患者の症状に対処して、多岐にわたる救命措置(点滴や薬物投与など)をおこなう
3)医師や看護師の診断の手助けになるように、現場の情報をできるだけ詳細に把握して正確に伝える
というもの。

 ひとり暮らしの高齢者からの要請を受けて自宅に入った際に、冷蔵庫の中をチェックするなど、生活状況の確認をおこなうこともある。もし、ひとり暮らしが困難と思われる際には、しかるべき機関に連絡して介護や支援を受けられるようにつなげるということもあるそうだ。

 ビデオでは救急車の内部も紹介。ファーストエイドキット、酸素タンク、ストレッチャー、さまざまな薬、ケガなどに対処する器具、点滴など、現場や救急車内でも的確に応急処置ができるように装備されていることがわかる。

リストの大切さを認識

 救急車の要請を受けて現場に到着すると、救急救命士はまず患者の名前、生年月日、ケアカードの番号を確認し、要請した理由を聞く。このとき、個人情報、服用している薬、アレルギーの有無などが書かれたリストが用意されていれば、迅速な病院搬送、処置の判断がより早くできる。

 1分でも早く病院に搬送することを目指している救急救命士にとって、緊急用リストが役立つのと同時に、患者も治療をいち早く受けることが可能になるのだ。

 リストは、自宅のわかりやすい場所に置いておく(冷蔵庫のドアに貼るなど)と同時に、簡易版を作って外出時には必ず携帯したい。

 英語が苦手、または平常時は話すことに問題がない人でも、意識を失ったり、英語がとっさに出てこないということもあるかもしれない。そんな時でもこのようなリストがあれば安心だ。また、ひとり暮らしや外出先での要請であった場合、家族への連絡もすぐにできるという利点もある。

質疑応答

 兵頭さんがよく受ける質問について紹介するとともに、講演会の参加者から質問を受け付けた。一部を紹介する。

-救急車を呼んだ方が早く診てもらえる?
 そういうことはない。救急病棟(ER)に来る患者には、トリアージスコアというものがあてられ、その重症度によってベッドを割り当てていく。すぐに処置が必要な場合、搬送中に病院に連絡をするので、到着に合わせて専門医や看護師が待機するように連携を取る。

-夜中に救急車を呼ぶ方が早く診てもらえる?
 そういうことはない。夜中は医師の数が少ないといったこともあるので、むしろ昼間の方が良いと思う。

-かかりつけの医師がいる病院に搬送してほしいという要望は通る?
 迅速に、もっとも近い病院へ搬送する必要があるため、基本的には対応できない。しかし、場合によってはかかりつけ医のいる病院に搬送することもある。

-救急車を呼ぶ際に用意しておくものは?
 BC州ケアカード。スキャンして情報を読み取るので現物を用意しておく(運転免許証やBCカードと一緒になっているタイプの場合。古いタイプのカードはスキャンできない)。服用している薬。緊急用リスト。持っていればDNR(注1)の指示書。

-救急車で病院に搬送される場合、持っていくものは?
 特になし。家の鍵や服用する必要のある薬を念のため持参。待ち時間が長くなることがあるので携帯電話と充電器があるといいかもしれない。

‐救急車を呼んだら必ず病院に行かなくてはいけないか?
 本人が病院に行かなくてよいと意思表示している場合は、病院に行かなくてもよい。ただし、意識がない場合、Implied consent(黙示の同意)といって、通常の意識レベルであれば治療を希望するというみなしのもと、搬送、治療をおこなうことになっている。

‐救急車を呼ぶべきか判断に困るときは?
 811に電話して、看護師に相談する。日本語対応も可能。

‐救急車で搬送される際、付き添いは必要か?
 付き添いは必要なし。特に今はCOVID-19のこともあり、家族であっても付き添いは断るケースが多い。ただし未成年の場合は、できたら付き添ってもらいたい。

(注1)DNR(Do Not Resuscitate-蘇生措置拒否)は、終末期医療において、心肺停止時に蘇生措置をしない旨、指示するもの。

 DNRは実際の書類が確認されない限り有効とされないので、指示書を携帯するかリストと共に自宅に置いておくことが必要。ファミリードクターのもとにも書類が保管されているので、リストにその旨明記してあれば医師に確認することもできる。

リストを作成しよう

1)携帯用リスト

  • フルネーム
  • 生年月日
  • 住所
  • 電話番号
  • ケアカードの番号
  • 薬物や食べ物の重度アレルギーの有無
  • 既往歴
  • 服用している薬
  • Code status(蘇生措置指示)
  • 近親者連絡先
  • 特記事項(ペースメーカー、ステントなど)

 パウチしておいたり、プラスチックケースなどにいれ、首からかけられるようにしておくのも便利。外出時には必ず携帯すること。

2)自宅用リスト

 上記内容に加えて、以下も記載しておく。

  • ファミリードクターの氏名と連絡先
  • 手術歴
  • 現在受けている治療
  • 予防接種の情報(破傷風・インフルエンザなど)
  • 心筋梗塞の家族歴(注2)
  • 基本的な認知能力
  • 基本的な歩行能力
  • 自宅での介護度
  • 居住形態(ひとり暮らし、家族と同居など)
  • 使用言語

(注2)心筋梗塞の家族歴は、父母、祖父母で50歳までに心筋梗塞の罹患歴がある場合。

-服用している薬のリストもつけておくと良い。薬局で頼むと処方箋薬のリストを出してもらえる。1週間分の薬を入れたブリスターパックの場合、リストが添付されているのでそれをはがして使ったり、写真を撮ってもよい。

-手書きで書く場合、ブロック体で読みやすいように記入すること。コンピューターで入力したものを印刷する方が、読みやすく、より多くの情報を記載できる。自宅用リストは2部作っておくと、1部を救急救命士が搬送時に持ち出していけるので便利。また、詳細な自宅用リストを携帯できるならばさらに安心だ。

-リストは一度作ったら終わりではなく、自身の健康状態や服用薬に変化があった場合など、内容をアップデートするように心がけよう。

お知らせ

 日本語認知症サポート協会では、緊急用リスト作成キットを15ドルで販売している。キットには、自宅用リスト、携帯用リスト、記入方法の説明、医療用語の英単語や略語一覧が含まれる。また、日本語で記入したリストを英語にする作業も請け負う。Eメールでの受け渡しの場合、12ドル、郵送を希望する場合は15ドルとなっている。

 今回の講演会で流された兵頭さんのインタビュービデオは、10月半ばにYoutubeにアップされる予定となっている。日本語認知症サポート協会のウェブサイト(www.japanesedementiasupport.com)にリンクが貼られるので、そこから視聴可能だ。

(取材 大島多紀子)