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廣木隆一監督はバンクーバー国際映画祭の常連と称されるくらい、これまでに数多くの招待を受けてきた。2018年は「ここは退屈迎えに来て」で女優・橋本愛さんと来加。国際的な映画評論家トニー・レインズ氏が大絶賛し、プレスに奨めていた巨匠監督だ。バンクーバーでは前回と同様、舞台あいさつやプレス・インタビューなど多忙のスケジュールが予定されているため、今回特別に日本からのインタビューに応じてくれた。
「母性」について
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廣木監督といえば、これまで恋愛、ピンク、青春映画、そして数々のコマーシャルなどジャンルが幅広い。監督は前回のインタビューで、「さよなら歌舞伎町」や「ここは退屈迎えに来て」のように複数の登場人物によって一つのテーマが見えてくる映画作りを好むと答えた。
映画「母性」も母と娘、そしてその周りにいる複数の登場人物から構成されたストーリーを展開している。原作は湊かなえさんのミステリー小説「母性」。父性でなく母性を選んだ理由として監督は「父と息子と違う関係を描くことに興味があった」と答えた。そしてできるかぎりナチュラルな映画を作りたいと考えたという。
母の証言と娘の証言。同じ場所にいたはずの二人の話にかなりのズレがある。娘にとって無償の愛を注いでくれたのは母でなく祖母。だがその祖母自身は良い母親だったのか。娘と母親の視点の違いに決着が着くのか、そしてお互いをもう一度見つめ直せるのかと問うように映画は展開していく。
小説を「どう描くかが難しい」と常に頭をひねったという監督。ミステリー小説だが、映画のカメラアングルは小津安二郎映画を思わせるぐらい優しく、つい時間を忘れてしまう。特に子どもが階段から降りて両親を見つめるシーンは廣木映画ならではの美しいシーンで、深い印象が残る。食卓のシーン、小道具のデザインやカメラの技術など監督のさりげない演出にも注目だ。
また廣木映画の俳優は演技派が多いが、映画「母性」も例外ではない。母(戸田恵梨香)と娘(永野芽郁)、二人の祖母たちなどそれぞれの演技力に圧倒される。娘の子ども時代を演じた子役俳優は、一切脚本なしで撮影現場で初めてセリフを渡されたそうだ。予想外の展開の中で幼い彼女も自然な表情を魅せる。永野芽郁さん演じる娘のせつなさは見ている人の涙を誘う。
親子の絆
「最近は子どもを巻き込んだ事件が多い」と監督はふと真剣に話した。女性が男性と同じように働くようになったせいか、実家を含む親とのサンドイッチ世代のせいか、近年経済がさらに苦しくなってきたせいか、お金も時間も自由にならないから子育てを怠る母親が増えてきたせいなのか、辛い事件が多いと語った監督の一言に重みが感じ取れた。
映画紹介を読むと、一見暗くて重そうなテーマに感じるが、最後まで見終えると意外にさわやか。むしろもう一度見たくなってしまう。やはり廣木映画は期待を裏切らない。「ぜひ劇場でこの映画を見てください。そして終わったあとにこの映画のことについて話してください」と監督は締めくくった。
この映画のあとに次回作もすでに作り終えている廣木監督。「月の満ち欠け」(原作:佐藤正午)もファンは注目。
廣木監督の舞台あいさつとQ&Aは、10月5日(水)6時と7日(金)9時15分。チケットは、バンクーバー国際映画祭ウェブサイトから購入できる。
Motherhood(母性)上映
日時:10月5日(水)6:00pm、会場:Vancouver Playhouse
日時:10月7日(金)9:15pm、会場:The Cinematheque
バンクーバー国際映画祭(VIFF)ウェブサイト:https://viff.org/festival/viff-2022/
(取材 ジェナ・パーク)
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