アジア系住民に対する差別や偏見に基づくヘイトクライムが北米で急増している。バンクーバーも例外ではなく、バンクーバー警察が2021年2月に発表した報告書によると、アジア系に対するヘイトクライムは2019年の12件に対して2020年は98件。2020年は前年と比較して717%の増加となった。
このような状況の中、ヘイトクライムの被害者が警察に通報する制度について改善を求める運動を、一人のアジア系男性が始めた。
男性の運動と通報制度について前編で、バンクーバー市の通報フォームとブリティッシュ・コロンビア(BC)州の通報ホットラインについて後編でリポートする。
バンクーバー警察のウェブは中国語フォームのみ
警察の通報制度に関して運動を行っているのは、弁護士のスティーブン・ゴーさん(35歳)。
今年4月、車で信号待ちをしていたときに、2人の白人男性から人種差別的な言葉を浴びせられた。フレイザーストリートと41stアベニューの交差点でのことで、驚いて車のウィンドウを下げると、2人はさらにゴミを投げつけたという。
スティーブンさんはバンクーバー警察に通報しようとして壁にぶつかった。
まず、緊急以外の案件であったため「911」ではなく、「non-emergency line」に電話をしたところ、30分待っても電話はつながらなかった。
そこで、オンラインでの通報ができないか、バンクーバー警察のウェブサイトを調べるとヘイトクライム通報フォームは中国語(繁体字と簡体字)しかなかった。「英語のフォームもないので、ベトナム人の父は被害に遭ったとしても電話以外の方法で通報できません」と語った。
「英語が得意でない人にとって、non-emergency lineに電話をかけることは簡単なことではありません。電話をかけることが怖くてできず、通報できない人も多数いると思われます」と多言語での通報フォームの必要性を訴える。
アジアコミュニティ全体で取り組む必要
スティーブンさんは状況打破のため、ウェブサイトを立ち上げた。警察に多言語での通報フォームを用意することを求めるとともに、サイトから同様の考えの人が州政府に改善を求めるEメールを送ることができるようにした。
その活動については、英語のみならずベトナム系やフィリピン系、中国系、南アジア系メディアも報じている。
これを受けてバンクーバー警察では、新たに英語や日本語、韓国語、ベトナム語、タガログ語、パンジャブ語の通報フォームを作成して、被害者が利用できるようにした。運動開始から1カ月以内のことだった。
しかし「バンクーバー警察は多言語対応するようになりましたが、メトロバンクーバーのほかの地域はまだです」と運動を続けている。
ヘイトクライムの被害に遭ったら、もっと簡単に通報できるようなシステムを築くために、アジア系コミュニティ全体で取り組んでいく必要があるとスティーブンさんは考える。「ウェブサイトから州政府に宛ててEメールを送ることができます。賛同してくれる人は送ってください」と日系コミュニティにも呼び掛ける。
最も通報されることが少ないのがヘイトクライム
ヘイトクライムは最も通報されることが少ない案件の一つと考えられている。通報されるのは15~20パーセントに過ぎないいう調査結果もある。
スティーブンさん自身も自分がヘイトクライムに遭ったとき、怒りを感じたあと、恥ずかしいと感じたという。「何か彼らが気分を害することをしてしまったのか?」「運転が悪かった?」「それとも肌の色のせい?」と自分の行動を振り返った。その後、友人たちの助言、サポートがあり、被害者として事件を通報することを決めた。
「バンクーバー警察にはヘイトクライムを担当する部門があり、通報すればきちんと調べてくれます。私のときにも周辺のセキュリティカメラを確認してくれました」と、日系コミュニティにもスティーブンさんは被害に遭ったときには、通報することを勧める。
「警察ではデータも取っています。アジア系コミュニティがヘイトクライムに遭っていることをデータで示す必要があります。そのためにも、被害に遭った人が通報すること、さらに通報の壁をなくすことが重要です」と力を込めた。通報をしてデータで示すことで、政府が迅速に対策に動く可能性もあるという。
スティーブンさんのウェブサイト(Fix Police Reporting)で「Send Support Letter」をクリックすると、 マイク・ファーンワース公安大臣とデイビッド・イービ司法長官に、英語以外の言語でヘイトクライムを通報するためのオンラインフォームを求めるメールを送ることができる。
スティーブンさんが立ち上げたウェブサイト
Fix Police Reporting
(取材 西川桂子)
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