AHL(American Hockey League)アボツフォード・カナックスに平野裕志朗選手が1月5日に加入した。デビュー戦は1月7日地元でのサンディエゴ・ガルズ戦、1月22日には早速AHLで日本人選手初となるゴールを決めた。ホッケー専門メディアやバンクーバーのテレビ局でも取り上げられるなど注目度も急上昇中だ。
日本人フォワード選手としてAHLという未知の領域に挑戦する平野選手に、2月15日、オンラインで話を聞いた。
AHLでプレーする難しさを痛感
ECHLでは今季開幕からリーグ3番目のゴールを稼ぐなどフォワードとして活躍していた平野選手。1月5日にアボツフォード・カナックス入りして7日から試合に出場。2月15日時点で16試合中12試合に出場し、2ゴール1アシスト、ポイント3としている。
‐ 1月7日からアボツフォード・カナックスでプレーして、これまで12試合で3ゴール(実際には2ゴール、1アシスト)という成績だと思いますが、ここまでの自身のプレーをどのように見てますか?
なかなか最初はやっぱり4つめのラインとかで出場することが多くて、アイスタイム的にもあんまりチャンスがもらえない中で、自分の持ち味だったり、できることを見せて、チームでも信頼を少しは勝ち取ることができたので、途中で1セット目とかで使ってもらえることがあって。
ただ、良い意味でも悪い意味でもアジア人として目立つと思うので、やっぱりちょっとでも上のセットでやっていてダメだなって思われるとすぐ下に落とされましたし、本当にアップダウンがあってはいけないんだなァって四苦八苦するような12試合だったと思います。
‐ 1月22日に初ゴールを決めましたが、振り返ってみて、なかなかうまくいったっていう感じですか?
あのときが2つ目のラインで使ってもらった初戦だったので、ここでしっかり結果出さなきゃいけないっていうのも、ずっと考えてました。
ゲームがスタートして10秒で(ゴールを)決めたところも、試合の最初に出るから、スコアは最初から狙ってたんで、すごいいい形でチャンスがきて、チームメート(ニック・ペタン、#7)のパスもすごくよくて、ああいうところで決めきることができたっていうのは大きな収穫かなァって思います。
‐ アボツフォードでプレーして1カ月ぐらいだと思いますが、チームにはもう慣れましたか。チームメートとはうまくやっていますか?
1カ月と1週間ぐらいたって、みんなとはすごいコミュニケーションとれてます。結果がすべての世界なので、 自分が結果を出しているときにはみんな寄ってきてくれますし、そこは自分との戦いなのかなっと思っています。自分からもコミュニケーションはとりにいっているので、結構仲良くしてます。
‐ 今3ゴール(実際には2ゴール、1アシスト、ポイント3)で、まだレギュラーシーズン2カ月ぐらい残っていますが、自身としてはどの辺に目標を持っていますか?
そうですね、この前もちょっと試合に出られないことがあったので、毎試合まず出続けるというのがひとつの第1段階かなっていうのがあります。その中で第2段階として結果を残す、数字を残すことで信頼を得ると思っているので、最低でも残りのシーズンで20ポイントまでいきたいなっと思っています。
ホッケー王国カナダでのプレーは?
‐ これまでスウェーデンとかアメリカのチームでプレーしていますが、カナダは初めてで、カナダのチームでやるというのになにか違いとかありますか?
カナダのチーム……まあ、そんな大きく(違い)はないですね。ヨーロッパ人も、アメリカ人もいるので、元々ECHLのチームでもカナダ人とアメリカ人と半分半分だったので、特にそんなにカルチャーの違いとかはないです。
いつも自分がちょっと変わった存在にいる立場なので、そんな中で新しいチームに入るとやっぱり最初は大変ですね、どこのチームに入ったとしても。なので、そんなに大きい違いはないかなって思います。
‐(アボツフォードの)街の様子とかどうですか。ファンがホッケーのことをよく知っているとかそういうことはないですか?
ホッケーしかしてないんで、あまりあれですけど、ファンの人たちはSNSで連絡くれたりとか、試合の終わりとか、すれ違ったときに「応援してるよ」とか言ってくれたりとか、ほんと温かいファンで。
いま、50パーセントしか入ることができないですけど、日本人の方が来てくれてたりとか、ファンの方々はすごい見守ってくれてて、いい街かなとは思ってます。
アイスホッケー日本代表として
‐ これからもちろんNHLも目指してやっていくと思いますが、日本人ではポジションが違いますけど、福藤(豊)選手(GK)がNHLに在籍した期間がありますが、福藤選手とお話しすることはありますか?
(福藤選手とは)もうずっと日本に帰ったときに子どもたちのスクールとか一緒にやったりして。日本代表の合宿だったり、世界選手権に行ったときとかには常に一緒にご飯を食べたりとかしてます。NHLに上がるまでの環境がどれだけ大変かっていうのは結構自分たちにしか話せないことの一つなので、もちろんNHLの環境とかを聞いたりはしていますし。
でも藤さんが言うのは、前といまは全然違うという部分があって、ポジションが違うというのもあるので、プレーヤーが上がってくのは「裕志朗にしかわからないことだよね」って言ってもらってます。そこはいい情報交換して、いつも一緒にオフシーズンは過ごしてます。
‐ 福藤選手も日本代表で、平野さんも日本代表で、いま北京オリンピック開催されていますが、日本男子のアイスホッケーは4年後のイタリア目指してこれからまたがんばると思いますが、その中でここまでAHLなどでやってきて平野さんが日本代表に必要なものは何だと感じますか?
目標を立てることですね、まずは。どこを目指して日本代表がやっていくのかっていうのがいま明確になってないので。
女子であれば3大会連続出場して1勝もできなかった大会から、次は予選リーグ突破目指して、次はメダル目指してとか、段階的に目指してきたからこそ、いまこういう結果が出ていると思いますし。男子の場合はどこに目標をおいているのかっていうのが明確になってないので、そこは誰かがではなくて全体で共有する必要があるのかなと考えています。
平野選手は2015年の世界選手権で日本代表として初出場、現在ではエースとして活躍している。しかし男子代表は1988年長野オリンピックを最後に出場できていない。一方、女子代表は長野大会後、2014年ソチ大会に出場し未勝利に終わったが、2018年平昌大会で初勝利、今年北京大会では準々決勝に進出した。
ファンへのメッセージ
‐ バンクーバーのホッケーチームに日本人選手が入ってきたということで、これから多くの人が応援に行くと思いますが、メッセージをお願いします。
応援しに来てください、と言うことですね。笑。いろんな地でプレーしてきて、メディアでも取り上げていただいて、現地の人たちが応援に来てくれるのは、やっぱりすごい自分の力になるので。
サインとか、画用紙に名前を書いて「がんばれ」とか掲げててくれると、本当にやらなきゃならないっていう気持ちにさせられます。そういうのはすごいうれしいですし、ぜひ機会があればたくさんの人に来てほしいと思っています。
日本といまやっているレベルの違いがどれくらい大きいものなのかっていうのも、見ている人たちにもわかってほしいなというのもあるので、たくさんの人が見たいと思えるような結果を残していきたいと思います。これからも応援よろしくお願いします。待ってます。
これまで日本人選手ではフォワードでホッケーの世界最高峰リーグNHL(National Hockey League)に到達した選手はいない。AHLはNHL下部組織いわゆる2軍で、NHLへの登竜門となる。そこでまずは、初ゴールを決めた平野選手。ここからが本当の挑戦となる。
ブリティッシュ・コロンビア州は2月17日からスポーツイベントの観客収容人数制限を撤廃した。2月25日からのホームゲームでは、満員のファンが大声援を送るに違いない。
2月は第4ラインでプレーすることが多くなっている。本人が言うようにプロは「実力の世界」。満員のファンを熱狂させるような、平野裕志朗ここにありというプレーを見せられるか? NHLへ向けた平野選手の第1章は始まったばかりだ。
平野裕志朗(HIRANO Yushiroh)フォワード(RW)、#71
北海道苫小牧市出身。1995年8月18日生まれ、26歳。
スウェーデンのジュニアリーグ、アメリカのジュニアリーグUSHL、ECHLウィーリング・ネイラーズでプレー。今季はシンシナティ・サイクロンズで開幕を迎える。2022年1月5日からアボツフォード・カナックスに所属。https://theahl.com/stats/player/7330/73/yushiroh-hirano
アボツフォード・カナックス
2021-22年シーズンからブリティッシュ・コロンビア州アボツフォード市に本拠地を置くNHLバンクーバー・カナックス傘下のAHLチーム。パシフィック・ディビジョン。本拠地はアボツフォード・センター。https://abbotsford.canucks.com/
AHL(American Hockey League)
NHL(National Hockey League)下部組織の北米ホッケープロリーグ。全31チーム。アトランティック、ノース、セントラル、パシフィックの4ディビジョン。優勝杯はカルダーカップ(Calder Cup)。https://theahl.com/
(取材 三島直美、写真提供 Abbotsford Canucks)
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