新刊紹介
ジェーン・オースティンの研究家として知られるパーカー敬子さんは、これまでに『エマ』(2012年)、『説得』(2014年)、『マンスフィールド荘園』(2017年)の翻訳本を出版。今年は4冊目にあたる『誇りと偏見』の翻訳本を出版した。
結婚に至る過程をユーモアたっぷりに
200年以上も前のイギリスでは女子には後継の権利がなかったため、結婚相手の選択は女性の一生の中で重要な問題だった。ジェーン・オースティンは、18世紀から19世紀のイギリスの田舎での上流家庭の娘たちが結婚相手を見つけるまでの心理描写や、母や叔母が良縁探しに奮闘する姿を中心に描く。
それゆえ、オースティンの小説は“恋愛小説”とみなされがちだが「重要なのはその結婚にいたる過程での心理であり、自己発見です。その過程をこれだけユーモアたっぷりに、しかも深みを見せるハイコメディーに仕上げた作者の力量に敬意を表したいのです」とパーカーさんは語る。
本書では、お互いの誤解や身分の違いによってなかなか成熟しない恋のゆくえに、読者は釘付けになっていく。
細かな心情を隠さず表現
また、どんな時代でも人間関係の難しさは同じであることを、オースティンは教えてくれる。
“どの点から見てもあまりにも人が変わっていましたので、あの人が帰ったあと私は、もうこのお付き合いは打ち切ろうと決心しました。”(P.160)
“最後に二人は互いに礼儀正しく別れたが、おそらく二人共この相手とは二度と会いたくないと思ったことであろう。”(P.249)
このように、細かな心情を隠さず表現するところも共感を覚えさせ、多くのファンを魅了する点といえるだろう。
読みやすい言葉を選択
訳者あとがきには「プライドは時には『誇り』そのもの、ある時には否定的な意味で使われるので、最終的には、最も総括的と思われる『誇り』を使うことにした。原作にPrideとなっている箇所は、場合に応じて『誇り』『高慢』など色々に訳し「プライド」と振り仮名をつけた」と書いてある。
現代に生きる私たちがすんなり入って読むことができる理由のひとつには、このような配慮、原文を正確に伝えながらも、読みやすい言葉を選んでいることが大きなポイントとなっていることは、いうまでもない。
(取材 ルイーズ阿久沢)
『誇りと偏見』
中流階級の次女エリザベスと、上流階級の紳士・ダーシー。格の違いによるプライドと偏見が邪魔をして、出会ったときにはお互いに反目しあった2人だが、エリザベスの知性と快活さにダーシーは惹かれていく。誤解・妨害・障害を超えて恋を成就させる過程を丁寧に描き、現在でも映画化・ドラマ化が引きもきらない人気作品。『ブリジット・ジョーンズの日記』の元ネタとなった作品としても有名。
出版社:あさ出版ISBN-13 : 978-4-86667-202-1 C0097
単行本:2,200円 カナダでは、日本語書籍を週1便で日本から空輸しているカナダのBlue Tree Booksでも購入できる。
Blue Tree Books
Email: contact@bluetreebooks.com
Kindle版(電子書籍):2,090円 amazon.co.jpで購入可
パーカー敬子さん
1957年 東京女子大学文学部英米文学科卒業、カナダに渡る。
1993年 カナダバンクーバー市のUniversity of British Columbia大学院English Departmentより修士号を取得。
1993年から2004年までShakespeare Society of Vancouverの月刊Newsletterの副編集長。
1950年代後期よりジェーン・オースティン研究を始め、1981年にJane Austen Society of North America (JASNA) に入会し、バンクーバー支部長を務め、2007年バンクーバー市で開催された年例会の委員長を務める。
2015年より英語圏最大のエッセイコンクール、JASNA Essay Contestの審査員の一人。
一方1964年にトロント王室音楽院よりARCT(Associate of the Royal Conservatory of Toronto)の教師資格を得て、46年間音楽理論を主として教授。
2016年に同音楽院より第1回Teacher of Distinction賞を受賞。
訳書にオースティン作の『エマ』(2012年)、『説得』(2014年)、『マンスフィールド荘園』(2017年)がある。
ジョン・キムラ・パーカー氏(カナダ勲章叙勲)、ジェイミー・パーカー氏(ともにピアニスト)の母。バーナビー在住。