「日本の男子ホッケーのために」カナックス平野選手、アボツフォードを離れる

試合後の会見のあとで。2022年3月13日、アボツフォード・センター。Photo by ©︎Koichi Saito/ The Vancouver Shinpo
試合後の会見のあとで。2022年3月13日、アボツフォード・センター。Photo by ©︎Koichi Saito/ The Vancouver Shinpo

 今年1月からアボツフォード・カナックスでプレーしてきた平野裕志朗選手が、プレーオフを目前にチームを離れることになった。4月9日にアボツフォード・センターで行われた試合を最後に今季はカナックスとしての戦いを終え、新たな戦いの地へと向かう。

誰も経験したことがないAHLプレーオフを蹴ってでも日本代表入りを決意

 「日本代表から話をもらったときに、すごい迷った」と言う。ここまでAHL(American Hockey League)アボツフォード・カナックスでプレーし、3月に入ってからはレギュラーで出場。第1ラインも任されるようになり、チームでも存在感を現してきた。カナックスはすでにプレーオフ進出を決めている。

 「個人だけのことを考えたら、AHLというあこがれの舞台でここまでなんとか乗り切って、チームにステイして、今レギュラーとしてしっかり出続けられてて、チームからも期待されている状況で、なぜわざわざ、そこの道を蹴って、日本代表に参加するのかっていうのは、自分でも結構悩んだ」と明かした。来シーズンAHLでのポジションが保証されているわけではない。

 それでも日本男子アイスホッケー界のことを考えると、今回は世界選手権出場が必要だと決意した。

 日本は4月26日からポーランドで開催される2022 IIHF男子世界選手権ディビジョンIグループB(国際アイスホッケー連盟主催)に参加する。平野選手は4月12日にチームに合流し、13日からスロバキアで合宿が始まる。今大会の目標は「もちろん優勝」だ。

 アイスホッケー男子世界選手権は、カナダなどのトップ16チームが戦う大会を筆頭に、その下にディビジョンIグループA、次いでグループB、さらにディビジョンIIグループA、B、同IIIグループA、B、同IVがある。上位大会で最下位のチームはすぐ下の大会優勝チームと入れ替わる。

 ディビジョンIグループBは今回、強敵リトアニアが参加しないため、日本にも大きなチャンスがあるという。最大の敵はポーランド。「全部厳しい試合にはなると思いますけど、今回たまたま生まれたチャンスというのをやっぱり逃してはいけない」という思いが強い。

 「日本が今回の大会で優勝できなかったら、日本の(男子)アイスホッケー界はほぼ終わりだなというくらい、今回の大会は大事だと思っていています」と平野選手。「AHLの試合を捨ててでも、誰もやったことがないプレーオフっていう時間を捨ててでも、それくらい今回勝ちたいという気持ちが強くて、心にずっとあったので」。日本の男子ホッケーをなんとかしたいという思いがにじみ出る。

 世界選手権ディビジョンIグループBは4月26日から5月1日まで開催される。

AHLのホッケーを日本代表に伝えられたら

 ここまで北米で経験したことを、この世界選手権で日本代表チームに伝えたいと意気込む。今大会の目標は優勝だが、それはあくまでも通過点だ。

 「とりあえず今回は優勝して、しっかりグループAに上がるということ。そこから1回上がっただけで満足せずに、(トップ争いが)できるようなチーム作りを」と日本男子ホッケー界の目標を語る。

 「(目標を立てるのが)今でも遅いくらい」という厳しい見方もしているが、「今後数年単位でどこを目指して10年後には何をしているのかというのを、自分だけの考えではなくて、チームとして、選手たち、スタッフ、連盟、すべての人たちがどこを目指しているのかっていうのを、理解するための今回は大会だと思っています」。未来を見据えた男子ホッケーにとっての分岐点ともいえる大会にとらえている。

 そのためにもAHLで経験したプレーの違いなども伝えたい。「プレースピードという部分では、ほんとに違うスポーツっていうくらい違うと思うので」と平野選手。「ひとつひとつの細かいプレーにしても、日本ではそこの失敗が気にされてなくても、こっちではひとつの細かいところで試合に出れなかったりとか出れたりとか、そういった選手たちがいっぱいいるので」。そうした部分を口頭ではもちろんだが、「プレーとしても見せていけたらなぁって思います」と自身が体験した一つも二つも上のプレーを日本代表にも浸透させていきたいと意欲をみせる。

 チームが一緒になって同じ方向を向いて行くことが大事だと感じている。必要なことは「自分の方からもしっかりと口に出して、そういったものを発信していけたらなと思います」。

来季について

 平野選手は今季のアボツフォード・カナックスとの契約はこれで終了する。「自分の心としては、プレーオフに戻ってくるつもりだった」という。プレーオフに自分が出ないとしても経験したかったと語った。だが、競争が激しい若い選手が多いチームで、NHL(National Hockey League)バンクーバー・カナックスから選手が来ることも予想される中、その願いは叶わなかった。

 それでも来季については「前向きに話していこう」と言われている。シーズン終了後に交渉が始まるという。

 今季初めてAHLをバンクーバーで経験した。「ほんとにリンクにサインとか掲げて応援してくれた人たちには感謝していて、そういった応援で、自分の立場、ポジションというものを確立してこれたと思うので、応援には感謝してます」。

 カナックスでは30試合に出場し、5ゴール、7アシスト、12ポイント。目標の20ポイントには届かなかったが後半は主軸として活躍した。

 「どこでやってようと日本人なので、日本の方々は応援してくれるのではないかなっと。みなさんにまたいい姿を見せられるように準備して、来シーズンこのリーグに帰ってこようっと思っているので」と来季の活躍を約束し、「これからも応援よろしくお願いします」とファンにメッセージを送った。

(取材 三島直美)

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