~田中朝絵先生に聞くコロナ対策~ Part 1/2
ブリティッシュ・コロンビア州(BC)疾病管理センター(BC Centre for Disease Control、以降「BCCDC」)が9月10日、キンダーガーデンから12年生までの新型コロナウイルスに関する公衆衛生のガイダンス、『COVID-19 Public Health Guidance for K-12 School Settings』を更新した。
それを受けて、各学校区では保護者や生徒、職員に対して、新しいDaily Health Check Listを配布している。
新しいリストでは、これまでの喉の痛み、鼻水、頭痛、食欲不振、筋肉の痛み、倦怠感が除かれている。一方、BCCDCの新型コロナウイルス感染に関するセルフアセスメントには、これらの症状は含まれていることから日系の保護者が困惑しているという話もある。
そこで今回は、日加ヘルスケア協会の理事長で、ファミリードクターとしても活躍する田中朝絵先生に話を聞いた。BCCDCの対応を含め学校再開に関する「子どもと新型コロナについて」の2回シリーズ。第1回はBCCDCの方針変換について。
Daily Checkから消えた喉の痛みや鼻水
−まず最初に、学校区が9月中旬に配布した、登校前に健康状態をチェックするDaily Health Checkから喉の痛み、鼻水、頭痛、食欲不振、筋肉の痛み、倦怠感が除かれました。どういうことでしょうか?
これまでにコロナウイルス感染者でどういう症状が出るのか調べてきたところ、大人と比べて子どもの場合、鼻水、頭痛、食欲不振などの症状は少ないということじゃないのかな。どちらかというと下痢とかが多い。一方、大人の場合、下痢は少ない。
新型コロナでどういう人が重症化しやすいかどうかは、子どもと大人で違うの。子どもは肥満(29%)や喘息(20%)の場合に悪化するの。でも50%が重症化の原因が不明。これまでに特に病気がなかった、慢性の病気がなかったのに重症化してる。
大人の場合、原因不明はたったの10%。高血圧といった心臓や血管の疾患、喘息などの呼吸器疾患、肥満などに特に気を付けているといいのだけど、子どもの場合は分からないの。
−ただし、依然としてBCCDCの新型コロナウイルス感染に関するセルフアセスメントには、これらの症状は含まれているので、保護者の方から困惑の声が出ています
困惑するでしょうね。まず、新型コロナウイルスは新しい病気で、いろんなコーディネートがまだうまくいっていないの。分からないこともたくさんある。政府でも状況に応じて、柔軟に対応を変えているというのが現状。BCCDCのセルフアセスメントでは年齢を入れる項目はあったのかしら?
−年齢を入れる項目はありませんね
だからだと思う。大人は鼻水や頭痛でコロナウイルス感染の可能性がある。でも、子どもは少ないということだと思う。
もう一つ問題なのは例えば13歳を子どもとするのか? 13歳は大人になってきているよね。学校の通知ということはハイスクールまでよね? 私は鼻水や頭痛がある場合は、(学校に)行かない方がいいと思う。
マスクと同じよ。以前はマスクをしなくてもいいと言っていたのが、マスクをするということになったよね?
はっきり言って、政府や保健局の方針はコロコロ変わるの。トライ&エラーで最も良い方向を模索しているみたい。だから、その一つ一つに対応して正しい答えを探そうとするのは無理なんじゃないかな。
ある看護師さんが「Authorityはこう言っている。でも私は違うと思う」と言ってた。そういう場合は自分の“心”に従うのがいいと私は思ってる。
たとえば、お子さんが鼻水を出している。Daily Health Checkでは大丈夫となっているけれど、お母さんは行かない方がいいと思うとき。これからもっと悪くなりそうかな?と思ったときは、登校させないほうがいい。
今回、リストから外された症状についても、普通の風邪でもほかの子どもにうつさないほうがいいよね? リストに入っていないから学校に行かせるではなく、単なる風邪だとしても他のお子さんにうつしてしまったら?と考えると、ある程度の答えは出てくると思う。頭痛があるのに学校に行って、余計に悪くなったら? よく考えてみて。
−鼻水を出していた友人のお嬢さんが、鼻水の場合は保育所に来ないでほしいと帰されたそうです。新型コロナが怖くてPCRを受けに行って陰性だったのに、保育所にすぐに受け入れてもらえなかったとも聞きました。
秋のこの時期、アレルギーの可能性もあるし、出席させてもらいたかったという話です。でも、その後、学校から送られてきたe-mailによると、アレルギーの場合は出席可。それも医師などの証明は必要なしとなっていました
私個人としては、新型コロナが広がっている時期に、鼻水などの症状をヘルスチェックのリストから外したのはよくないと思っている。でも、これから冬になると誰も学校に行けなくなるかもしれない。だから“Happy Medium”を探しているんじゃないかな? もし、今回の措置で感染が広がったら元に戻すんじゃない?
学校でクラスターは発生しているのか?
−学校が始まって、バンクーバーコースタルヘルスやフレイザーヘルスなどの保健局で、学校でのコロナ感染者の発生状況を公表するようになりました。自分が住んでいる市や、子どもさんが通う学校で感染者が発生していないか、神経質になっている方もいらっしゃると思います。現時点(9月30日)で学校でのクラスターは発生していないのでしょうか?
今のところ、私は知らないな。
リストの用語について確認してみると、Exposureはウイルスがうつる期間に、新型コロナに感染した生徒や職員の一人が学校に通っていた場合。そして、感染者が二人以上でたらCluster、さらにOutbreakになるの。でも確か病院や高齢者施設ではたった一人の感染しただけでもOutbreakって言う。だから病院でOutbreakがあったと言っても、一人かもしれない。
Self-isolationとSelf monitorという言葉についても知ってる? どれぐらい濃厚な接触があったかによって使い分けていて、Self Isolationは感染が確認された人と感染すると考えられる間にマスクなしで合計15分以上、近くで接触していた場合。だから3日間で一日5分ずつでも濃厚接触になってSelf Isolation、自己隔離しなければいけないの。
一方、教室の端と端というように遠くで座っていた場合とかはself monitor。症状を見ておいてくださいって言われる。
田中朝絵医師
8歳で渡加。生理学と運動学を学んだ後、ブリティッシュ・コロンビア大学医学部を卒業。その後、ノバスコシア州ハリファックスにあるダルハウジー大学でファミリードクターを始め、その後、ブリティッシュ・コロンビアに戻ってからもファミリードクターとして活躍中。現在はリッチモンドとノース・バンクーバーにオフィスがある。日加ヘルスケア協会理事長。日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会理事
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(取材 西川桂子)